太郎の成長
天蝶
第0話
むかしむかし、ある小さな村に「天下無双」と呼ばれる男が住んでいました。
名前は太郎。背が高く、筋骨隆々で、村一番の力持ちとして知られていました。
どんな重い荷物でも軽々と持ち上げ、木を一本で切り倒すその姿は、まさに無敵そのもの。
村人たちは「太郎に敵う者はいない」と口々に称賛し、彼自身もその名に恥じぬよう日々鍛錬を怠りませんでした。
しかし、太郎には一つだけ弱点がありました。
それは、ダンスがまるで踊れないこと。
足がもつれて転ぶか、ぎこちなく棒立ちになるかのどちらかで、村の祭りで皆が輪になって踊る中、彼はいつも隅っこで見ているだけでした。
ある日、村に旅芸人の一座がやってきました。
彼らは色とりどりの衣装をまとい、軽やかな音楽に合わせて華麗にダンスを披露しました。
村人たちは目を輝かせて拍手を送り、子供たちは一緒に踊りだすほどの大盛況。
太郎もその様子を遠くから眺めていましたが、心のどこかで「俺だって…」と羨ましさが芽生えていました。
すると、一座の娘・お花が太郎に近づいてきて言いました。「あんた、天下無双の太郎だろ?力はあるみたいだけど、ダンスはどうだい?うちの踊りに挑戦してみねえ?」お花の目は挑戦的で、太郎は思わず「やってやる!」と応じてしまいました。
その夜、太郎はお花に連れられて一座の稽古場へ。音楽が流れ始め、お花が「足をこうやって、手はこう!」と教えてくれますが、太郎は案の定、足を踏み外して転び、立ち上がれば腕を振りすぎてお花を驚かせ、まるで笑いもの。
村人たちがこっそり覗き見してクスクス笑う声まで聞こえてきました。
しかし、お花は諦めず、「力があるなら、リズムに乗ってみな!」と励まします。
太郎は何度も失敗しながら、少しずつコツをつかみ始めました。
数日後、彼の動きはまだぎこちなかったものの、力強いステップが逆に独特の味を出し、一座のダンスに新しい風を吹き込んだのです。
そして迎えた祭りの夜、太郎は一座に加わり、初めて人前でダンスを披露しました。
最初は笑いものだった彼の動きも、力強く大地を踏み鳴らす姿に皆が引き込まれ、やがて拍手が沸き起こりました。
天下無双の名が、力だけでなくダンスでも響き渡った瞬間です。
お花はにっこり笑い、「あんた、ほんと無双だね」と言いました。
祭りが終わり、疲れ果てた太郎は家に帰ると、いつもの硬い床ではなく、ふかふかの布団を用意していました。
それはお花が「踊り疲れた体を休めな」と贈ってくれたもの。
太郎はその布団に寝転がりながら、「天下無双ってのは、力だけじゃねえな」と呟きました。
それからというもの、太郎は力仕事の合間にダンスを練習し、村の祭りでは子供たちにステップを教えるようになりました。
布団の中で眠るたび、彼はあの祭りの夜を思い出し、笑顔で夢を見るのでした。
天下無双の男は、力とダンスと、そして温かい布団のおかげで、村一番の幸せ者になったのです。
太郎の成長 天蝶 @tenchoo
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