第4話 スライムが倒せない理由
俺たちはしばらく森の中を歩いていた。
詞音は相変わらず俺の少し後ろを黙ってついてくる。
こっちが話しかけようとすると露骨に不機嫌そうに顔を背けるくせに、俺が黙るとチラチラと視線を送ってくる。
その度に目が合い、彼女は慌てて目を逸らす。
なんなんだこの微妙な距離感。まあ、可愛いから許すけど。
「なあ、さっきのモンスターが最後ってことでいいのか? それともこの森、まだヤバいやついる?」
「いますよ。あなたの無駄なお喋りで起きなければいいですけど」
「むしろ起きた方が君との距離も縮まりそうだけどな」
「は?」
詞音がびっくりした顔で俺を見た。しまった、心の声が漏れた。
「いや、なんでもない」
俺は咳払いで誤魔化したが、能力が余計な口出しをした。
「一騎くん、照れ隠しが露骨すぎだよ?」
「うるさい黙れ」
「照れてない!」と詞音も同時に言った。
いや、それが照れ隠しだろ……。心の中でツッコミつつ、俺は急いで話題を変えた。
その時だった。
「あのー、すみません!」
突然、足元の草むらから甲高い声がした。
びっくりして足元を見ると、そこには半透明の青色スライムがぷるぷると震えていた。
「うわ、スライムだ」
俺が驚くと、スライムはびくっと身体を揺らし、慌てて叫んだ。
「あ、いえ!攻撃しないでください!敵意はありません!」
「喋った……?」
詞音が目を丸くする。
「はい、喋ります!それよりお願いです、私を倒してください!」
スライムは必死に懇願した。
「え?なんで自分から倒されに来てるんだ?」
「実は私、『復唱再生』っていう面倒な能力を持ってまして、倒されないと解放されないんです!」
「……面倒な奴だな」
俺は眉をひそめる。
「面倒な奴で本当にごめんなさい! だからお願いです、倒してください!」
「必死すぎて逆に躊躇うんだけど」
まあでも、頼まれてるしな。とりあえずやってみるか。
俺は軽く息を吐いてから、能力を発動する。
「倒した」
言霊がスライムに向かって走る――が、その瞬間スライムは嬉しそうに叫んだ。
「倒した!」
俺の言葉を即座に復唱すると、スライムの体がパチンと弾け飛び、瞬時に再構築された。
「お前……復活してどうすんだよ!」
「すみません!つい癖で!これが私の能力『復唱再生』です!相手の言葉を復唱すると復活できるんです!」
「弱点まで自分で説明するとか、親切すぎない?」
「ごめんなさい!喋りすぎで!」
スライムがぷるぷる震えながら謝る。
うん、まあ、弱点が分かりやすいのは助かる。
俺は詞音に振り返った。
「なあ、手伝ってくれ。こいつが復唱しなきゃいいだけだから、口を塞ぐぞ」
「え?口ってどこですか?」
「あ、確かに」
二人でスライムをじっと見つめる。
目はある。口は……なんとなくあるような、ないような。だが声が出るんだから、口はあるだろう。
「多分このへんだろ」
俺はスライムの顔らしきところを手のひらで適当に塞ぐ。スライムは慌てて暴れたが、声はもごもごとしか漏れない。
「ふぁ、ふぁにふるんふぇふふか!(な、何するんですか!)」
「よし、これなら復唱は無理だよな?じゃあ、もう一回言うぞ――倒した」
俺がもう一度能力を発動させると、スライムの身体は再びパチンと弾け飛び、今度は元に戻らず地面に溶け込んでいった。
「よし、成功だな」
俺は手のひらをじっと見つめる。
「あなたの能力って、無駄に論理的ですね」
詞音が微妙に感心した表情で呟いた。
「無駄って言うな」
「いや、実際くだらないけど論理的だよね」
能力のカタリがニヤニヤと補足する。
「お前は黙れ」
俺が睨むと、詞音はふっと微笑んだ。
なんだよ、やれば笑うんじゃないか。
俺はちょっとだけ嬉しくなりつつ、ため息をついた。
どうやら、この世界ではくだらない能力と面倒な敵、それにツンデレなヒロインに振り回されながら生きていくしかないらしい。
まあ、悪くないかもな――なんて、今さら思い始めてる自分もいるわけだが。
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