第5話 追憶──学園封筒──肆を繰り返すその道は
口の中に酸味が残る……寝過ぎた時みたいに頭が痛い。自分の首元をさすってどうにか身体を落ち着かせる。長期休暇によくある今日が何曜日だか何日だか、わからなくなる現象。時間の流れというものが俺の身体に流れ込んでくるような数秒立つ毎に感じる悪寒。
「ふぅ───」
3人で頭を寄せ合うようにしていた勉強机から少し離れ、テレビを付ける。番組が切り替わる時間帯だったのか見慣れたCMが流れてくる。それを見ながら、俺は無気力にぼうっとソファーに深く座り込む、スズが隣に座り込んで俺の顔を覗き込む。確かに生気のある生きている面持ちで、心配するように。
暫くするとニュースが始まり、
そして、インターホンの音が鳴る。
「……は?」
あまりにも見たことのあるような光景。数日前と全く同じタイミングでインターホンが。
「さきとくん?ほんとに大丈夫?」
「あ、ああ……いい大丈夫だ。俺が取ってくる」
玄関の扉を弱々しくを開ける。ゴンッと頭が扉にぶつかる音がする。
「へぐぅッ……てて」
リビングから玄関までの廊下の灼熱の道をさらに焦がすように空から太陽が睨みつけてくる。扉を開けて数瞬と経っていないのにも関わらず間違いなく
「あ……すみません……」
「いえいえ……次こそはドアの間合いに入らないようにしなければ……」
ショートヘアーに暗めの黄緑の帽子を深々と被る小柄女性がえへへ……と苦笑いする。あ、そうだ!と手を合わせてから彼女は銀色の二通の封筒を手に持ってそんな事を言う。
「見せたいものがあるんですよ」
というかお届け物なんですけどね。すみません……これ配達する始めてなものでつい興奮してしまいまして。
「それは……」
心配して着いてきただろうひいろが俺の後ろに来て、俺よりも早くその封筒を見つける。そして、その配達員は手元に持つ二通の表紙を確かに見て話を続ける。
「ひいろさんの家にも届けました封筒、それのさきとくん宛とスズさんの分」
「それと、なんでしたっけ?あそうだ……おめでとうございます」
そして、その小柄な配達員は俺に二通の銀色の封筒を差し出して颯爽と去っていく。再び転んでもう一度立ち上がり……。
廊下に戻るとひいろはぽつりと言葉を漏らす。
「やっぱり二人のところに届いちゃったか……」
「は?やっぱりってなんだよ!!!」
「えっ……どうしたんだい急に、というかさっきから具合悪そうだし……」
ひいろが困った顔をする。
「い、いや……いい、大丈夫だ。大丈夫だから。ごめんな、大声だしちまって……。もしかして、やっぱりって。お前の場所にもこの封筒が届いたってことか?」
「ああ、そうだよ。名推理だねさきとくん。キミの”エルキュール・ポアロの師匠”という二つ名は伊達じゃない」
「俺は伊達メガネも持ってなければ推理すらもしてねえよ」
まさかコナン・ドイルじゃなくてアガサ・クリスティーの方を選ぶとはな。
「まあいい、さっさと中身を見ちまおうぜ」
これで、先程見た悪夢みたいな光景が事実であるか否かの判断に近づくというものだ……。脳天気な彼のセリフになんとも平常心を取り戻す。
が、俺は彼女に封筒を渡しそれを開けてすぐに中身を確認する。
「嘘だろ……」
その白に印刷された黒字は一言一句同じ様に、あの時と同じ様に全く同じ様に何ら変わりもなく。事実を述べる。
───権利の放棄は不可能とし、それと同時に権利の放棄はこの世界に於ける生命活動の放棄と見做す。
俺が真っ先に読み上げた場所を探したスズが困惑したような表情でそれを目で追う。
「いたずら……だよね?」
「僕のは昨日に家に届いたけどまだ読まずにいたんだけど、まさかこんな事が書いてあるとはね……」
「ああ、そうだよな。本当にそうだよな……」
試験官に殺されないように……。
「ま、まあ!何かあったら私が二人のことを守るからさ!」
自信ありげな表情とともに自信の全く篭っていないそんな顔で彼女は俺達の方を向いて笑う。まだ……まだだ、今までいつか俺にも能力が発現して面白くもない勉強じゃない場所で、学園で活躍する、そんな夢を見ていた。それが受験勉強との疲れに合わさって……。
後ろでまとめた自身の長い髪を触りながらひいろは俺とスズに向かって言う。
「夏休みが終わるまで……、一緒に生き抜こうね」
「うん」
「ああ、そうだな」
死という至って聞き慣れた単語。そして現在当たり前のようにしていることの全てが瞬時に終わる現象。実感が無い、とかいう話ではなく、事実としてそれを感じ取ることが出来ない……そんな現象。
近年能力者が増えてきたとはいえどそれほど多くの人間がそうであるわけではない。学園と呼ばれる施設も一般人の学校と比べれば数には圧倒的な差がある。そんな中でふつうの学校に通う能力者も少なくはない。スズがその良い例だ、そして今日がスズがその学園へと行く機会を得るチャンスと同時にあの得体の知れない現象に大幅に近づく原因。
手に持つ封筒と同時に彼女が視界に入ると頭の中にあの赤い光景がフラッシュバックする……。
ガチャリ、玄関の扉が開き誰かが部屋に入ってくる。試験官か?こんなに早く?……。学園はそこまで狂った場所だって言いたいのかよ。ソファーから強く立ち上がって俺はリビングの扉を見つめる。
「あ、ただいま」
サイドテールの少女……
「3人ともどしたの?一応受験生なんでしょ?」
「ねえ」
と、言葉を続ける前に俺達は示し合わせたわけでもなく封筒を彼女の視界から瞬時に外す。
「流石に勉強ばっかは疲れたでしょ〜。兄い達は去年なんかずーっとゲームしてたじゃん。あれ?一〜二週間くらいはどっかに行ってたんだっけ?まあいいや」
「そんなに暇そうにしてるならさ、明後日くらいにはさ、たまには外に出て買い物にでもいかない?」
───ハワイ行きの旅行券のくじ引きやるから!!!
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