第8話リリス
「……イト! ……ずい、リリス呼べ!」
館が騒がしくなっている。
そんな喧騒で目が覚める。
「……う……そ」
私が目にしたのは変わり果てたケイトの姿だった。
内臓がもろに飛び出し、左腕は真っ黒に炭化して、全身に酷い火傷を負っている。
「クソ! リリスはまだ?! 私の置換魔術での止血じゃ限界がある! 早く……」
アキルがケイトの側で手をかざしている。
確かに傷に対してケイトの出血は僅かだ。
だけど、こんなの助かるわけがない。
「全く、何事かと思えばかなり大事じゃないか? アキル、変われ」
そう言って突如現れた少女がケイトの側に立つ。
そして、ケイトに触れた。
「この程度の傷で良かったな。パーツが残っていれば私は治せる。だが、相変わらずケイトは頑丈だな」
少女が触れた所からケイトの傷が治っていく。
まるで時が巻き戻るように。
「……時間遡行の魔術ね。それもかなり高等の」
「分かるか、アキル。これでも長いこと生きているんでね趣味で覚えた魔術もたまには役に立つ物だ」
アキルと少女は意味不明な会話を続ける。
けど、そんなことはどうでもいい。
ケイトの傷は殆ど治った。
だけど、ケイトは目を覚さない。
「……ふむ、意識が昏倒しているようだな。私には治せん。まぁ、身体は治したから死にはしないだろうよ。そのうち起きる」
そう言って少女は踵を返して近くにいたグレンの元に歩み寄る。
「部屋のベッドに寝かしてやれ。それくらいはできるだろ? グレン」
「……言われなくてもやるっつうの」
そうしてグレンはケイトをお姫様抱っこしてケイトの部屋に運んでいった。
◇◆◇
「…………」
「グレン……」
グレンはケイトが寝ているベッドの横に椅子を持ってきて座っていた。
けれどその顔はすごく険しかった。
「ローズか、どうした? まだ痛むところがあるか?」
「いや、大丈夫。グレンは———
「またか、グレン」
会話を遮るようにさっきの少女が現れる。
「リリス……助かったよ。お前がいなけりゃケイトは死んでた」
「だろうな。あれは人では治せない。まぁ、そもそもキミが治す理由はないだろうが」
「……どう言う意味だ?」
「前から思っていたんだがキミとケイトの関係は歪だ。片や人を救う医者であるキミ、片や人を殺す装置のケイト、キミたちの関係は矛盾している。キミはケイトが傷つくといつも治療しているよな。だが、それはキミの理念である『人を救う』行為から逸脱した事だ。何せ治してるのは殺人鬼、君の対極に位置するものだ。何故彼女を治す?」
「…………」
グレンは少し黙った。
少女……リリスに向けられるその視線は殺意に満ちていた。
「目の前に救える命があれば救う。それだけだ」
「それが命を奪うものでもか?」
「…………」
「ダンマリか、やはり歪んでいるなキミは。彼女に特別な感情を抱いているんだろう?」
「は、はぁ?! 別にそんなんじゃ……」
「そうでなければ説明がつかない。キミは彼女に生きていてほしいと思っている。いや、それ以上の感情を抱いている。人間的に言えば恋愛感情辺りか? まぁ、キミの好きにすれば良いが、私からの忠告だ。長い間生きてきたが対極に位置するもの同士の恋愛は大体悲愛で終わるぞ」
「だから、違うって……まぁ、いい。で、お前はこれからどうするんだよ、リリス?」
そう言っているグレンの耳は少し赤らいでいた。
そうしてリリスは不敵な笑みでこちらをみる。
「そうさな、ローズと言ったっけキミ。キミが気になるな。人間が作るデザイナーベビーがどのようなものか気になっていてね」
「……さっきから言い方がおかしい。まるで自分は人間じゃないみたいな……」
「そりゃそうだろ。事実私は人間じゃない。そもそも魔術を使っている時点で人間離れしているのは分かるだろう? まぁ、アキルと違って私は純粋に人間じゃない。キミたち風に言えば宇宙人、と言ったところかな」
そんな事をさも当然のようにリリスは語る。
宇宙人……理解が追いつかないが確かにリリスは普通の人間ではない。
それはそれとして……
「私は嫌だ。純粋にお前が気に入らない」
事実を口にする。
グレンに対する態度から気に入らなかったが今はっきりした。
私はコイツが嫌いだ。
「おや、フラれてしまった。まぁ、いい。なら下の死体を何体かもらっていくとしよう。ではな」
そう言ってリリスは煙のように消えていった。
「グレン、私アイツ嫌いだ」
「まぁ、悪い奴じゃねぇよ。ただ人の心がわからない上に地雷を踏み抜いていくのが大好きなだけだ」
「尚たちが悪い……それよりグレンは師匠が好きなのか?」
「なんでお前まで……別に嫌いではねぇよ」
「はぐらかされた」
まぁ、グレンのさっきの反応を見るに多分ケイトの事が好きなんだろう。
あんまり意地悪すると次治療してもらう時何されるかわかったもんじゃないからこの話題はやめだ。
今はケイトが目覚めるのを待つとしよう。
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