通勤電車で見る夢【KAC2025】

白鷺雨月

第1話 通勤電車で見る夢

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 朝早くの電車に僕は乗っている。時刻は午前6時を少し回ったぐらいだ。

 この電車に乗り、僕は毎日会社に通勤している。もう少し遅い電車でも間に会うのだが、そうすると通勤ラッシュにまきこまれるので、僕はこの時刻の電車に乗ることにしている。

 当然ながら、朝早くて眠いので僕は電車内で寝ることにしている。

 毎日同じ時刻の同じ車両に乗っているとだいたい見る顔ぶれは決まっている。

 ジャージ姿の女子高生が二人いる。きっと彼女らは部活の朝練なのだろう。キャッキャッと楽しそうに話している。

 派手な服を着た派手なメイクの女性は恐らくキャバ嬢だろう。仕事帰りの様でうとうとしている。確かに美人だが、安月給のサラリーマンには関わり合いのない人種だ。

 一心不乱に携帯ゲーム機を見つめて、ゲームをしている大学生らしい男子が車内の端にいる。

 作業服を着た中年男性が車窓から外を見ている。これから現場に向かうのだろう。

 座席が余っているのにギターを背負った青年はドア近くに立っている。

 僕より少し年上ぐらいの女性は座席でメイクをしている。あんまり褒められた光景ではないな。まあ、人ごとだけど。

 最後の一人はお嬢様風のワンピースを着た若い女性だ。彼女はいつも本を読んでいる。いったいどんな本を読んでいるのだろうか。



 僕が車内でうっすらと眠っているとまたあの夢を見た。薄暗い部屋で僕はベッドに眠っている。

 髪の長い女性が僕に何かを話しかけているがよく聞き取れない。

 実はその夢を見るようになってから不思議なことが起こり始めた。

 一回目に見た次の日、通勤電車でよく見るメンバーが一人減った。

 ジャージ姿の女子高生が一人でいたのだ。まあ、そういうこともあるだろうとこの日は思った。

 二回目にあの夢を見た日の朝、ジャージ姿の女子高生は二人ともいなくなっていた。たぶん朝練がなくなったのだろう。

 三回目に見た朝は派手な女が消えた。キャバクラが休みなのだろう。

 四回目に見た朝はゲーマーの大学生いなかった。

 五回目に見た朝は作業着の男性がいなかった。

 六回目に見た朝はミュージシャン風の青年は乗ってこなかった。

 七回目に見た朝はいつもメイクをしていた事務員っぽい女性がいなくなった。

 さすがにこれはおかしいと思い始めた。

 電車内がガラガラだ。

 八回目に見た朝は黒髪の文学女子だけだった。

 僕がいつものように座席に座りうとうとしているとその文学女子は本を閉じ、立ち上がる。

「お兄さん、私はこの電車を降りるわ。あなたも早く降りた方がいいわ。お兄さんを待っている人がいるんでしょう」

 その文学女子は次の駅で降りていった。


 そして僕はあの夢を九回見た。

「起きて、裕太君起きてちょうだい」

 それは悲しげに僕を呼ぶ声であった。

 あのいつも夢に出てきていた女性だ。

 そこで僕ははっと気がついた。

 僕は夢を見ていたのではない。これがすべて夢だったのだ。

 あの日、いつものように電車に乗り居眠りしていたらサバイバルナイフを持つ男が乗ってきた。

 そいつは次々と電車に乗っている人間を刺していったのだ。そして僕も刺されて意識を失った。


 目を覚ますと彼女の美希が僕に抱きついてきた。久しぶりに感じる彼女の肌は温かい。

「良かった良かった。目を覚ましてくれて本当に良かった」

 どうやら美希が毎日呼びかけてくれたおかげで僕は意識を取り戻すことができたようだ。

 ありがとう美希。

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通勤電車で見る夢【KAC2025】 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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