第4話 追憶──学園封筒──參劇の始まり
太陽の下、暑い日差し。唸るうように下を向いて熱を帯びた空とコンクリートの間をゆっくりと歩く。住宅の塀で出来た影やコンビニに立ち寄りながらスズの家へと向かう。暫く外出していないだけでこうも恩恵であるはずの太陽光が猟奇的に感じることが出来るのか。
「あっつ……」
「ねえ本当に……。なんでこんな日に外に出ようと思ったわけえ?」
「お前がハワイ行きの旅行券を転売したいっつったんだろうが……」
しょうもない会話を挟み、一軒家。スズの家電話はしたし家には居るはずだろうが。デカい門の影に入りインターホンを押す。
「………」
寝てるのか?インターホンからは答えは帰ってこない。遡はうなだれるような顔でもう一度。カチというボタンの音とピーンポーンという聞き慣れた音。
「……」
返事は帰ってこない……。
「いや、まさか……」
外の熱気に頭がおかしくなったのか、俺の脳裏に勝手にはあの”学園”の要項が流れ込んでくる。まだ、まだ何も起こっていないのにも関わらず、俺の手元は震える。ジーンズのポケットに入ったスマホに伸ばそうとした手が変に動く。
「ど、どうしたの?兄い」
「い、いや別にどうってことはない……。どうせ寝てるんだろ……流石に電話すれば起きるよな?」
宿題終わったって言ってたしな。深く息を吸って……「大丈夫だ、何も無い、まだ何も起こっていない。封筒なんかでそんな事が起きることなんてありえない。そもそも遡の言っていた通りだ……きっと。俺は電話のアプリを開き彼女に電話をかける。数分前みたいにいつもみたいに柔らかな声で返事が返ってくる、その筈だ」無理矢理自分に言い聞かせる。
スマホを耳に当てて息を凝らす。誰もいない公道、静寂に満ちた夏の住宅街。蝉の鳴き声すらも聞こえない。もしかしたら遠くに見える雲を動かす風の音が聞こえてくるかも知れない。そんな風に……。
『お……』
彼女の声が返ってくる。だがその安堵も束の間。
『お電話いただきありがとうございます。只いm……』
留守電に録音された声。冷や汗と焦燥感が同時に襲ってくる。
「兄い、スズ姉に嫌われるようなことでもしたわけ?」
「んなわけあるか」
が、もしかしたら俺は今からそんな行動に走るかも知れない。ひいろも俺もスズも親が忙しい割に仲が良かったからこそ昔から付き合いがあったわけだが。
「遡、少し待っててくれ」
俺はそう言うとフェンスを超え、庭を駆けて木を登る。よくここで遊んでいたときの二階へつながるルート。思わず地面に落としたスマホを後に駆け上がる。新緑の葉が太陽に照らされはらりと落ちる。二階、スズの部屋の窓の前。
カーテンは開いている、そしてその先には彼女のベッドの上で横たわったスズ……。赤い液体が流れ落ちる。太い枝からベランダに飛び移って窓を叩く、返事はない。どうして、なんで、死んでいる?そんなまさか有り得ないどうして……。
「は……あ……」
もう生気の宿っていない目がだたりと此方を向く。彼女のお気に入りの服が赤く、赤黒く。
「死んで……」
俺は目を見開いたまま暗い部屋で横たわる彼女の姿を見つめる。もうこれ以上に言葉を放つことが出来ないように俺の身体は動かない。部屋の中にいたであろう人間が窓をガラリと開く、部屋の中の冷気が流れ込んでくる。冷や汗から更に温かみを奪い俺の心まで染み込んでくる。
影が差す、一人の男が俺の横に立つ。ガサツな喋り方で馴れ馴れしく、俺の大切な幼馴染を殺した犯人と思しき人間は。この真夏に分厚い黒のジャンパーを着込んで体型どころか顔も見えない徹底さ。得も言えぬ中性的な声で俺に向かって話しかけてくる。
「悪いね、これでも英雄として人殺しをするのは良いことじゃないって分かっているつもりではあるのだけれど。まあ殺人って相手が人間じゃないと通用しないわけだし……。いいや」
「おまえがやったのか?」
自分でも驚く程に勝手に体が動く、左手が既にその人間の喉元へと。が、男はその暑苦しい衣服の中から気持ち悪いくらいに涼しい声を放つ。
「うん、戦闘の意志アリ。評価の対象にはなるよ」
俺の腕を軽く躱すと囁くように耳元に。
───でもまだまだ”学園”には遠く及ばない。
その一言を境に俺に見えている景色が暗転する。意識が途切れる、生きているという実感が消失する。徐々に感じていた鬱陶しい熱が感覚から離れていく。痛みなんてものはなく、ゆっくりと何処かへ向かって落ちていく……。
ベランダでは二人を殺した人間が誰かと通話をしている、近くには一人の少年と少女の姿。その一軒家の前には兄を待つ妹の姿。
「ええ……。何で僕に殺させたんですか……。やめてくださいよ人殺しは嫌いだって言っているでしょう?」
『当たり前じゃないですか、私だって同種を殺すのは嫌なものです。人事部の人間としてはやはり出会いというものを大切にしたいですからね。ああ、そろそろ時間になりますよ。呉れ呉れもお気をつけて』
「気をつけろと言われた所で何か出来るものなんて僕は見たことがありませんけどね……」
そんなところで短い通話は切れる。鉄の匂いが微かに残る中、男は死体を眺めて本当に憂鬱そうな顔を浮かべる。「またも受験生を殺してしまったよ……。こんな僕でもきみは赦してくれるのかな……」と一人、ギラギラと光る太陽の下で……。
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「お〜いさきとくん?」
「お〜いってば」
「聞こえてる?」
「寝てないよね」
「これでも私達受験生なんだからね?」
「もしかして疲れてる?私達が来るからって掃除とかも大変だったろうし……」
「えっへへ……。私も疲れちゃったんだけどね〜。この物理の問題よく理解らないからさ〜」
「というか、ほんとに聞いてる?死んでない?」
「え?あ?ああ……」
うたた寝でもしてたのか?いや……でもあの光景は……。マンションのリビングで声を掛けてくる二人の言葉が頭に入ってこない。
「少し……じゃない……だいぶ気分が悪い……」
「そ、そう?」
頭の中が狂うように唸りを上げる、そして……覚束ない足取りでキッチンへと向かってシンクに逆流した胃液を戻す。死んだ?死んでいた?そんな?悪夢にしてはあまりにも……。嘔吐、顔面蒼白、一体アレは……。
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