第3話 饒舌能力と毒舌少女の板挟み
言葉宮詞音という少女は、初対面の相手に対して、完全に人間関係を諦めていた。
「言っておきますけど、あなたに興味なんて微塵もありません。その存在とか、退屈そうな表情とか、まとめて全否定です」
彼女は俺から視線を逸らしつつも、ちらりと頬を赤く染めながら言葉を続ける。
「だから私にも興味を持たないでください。まあ、それに……そもそも、私に興味を持つような人なんて、この世界に一人もいないと思いますけど」
「いや、それ卑屈過ぎない?」
俺が呆れてツッコむと、詞音はちょっとびくっとしたように肩を震わせ、すぐにむっとして俺を睨んだ。視線はなぜか涙目だったけど。
なんだよその複雑すぎるリアクション。可愛いけど。
「あー、つまり俺が君に興味持ったら、ヤバい奴ってこと?」
「そうです……って、え? 興味あるんですか?」
詞音は慌てて顔を上げると、慌ててまた視線を逸らした。どっちだよ。
「いや、初対面でそこまで言われるの初めてだから気になっただけ。もしかして俺、前世で君になんかした?」
「いえ……ごめんなさい。私の方がいつもこうなんです」
詞音は軽く首を振り、小さくため息をついたあと、少しだけ申し訳なさそうに呟いた。
「喋るとひどいことばっかり言ってしまう体質で……生きててすみません。世界に謝罪します」
「いやいや、そこまで自虐されると、逆にこっちが謝りたくなるんだけど」
俺が苦笑すると、彼女は少し嬉しそうに口元を緩め、すぐにまた引き締めた。
なんだよその微妙なリアクション。可愛いけど。
そもそも俺は転生する前から、人付き合いは苦手な方だった。
スマホの充電がずっと20%を切ったまま、なんとなく惰性で使い続けてるような、そんな省エネ人生。
別に特別なこともなく、平凡でそこそこ楽しかったけど、なるべく口数は少なくしたかった。
なのに――。
「あのさ、一騎くん」
俺の意志とは無関係に、能力が勝手に口を挟んだ。
俺の能力『言霊無双』、名前はカタリという。余計なお世話が趣味の、超饒舌能力だ。
「この子の言葉、真に受けちゃダメだよ。本音と逆のことしか言えないタイプだから」
「あなた、失礼すぎませんか?」詞音がジト目で能力を睨んだ。「余計なこと言わないでください」
「あー、図星だったかな?」
「図星じゃないです!」
詞音は頬を真っ赤に染め、思いっきり否定した。
ああ、これが噂のツンデレというやつか。異世界まで来て初めて見た。
「ごめん、こいつ俺より口が悪くてさ。でも悪気はないんだ」
俺がフォローすると、詞音は意外そうに俺を見つめたあと、小さく唇を噛んだ。
「あなたの方こそ、私のこと嫌いになったらすぐ離れていいんですよ……無理に付き合っても疲れるでしょうし」
「いや、最初に絡んできたの君の方だからな?」
俺が訂正すると、詞音は今度は露骨に不満そうな顔をした。
なんだよその理不尽。可愛いけど(二回目)。
静かな森の中、突然低い唸り声が響いた。
「今のってまさかモンスター的なやつ?」
「的じゃなくて本物ですよ! 転生者なのにその程度も分からないんですか?」
「初心者なもんで。モンスターとの戦闘とか経験ゼロだから」
詞音は呆れたようにため息をつきつつも、こっそり俺の背中に隠れるように距離を縮めた。
おい、今ちょっと胸キュンしちゃったじゃないか。
「さあ、一騎くん! 初実戦だ!」
カタリが楽しげに叫んだ。
「君の言葉が現実を動かす! ミスれば死ぬだけだ!」
「死ぬのは大問題だよ!」
俺は焦りつつ、詞音の小さな手が俺の服の端を掴んでることに気づく。
え、なんだこれ。異世界、めっちゃ青春じゃないか。
「死なないでくださいね……」詞音が小声で呟いた。「まだちゃんと謝れてないから」
「あ、うん……絶対死なないよ。そんな理由でも」
森の奥から巨大な影が飛び出してきた瞬間、俺は腹を括って言葉を口にした。
「あー、モンスター、派手に転べ!」
言葉の瞬間、巨大なモンスターが本当に派手に転倒し、地面に激突した。
「え、何これ……」
詞音が驚いたように目を丸くする。
「言っただろ? 俺の能力『言霊無双』。口にした言葉が現実になるんだ」
「あなた……とんでもないですね」
詞音は少し呆れつつも、どこか尊敬の視線を俺に向けた。
え、なんだこの展開、悪くないぞ。
地面で気絶してるモンスターを見つめながら、俺は静かに決意した。
転生前の平凡な日常はもう戻らない。でもまあ、こんなデレ要素ありのツンデレ美少女と、やたらお喋りな能力と一緒なら、意外と悪くないかもしれない。
饒舌すぎる能力と毒舌すぎるヒロインを引き連れつつ、それでも俺は静かな人生を諦めない。
まあ、無理だろうけど。
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