第9話 本当の死因は
警告:グロ表現及び屍体有り。何なら、屍体メイン
又、同じ人物に複数の呼び名が使用されております。【豹ヶ崎】=【濱家】、【一】=【佐宮】
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ギシギシと吊り下げるロープを軋ませて、先にある革のベルトで首を吊った【恵居】がゆっくりと左右に揺れている姿は、【豹ヶ崎】の精神を揺さぶるのに十分な物である筈だった。
滑車はモーターで巻き上げる仕掛けの様で、下にある浴槽らしき場所に転がっているリモコンで操作出来ると思われる。
足場は同じく、浴槽らしき場所に倒れる脚立だろう。
異様に伸びた首は皮膚が細かく裂ける事無く伸びており、両眼は大きく見開かれて飛び出しそうになって、半開きの口から青痣の様な色の舌が垂れ下がっていた。
【豹ヶ崎】はぶら下がっている【恵居】に接触しない様に、更に観察する。
腐敗した様子は見えない。つい先程首を吊った様に感じる。
縊死した場合、筋肉が緩んで排泄物が漏れ出すと聞いた事があるが、その様な汚れや臭いは股間辺りやズボンには無い様に見える。
浴槽らしき物は、設置されている物を含めて良く手入れされている痕跡があるが、【豹ヶ崎】の獣人故に鋭敏な嗅覚が、マスク越しでも拭い切れない生臭い鉄錆じみた臭いを嗅ぎ取った。
その辺りで、何となくだが【屠殺】と云う単語が思い浮かぶ。もし此の浮かんだ想像が正しいならば、確証は無いが此の中で、何かの動物を吊るして血抜きや解体を行っていたのだろう。
ならば、冷蔵庫は解体した肉を保管する為か?
【
白い冷気が流れ出し、萎びた野菜や中途半端に残っている調味料の他に、これがメインだとでも云う様に、ラベルらしき四角い白地のシールの様な物が貼られた、ラップに巻かれている赤みと白い筋が入った肉が幾つも並べられている。
大きさや形状も違うそれの一つを【豹ヶ崎】は手に取って確認する。
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2015/9/21 ミヤガワ レイコ
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嫌な想像が脳裏に浮かぶ。そして、その想像は恐らく正しい事を直感的に感じていた。
(嗚呼、つまり
精神的な安定が揺らぐ。正気を失う程で無くとも、それは確かに【豹ヶ崎】を狂気へと近付ける。
冷蔵庫の中に詰まった他の肉も、恐らく似た様な物なのだろう。【豹ヶ崎】の中に胸糞悪い物が湧き上がる。
「行きますよ。【濱家】さん」
「……はい」
水の入ったバケツを持った【一】に、【豹ヶ崎】は沈んだ声で返事をする。其の様子に【一】は一度肩を竦めると、仕方なさそうに声を掛ける。
「気にするなとは言いませんが、出来るだけ早く受け入れて、動ける様にして下さい。そうでなければ、次は自分なんて事になり兼ねないので。
そして、再度言いますが、【何か、気になる事があれば、質問をして構いません】よ。あれば、ですが」
【豹ヶ崎】は【一】から受けた言葉、特に後半について考える。
少し考えて、【豹ヶ崎】は其れを聞いた。
「【佐宮】先輩。
【一】はニッコリと笑うと、其の
「
【豹ヶ崎】はその
その行為が、入念な準備を整えて確実に目的を達成する為なのか、忍び寄る自身に怯える姿を愉しんでいたのかは分からないが、標的を追跡して住まいを把握していた事は確実に思える。
そして、其の哀れな標的の末路が、此の一人暮らしには不釣り合いな冷蔵庫に幾つも収められた肉塊なのだろう。
【豹ヶ崎】は此の時点で、只【恵居】の本当の死因を探り当てるだけでは無く、【恵居】について知る必要があると判断した。
一先ず、表向きの作業をする為に【一】と共に玄関に戻って、鞄から取り出した雑巾で濡れ拭きを行い、汚れを拭き取っていく。
「中を開けて掃除する必要は無いと伝えられていますが、別にしても問題ありません」
【豹ヶ崎】は其の言葉を、中を開けて調べても問題無いと云う意味だと解釈した。
とは云え、それは好き勝手に荒らし回って良いと云う訳では無いだろう。何か目的に辿り着きそうな物を見付け出し、無関係な物には触れない様に心掛ける。
下駄箱には【恵居】の物らしきスニーカーやサンダルが幾つかあり、隠す様に入っていた箱には車の物と思われる鍵があった。
先程、ダイニングに移動して感じた事だが、どうやら入った時に感じた強烈な腐臭は玄関、更に云うならば屍体があったであろう三和土の一部が発生源である様に感じた。
其処で違和感を覚える。
何かが引っ掛かる感じに【豹ヶ崎】は少し考えて、そして思い出す。
・【各部屋に存在する自殺の痕跡と、其れによる劣化しない屍体(注意:屍体に触れない事)】
車内で見た資料にあった記述の一つ。
ダイニングにあった屍体は、間違いなく此の一文に該当する屍体だ。事実、先程死んだばかりの様に腐敗の兆候すら見えない自殺体だった。
勿論、やろうと思えば第三者によって同じ状態に出来るかも知れないが、その可能性は低いと見て良いだろう。
「【佐宮】先輩。死因が分かりました」
「お?では答えをどうぞ?」
「対象……、【恵居】の死因は【玄関で何者かに刺された事による失血死】です」
「まぁ、及第点って所でしょうかね?」
【豹ヶ崎】が示した答えに、【一】はまぁ、そんな感じになるよな、と云った軽い雰囲気で評価を返す。そして、其の様子はとても満点に近い回答では無く、本当に及第点相応の答えだった事を示している様に思えた。
「及第点ですか?」
「えぇ、だってそんな事は
まぁ、それにしては出血した事で出来る筈の血溜まりが小さいとか、色々ありますが、異常抜きで考えるなら、まぁ妥当な範囲の回答でしょう。
だから、及第点止まりですよ。【濱家】さん」
『だから、もっと此の部屋について調べなさい』
【豹ヶ崎】は、自身を見返して満点にはまだ足りないのだと笑う【一】の笑みの中に、そんな言葉が副音声として聞こえた気がした。
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