第6話 追憶──学園封筒──伍苦楽上等
……やはり何事もなく過ごすこと数日後。数日というか一日しか経過していないのだが。まあ特に何と言ったこともなく極々普通の受験生らしく自宅勉強をしているわけだ。夏期講習くらいには行くべきだったのかも知れないがそんなことは今となってはもう遅いな、とか思うばかりである。
「で、なんでお前はこうもこんなに暑い日に外に出ようと思ったんだよ」
灰色の空の隙間から狙うように差し込んでくる直射日光。
「いやだってくじ引き全部無くなったら大変じゃん……」
「そもそもああいう景品転売とか駄目だろ?」
「金銭的利潤が発生しない方法とるからいいんだよ!……って兄いにそんな事話したっけ?」
思わず口走った突っ込みというかただの事実に俺はあの時の恐怖を覚える。まだ、大丈夫だ、そう言い聞かせて俺は歩みを進める。スズの家の前に着く、向かう前に電話をしたし、ひいろの家に関してはモールの直ぐ近くというわけでいつも3人プラス我が妹でこんな感じで向かうのである。
「お前が日常的に考えてる事だからだろうが」
「唯一の同居人にそんな目で見られていたとは……ショックだねえ」
「知るか、せいぜい生活態度を改めるんだな」
「深夜までゲームに没頭している兄いには言われたくないね。私はパズルゲームメインだから、全然よしとしてね」
絵に書いたような自分のことを棚に上げる、だな……。
「へいへい、そうかよ。ほら着いたぞ〜」
結局あの封筒を手の込んだいたずらで済ませて今日この日。
彼女は家の玄関前で笑顔で手を降っている。紅と蒼の目、白金の髪笑いかけながらこちらに歩いてくる。何はともあれ、彼女が普通に生きて俺達のことを待ってくれていたと言うだけで途轍もない安心感が身体を包む。さっきまでジリジリと身体を焦がしてきていた太陽は雲に隠れて俺達は意気揚々とモールへと足を運び始める。そして、そのまま俺達はバスに乗ってくじ引きのための買い物を……。
まあ、別に買いたいものが無いわけではないから行っているだけなのだが。あ〜アレだ、別に妹から手伝った分的な金銭的何かを要求するつもりは微塵も横から見たらヒヨコに見えるあの動物プランクトン(ミジンコ)ほども無いという事は先に言わせてもらう、これは断じて名誉のためだ。
夏場のバス停、外を歩きなくないけれど外出はしたいという思考は誰もが同じものであるように長蛇の列を作っている。その空間だけ異様に熱気を放ち、涼しく早く移動したいという本来の望みとは正反対もいいところ、そんなザマ本末転倒の通りであるのだが。
───やっとの思いで乗り込んだバスの中が涼しいというわけでもない
断じて、である人口密度というものはそれなりの熱を生み出す。そしてそれらが暑い場所から来た人間達であるのならば尚更。クーラーの近くの立ち場所をギリギリのタイミングで確保した俺はどうにかこうして揺られるように立っている。
頭が徐々に冷えていく、一昨日のあの封筒が届いてからというもの変な風に身構えてしまい禄に心を休められなかったからな……。今となっては暇人のように二人に他愛のない連絡を寄越しすぎていたような気もする。普段から俺自身は誇るべき暇人としてのびのびと生活している故に付き合いの長い二人なら多めに見てくれているだろうと思うだけで気が楽だ。
そんな風にゆらり揺られること約20分……。束の間の移動式オアシスは俺達を常夏リゾートならぬ灼熱リゾットのようなアツアツの地面の上に置いて去っていく。
少し先では満を持して涼んでいたであろうひいろが俺達を待つ。リュクを背負って誰かと電話をしている。こちらに気付いた彼はリュックから何かを取り出して三本の何かを取り出して獲物を狩る動物よろしく駆けてくる。
後ろに揺れる彼の長髪が靡く……もはやサムライ……。
縮地の如く素早い動きで目の前に現れた彼は手元にその3本の何か、もとい熱中症対策用のドリンクを寄越す。
「ん、ありがと」
「どうも〜」
「おお、ありがとうな」
毎回ではないがこれもまた割と普通な彼の俺たちの出迎え方である。因みに秋は芋羊羹、冬は缶のおしるこ、春はさくら餠である。
そう、夏だけ何故か和が消えるのである。理由は特に聞いたことはない。
まあ、それはどうでもいいといえばどうでもいいのだが。
「よくぞおいでませ」
彼は笑顔でそう言った。
「俺、参上。だよ」
いやあ、それにしても涼しい涼しい。バスのクールダウンとひいろの過保護、そして何処までもクーラーの聞いたショッピングモール。本当にありがたい限りである。
さてさて、これから始まるのは涼しい涼しいショッピングって……何か欲しいものってなんだっけ、何かあったような気がするんだが。悪夢みたいな光景がただの悪夢無で終わったこともあり余計に落ち着いて記憶も吹っ飛んじまったみたいだ。
「なあ、スズ。俺が欲しいなって思ってたものって何だと思う?」
「ん?何?新手の告白的なアレ?」
彼女は真顔で俺の方を向いてこんな事を聞いてくる。
「だ〜れがこの年で結婚指輪プレゼントだ」
やるとしてもそれなりに金を持てるようになってからだ。
「ふっ……瞬時に彼女の思考を理解して即座に言葉を返すとは、流石はさきとくん」
「ああ、そうだ流石のいつも通りだぜ」
自覚はしているが特に褒められるような場面でも何でも無いとは思うのだが。そんな他愛の無い会話。多分中身はなんでも良かったのだろう、そして俺等をそんな状況に連れてきた張本人は同行しつつも会話に混ざること無く辺りを手当たり次第に動き回っている。
「今日はいそがしそうだけどどうしたの?遡行 ちゃん」
「あ、二人には直接は言って無かったね。まあ基本的に兄いとスズ姉を人間としてカウントした時、今回3人をこの場に呼んだ理由はですね……」
と、余計な一言二言と共に俺に話したのと同じ様に何を隠すことがあるのかと言わんばかりに、公衆の面前で碌でもない解説を始める。
俺は既に聞いた話である、と近くのベンチに座り込んで暇人として他の客の同行を無気力に死界に入れる……。そんな中でひと際俺の記憶を刺激する何者かが此方を向いて───
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