僕の休日の過ごし方

ゆる弥

僕の休日の過ごし方

 今日は日曜日。


 狭いワンルームの部屋はベッドのすぐ横にテーブルとテレビ台が設置されている。そうなるとどうなるのか、お分かり頂けるだろうか。


 そう。布団から出られないのだ。


 テレビをつけて横になったまま、放送されているバラエティ番組を眺めている。起きたのが九時過ぎ。子供向け番組も放送されていたが、なんとなく今の番組にした。


 液晶テレビの中ではレスリング無敗の人がスタジオに現れて、『天下無双の武人!』とテロップが表示されている。


 こういう人は死ぬほど練習して、努力に努力を重ねて強くなったんだろうなぁ。と考えながら、自分にはできないなぁと漠然と自分を卑下する。


 そんなに努力しても何物にも慣れる気がしない。というか、ただ単にやる気がないということだろう。


 レスリングをしている場面に移り、その武人は物凄い速さで対戦相手を掴んで回し、得点を重ねていた。腕の太さや、胸板の厚さが半端ではない。


 僕のブヨブヨの腹とは大違いだ。男なのに胸もちょっとある。完全に脂肪。「そんなナリだからもてないんだよ」とは誰から言われた言葉だったか。


 場面はまた移り、今度は武人がダンスを教わっていた。動きがぎこちなく、リズムも取れていない。なんだかこちらが気恥ずかしい気持ちになってしまう。なんだか、こんな辱めをうけるなんて、この人も大変だなぁと凄く他人事だ。


 ダンスなんて僕に踊れるわけがないし、そもそも踊れていたらこんな人生にはなっていなかったと思う。踊ったこともないけど。


 その武人は凄く毎日何時間も練習したんだそうで、その映像が流れる。思わず「うわー」と口からこぼれてしまった。こんなの日頃からストイックに生きている人しかできないよ。


 こんな寝転びながらスナック菓子を食べているような人間にはできない。


 天下無双の武人がぎこちないダンスを披露するようだ。練習の成果が出ていて、振りは合っているようなのだけど、やっぱりぎこちない。それを誤魔化すように両脇から大きなトリが現れた。着ぐるみだが、一緒に踊っている。


「トリが降臨しました!」


 なんでトリが出てくるのかはまったくわからない。このバラエティのマスコットキャラクターだったようだけど、この酷い踊りを見てどうしろというのだろうか。


 レスリングができるからと言って、なんでもできるわけではないよなぁ。この人も大変だなぁ。そう思っていたら、眠気が襲ってきた。


 意識がなくなり、次に目覚めた時には、日が傾いていた。


 あぁ。今日も布団から出ないまま、一日が過ぎ去ってしまったなぁ。


「これを飲めば天下無双! 元気いっぱい! パワアップドリンク!」


 なんだかよくわからないこのCMは黄色いトリがダンスを躍っていた。


 僕はこんなに動けない。


「あぁー。布団さいこー」


 休日は動かない。

 これに限る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の休日の過ごし方 ゆる弥 @yuruya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ