第4話 芋娘、貴族に魔法をミルチャッロ。



「確かにネーネシア嬢と顔を合わせたのは二度目だ。だが、私達はこの手紙のやり取りを重ねた正真正銘友人だ♪ なぁ、ネーネシア嬢」


「へ!? いや、え、えっと………。も、申し訳ありませんが! わ、私がお手紙をやり取りしているのは、妹の恩人でもあるイザベル様というの方です………。い、いくら騎士様でも私の友人を騙るのは、お、お辞めください!!!」


「「………」」



 庶民である私の口答えに、お二方が黙ります。

 し、仕方無いじゃないですか、いくらお貴族様とて私達姉妹の恩人であるイザベル様を騙るだなんて許せなかったんです。カチン! と来ちゃったんです! 無礼であろうがそんなの知りません。


 庶民だって怒る時は怒ります。


 そう、怒るんです! せ、戦争です。フンス!



「………プ、ガハハハハハハハハ♪」

「ンーーー、ひ、酷いぞネーネシア嬢! 其方、私の顔を忘れているな! どうりでずっと騎士様などと堅苦しく、一度も名を呼んでくれぬはずだ!!!

 確かにあの時は私が男装をしていて髪も短かったのもある。だが私はてっきり、女であると分かってくれたであろうと思っていたのだゾ!!!」


「ヘ!? えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」



 と、お貴族様に怒りの反抗をしたはずが、ゴリ騎士様には大笑いされ、涙目でポカポカとしてくるイザベル様に逆に怒られてしまいました………。ひぃぃ、ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!


 お詫びにイザベル様愛用の片手剣を、アダマンタイト合金と複数の魔石付きな剣になんちゃって魔法鍛造させて頂いたのは言うまでもありません………。




 **********




「突然先触れも無く訪ねた上、食事に今晩の宿まで本当にすまないなネーネシア」

「い、いえ、イザベル様でしたらいつでも大歓迎です。こちらこそ大したお持てなしも出来ず、お芋料理ばかりですみません………」


「いやいや、どれも大変に美味でありましたぞネーネシア殿。

 正直ただのがこれほど美味な料理や地酒に化けようとは、まったくの予想外でした。ガハハハハハ♪」


「料理もさる事ながら、私は先程の洗浄シャワー乾燥ドライと言った魔法、そして特にこの冷風エアコン? という魔法が大変に助かった。私は騎士の端くれであるが、女の身。

 身体だけでなく、鎧や靴の中までもあの短時間で綺麗になったのは正直嬉しい」



 食事の間色々とお話をした私達は、其々名前で呼び合うことになり、何だか剣のお詫びのお返しに金貨? とか言う銅貨の進化系な金の合金を大量に持って来ようとしていたバルドス様には、を一つ。と言う事でどうにか納得して頂きました。

 お金なんて辺境ここでは使い道に困るし、分離して素材にするのも大変なので、断然私はを一個頂く方が嬉しいのです。危ない危ない。



「確かにアレ等は大変便利でありましたな。

 見たところ洗浄シャワーの魔法は水と風に適性が有れば使えるのではないかと思いましたが、ネーネシア殿。よろしければ詠唱式をお教え願えないだろうか?」


「??? 魔法をお教えするのは構いませんが、え、えいしょうしき? とは、何のことでしょうか?」


「ハハ、冗談が上手いなネーネシア。いくら無詠唱だったとは言え、詠唱式を頭に浮かべねば魔法自体が発動せんではないか。ハハハハハハ」

「まったくですな。ガハハハハハ」


「あ、あはは………?」



 と、とりあえず一緒に笑ってみますが、私にはお二人が何を笑っているのかが分かりません………。



「え、えっと、では洗浄シャワーの魔法ですが、先ず水魔法を対象の表面を縁取る様に、薄く薄く満遍なく展開します。この時髪の間や衣類の表裏などはしっかり個別に覆いませんとムラや不快感が残るのでご注意下さい。


 次に風の魔法を中心から外側に向けて、え、えっと、このスプーンでこう表面の水魔法を撫で取るように吹き飛ばします。


 あっ、夏は風と水の魔法だけでも大丈夫ですが、この二つだけでは属性が氷に寄ってしまうので、寒い時期は火の魔法を適度に混ぜた方が気持ちが良いですよ?♪」


「「………」」



 わ、解り難かったでしょうか?

 スプーンやお皿を使って、実際に目に見える様には説明したのですが、お二人とも説明が終わっても口を開けたまま固まっています。



「え、えっと、イザベル……様?」

「へ!? あ、すまない。まさか洗浄シャワーの魔法が水、風、火の魔法を個別かつ同時にで行使している高等魔法だとは思わず、少々、いやかなり驚いてしまった」


「いえいえ、高等だなんてとんでもありません! この魔法は師匠がパチン! と指鳴り一つで出来る謎魔術を、どうにかこうにか再現しただけの魔法で、単なる庶民の魔法です。

 む、村の者達も服を着たままとはいきませんが、全裸になればほとんど同じことが出来るので間違いありません!」


「そ、そうか………?」



 それから乾燥ドライ送風魔法エアコンについても説明したのですが、どの魔法でもイザベル様の目配せにバルドス様がフルフルと首を小さく横に振られていました。

 私は自身の説明下手が何とも申し訳なく、冷風と温風の術式を付与した送風魔法エアコン小魔石チョーカーをお二人にプレゼントしたら、とてもお喜びだったのでまぁ良しにしときます。

 小魔石チョーカーを試しながらイザベル様が、『ご当地ユニークか………』とボッソリ呟いていらしたのですが、『ゆに〜く』って何なのでしょうね???



「あっ、そ、そう言えば、お二人は何故このシケ村にいらしたのでしょう?」

「あっ、そうであった!

 色々在りすぎてつい後回しとなっていたが、ネーネシア。其方、我等と共に王都まで来て貰うことは可能であろうか? もちろん無理にとは言わんのだが………」


「………り、理由を、理由を伺ってもよろしいですか?」



 イザベル様の言われた王都という言葉に、胸が少しだけズキリ!とします………。



「あぁ、もちろんだ。先日の手紙に書いたとシスリアからは聞いているのだが、シスリアが最近とても大きな功績を立てたという話は、知っているだろうか?」

「は、はい、何でもスゴく大きな? みたいなモンスターを倒したとかで、妹から頑張ったので褒めて欲しい。と、書いてありましたが………」


「ハハ、蜥蜴とは恐れ入るな」



 と言われるからには、ただの大蜥蜴では無かったのでしょうか?


 妹とはイザベル様経由で、この村に二月に一度来てくれるハントさんと言う商人さん(師匠の古いお知り合いでもある)にお手紙を届けて貰うのですが………、都会あっち田舎こっちではどうも方言の違いか、私が知らない言葉が多いので、妹からのお手紙には絵が多分と書かれているのです。


 あの火を吐く赤い蜥蜴みたいに書かれていた可愛いモンスターは、絵の見た目以上に強かったみたいですね。



「それで先日シスリアは、王国で約60年振りと言われる勲章を賜ったのだが、


の勲章? あの娘水魔法あまり得意じゃなかったのに頑張ったんだね♪)


 その場で陛下に、何でも好きな褒美を与えるが何が良いか? と問われた際、


『あ、姉に…、会ぃたぃです………』


 と目に涙を浮かべながら小さく答えたのだ。


 無論、王都までは距離があり、シスリアは現在王都の貴族院に通っている。

 従って、すぐすぐには無理であるとの旨を本人に公爵が話したところ、公爵家内で派手に大揉めしてな………。色々あって今は伏せってしまっている」



「揉めて伏せっ!!? イ、イザベル様! リアは、妹は大丈夫なのですか!!!?」


「ん? あ、あぁ。シスリア、至って健康だ。シスリア、な」


「へ!? あ、よ、良かった………」


「ただ生憎、伏せった事で国の財政の方に大きく影響が出てしまっていてな、中々面倒な事態になりつつもある。

 よって早々に問題を解決させる為、可能ならば我等に同行して一度王都まで来て貰いたいのだ」



 イザベル様のお話に目の前が真っ白になって、頭が少しクラクラもして………、



「………む、村の事もありますので、申し訳ありませんが今すぐに返事は出来ません」

「それはそうだ。ネーネシアはこのシケ村?の村長代理であるとも聞くし、村民とも明日話し合ってくれ」



 一晩考えるお約束をして、今夜はお開きとさせて頂きました………。王都、か………………。



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