箱庭
あかつきりおま
箱庭
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
九人の幼いこども達が丸くなって手をつないで、ゆっくりと歌いながら回っている。どの子どもも同じような姿をしていた。金色の真っ直ぐな髪を肩まで伸ばし、真っ白な貫頭衣をゆらりゆらりと揺らしながら回っている。
一人が、円の真ん中で少しの恥じらいと誇らしさを混ぜた表情で、取り囲んでいるこども達を見ていた。その空間は白とも灰色ともつかない色しかなく、上下も左右も曖昧な場所である。こども達の輪だけが空間に存在し、そのこども達すらも空間の色にぼかされて消えてしまいそうなほどに曖昧な光景。
大人には歌いにくい高音域の声による歌が終われば、どこから現れたのか金色の王冠が中央の子どもの頭上に輝くのだ。
こどもは嬉しそうに微笑み、周りのこども達からの拍手を受け止める。
子どもの王冠の中央には大きな色石が一つ、ついている。一日目は王冠を頭に載せたこどもがいなかった。だが、夢が進むごとに王冠をつけたこどもが増えていく。順番に、全員にその王冠が載せられていく。
また、それぞれの王冠の色石は種類が違っていた。どれ一つとして同じものは無い。色石はその魅力が一番発揮される形で細工されているようで、大きな存在感を示していた。王冠の金色が霞むほどに。
その王冠がこの夢の意味を明らかにする。
私の願望が確実に成就するということを、明確に教えてくれているのだ。
長年かけて練り上げてきたこの計画が、あともう一段階上がれば成就する。
心血を注ぎ、工夫を重ね、苦悩を刻み、一つ一つの段階を昇る。まるで己の魂を身体から引き剥がし、切り刻むような行為。直面するのは己の醜き現実。時には薬草や
形のないものを扱う難しさ、そこに意味を見いだし新たな属性を吹き込む緊張感。これでいいのか?と自問自答しながら理想を追い求めていく。己の手の中で、じっくりと、丹念に。形のないものを形にしていく。
その作業の段階を次に進めても良い、と夢は教えてくれているのだ。
一つ目の段階は、己の理想を具体的なことばに落とし込むことだった。何を求め、何を理想とするのか。靄の中にことばを投げ込み、結びつくものを探す作業。形無きものを、形あるものに。何度も、何度も、繰り返し、見えないものを探す途方も無い工程。やがてそれはダイヤモンドのような無垢の輝きを持って生まれた。一人目の子どもが王冠を戴く。
二つ目は、生まれ出たものを見つめ、それが何であるかを理解すること。その放たれた光の意味をまた探す。己の素直な感覚だけを通してそれを捉えるのだ。生まれ出た存在はあまりにも眩しく、己の感覚を惑わすほど。だが、必要なことは目の前のものを、そのまま受け止めることだ。寸部の解釈も必要としない。余計な思考は目の前のものの形を変えてしまう。それではいけない。求めるものが永遠に完成しなくなってしまう。全ての思考を退け、捉えられた時、二人目の子どもは高貴の葡萄酒を纏った石を頭上に掲げたのだった。
三つ目、更に洞察を深める。感覚によって正確に捉えられたものは、思考によってその形を明確にしていく。前の段階で捉えたものと違わない形を保つのは難しい。何度も試行錯誤を重ね、その思考が『正しい』と完全に一致する時、段階は上がった。深海より生まれ出た色を持つその石が、王冠に煌めいた。
四つ目、五つ目では相反する力を纏わせる。何か一つに力が偏ることはいずれそれは破綻する。陰と陽、優しさと厳しさ、光と影、強と弱、どちらかがあるから、もう片方が浮かび上がる。同じ強さで、同じ分量で、真逆の力をそれぞれ込める。等しくなるまで己の魂を精錬し、それに落としていく。海中に揺らめく光のような石は四人目に、新鮮な血のような色をした石は五人目に与えられた。そしてこの均衡が完全に保たれるようになった時、乙女の頬の色のような艶やかな石が王冠に輝いた。六つ目の段階だった。
あとはそれをどうやって扱うか、というところまできた。何度も試行錯誤を繰り返し、失敗を重ね、知識を学び、得られた理解をとおしてそれを観察する。いくら均衡の取れた状態とはいえ、動かすとなるとまた困難が伴う。己から生み出されたものであるにもかかわらず、己の思うとおりには動かない。もうそれは既に己とは別個のものであるからだ。動かすに耐えうる存在に己がなれた時、七人目の子どもは青葉より光を集めた色の石を戴いた。そして、動かすに値する思考を身につけられたとき、八人目のこどもは太陽の炎を凝縮したような光を抱く石を手に入れた。
そして九回目の夢。
いよいよ己の一部としてではなく、完全に切り離されて具現化されてもよいという証を得ることが出来たのだった。子どもは天の川の輝きをそこに閉じ込めたかのような、いや、こども達が踊る空間を一部切り取ったような色を携えた王冠を、その頭上に恭しく戴く。あと一つだ。あと一つで己の描いた理想が、この手の中に現れる。
それはこの現実世界に比べると本当に小さなものだ。だが、生まれ出るものは唯一無二の『己の世界』なのだ。誰の干渉も受けない、惑わされない、理想のもの。己から生まれたものであって、しかし己では無いと捉えられるもの。大きな円環の道程を無心になって歩き、徐々に積み上げていく実績。その円環の中心にいるのは、紛れもなくこの『己の世界』を作り上げる自分自身の存在だ。
間もなくだ。
最後のこどもがその王冠を戴くとき、己の世界が完成し、現実の世界へと姿を見せる。新鮮な血の色を頌えるその王冠は、己が産んだ世界に血が流れ始めることを告げるのだ。そして生み出された掌の中の箱庭で新たな世界が始まる。己だけの、己が定めた秩序によって稼働する世界。
理想の世界を体現するために、魂をつぎ込むのだ。
そして、最後の王を円環の中に君臨させるのだ。
箱庭 あかつきりおま @rioma-a
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