第5話 芋娘、王都に向けてオロロロロ。
「ねぇね………?」
「大丈夫。きっと、すぐ良くなるからね………」
私が覚えている妹の最後の姿は、熱に浮かされた、とても苦しそうで、そして不安そうな赤い顔……。私に向けて弱々しく、辛いのに懸命に嫌と手を伸ばす………そんな弱り切った姿でした。
「イザベル様、お医者様、ハントさん。
「あぁ、任された。我が家名に誓い、私が責任を持って妹君の力になろう」
「ねぇね、ねぇね………」
(リア………、ごめんね………………)
飛び立って行くグリフォンの背中から泣きながら私に手を伸ばす妹の姿………。あの日の光景を夢に見たのは、随分と久しぶりな気がします………。
**********
「………おはようございます。イザベル様、バルドス様」
「あぁ、おはよ…う!?」
「おはようございます、ネーネシアど、の!?」
「だ、大丈夫かネーネシア、状態異常にでも罹った様な酷い顔をしているぞ?」
「何処かお加減でも!?」
「そ、そう、ですか? 少し夢見が悪かった所為、ですかね。ハハ………」
翌朝。朝食を済ませた私達は、早速村の皆に話をしに行ったんですが………、
「ネーネシアちゃん、行っておいで」
「あぁ、村の事は気にするこたぁ無え」
「で、でも、私が居ないと、は、畑とか………」
「いんや。ネーネシアちゃんのビックリ魔法は、どれも村の誰かしらが、どんにかこんにか使える様さなっただし、作ってくれた魔道具も、たんと在るがね?」
「んだよ、モンスターも古龍様のお陰で心配要らんだで」
「「「んだんだ」」」
「で、でもクーちゃんとか………」
「クゥ? クッ!」
「クー様も行けと言っておられるが」
「クゥ♪」
「………で、でも……えっと、な、何か、」
「大丈夫さね村長。二、三か月と言わず、二、三年でも村長の不在くらいどうにかしてみせるが!」
「「「んじゃが」」」
「だけど………、て、て言うか私は村長代理で……」
多分、ダメって言われるだろうな………。
残念だけど、やっぱりお断りしようと内心では決めていた
『私が王都に行って来る件、緊急で村の皆に聴いてみたんですけど井戸端会議』
は、何故かクーちゃんも含めた私以外の全員が賛成で可決してしまいそうな流れになっていて………。
こ、此処は今まで何かと一番『若い』から。と、理不尽に押し付けられてきただけだけど、一応効力はあるはずな村長代理の拒否権を行使して、ど、どうにか中止に………とか考えていると。
「ハァ………、やれやれ。大方治療の為とは言え、シスリアに私も後で行くから。と、嘘を吐いて公爵家に引き渡した事や、高位の貴族となったシスリアに自分が表立って関わる事は良いのか。等をウジウジと考えているのであろう? だがネーネシア、友人として私がハッキリと聞いてやろう!
ネーネシア、其方はシスリアに会いたいのか? 会いたくないのか?」
「ウゥ………………たぃ、会いたいに決まってるじゃないですか!!!!!
で、でも私は、あの子が行きたくないって伸ばす手を離したんです! 貴族になりたいか解らないのに、虐められたりもするかも知れないのに………、あの子を、あの子を私は………………、ヴェェェェェ」
人前で泣いたのなんて、いつ振りでしょう………。
「確かに辛い事が何も無かったとは言わん。だがあの時、其方があのままにしていれば、シスリアは間違いなく死んでいたのだ。其方はあの時正しい選択をしたと、私は素直にそう思っている………。
それに何より、シスリアの方が会いたいと言っているのだ。シスリアは其方と会えるのを今も心待ちにしておるぞ? なのに何を迷う事がある?
其方は貴族だとか庶民だとか負い目だとか何も考えず、ただ姉として、これまで頑張った妹を抱きしめてやれば良いのだ!」
「………イ、イザベルざまぁぁぁ、ヴゥエェェェェェ」
イザベル様は年甲斐も無くギャン泣きする私を胸に抱き、泣き止む迄頭をポンポンと慰めてくれて………。私がヴェンヴェンと泣いている内に、緊急井戸端会議は全会一致の行ってらっしゃいで解散となりました。
落ち着いた後、グシャグシャに汚したイザベル様の胸元を
「イザベル様、バルドス様、少しお待ちください。40秒で支度します!」
「あ、あぁ、ゆっくりでも構わん、ぞ………?」
それから大急ぎで準備をした私達は、王都に向けていざ出発! しようかと思ったんですが………。
「………ダ、ダメですイザベル様。こんな事、イ、イケません!」
「大丈夫だネーネシア、怖いのは最初だけで直ぐに気持ち良くなる」
「あ、ダメ! ま、まだ心の準備が………、ィヤ…」
「諦めろネーネシア! 馬なら半月の所、グリフォンなら5日で済む。昨日も言ったがこれは急ぎの旅なのだ」
「うぅ………」
問題発生です………。
イザベル様達が乗って来たのは馬では無く、なんと(と言うかやはり)グリフォンだったのです! しかも私は村のお馬で後から行きます。と言ってるのに、イザベル様の後ろに早く乗れ! と、バルドス様までが急かすのです………。
「では村の衆、ネーネシアを借り受ける。この私、イザベル・ド・ユグドライアの名に賭けて必ず無事に戻す故、安心して欲しい。では!」
「いってらっしゃーい」
「シスリアちゃんによろしくね〜」
「村長ー、ゆっくり楽しんで来るがよー」
「クゥー♪」
「わわわ、怖い怖い怖いです!!! イ、イザベル様────────!」
「こ、こら、変な所を鷲掴むな! 手を回すなら胸元で無く、ヤッ、こ、腰回りにして、ちょ、ヤン……、ネ、ネーネシア!!!!!」
バルドス様は嫌がる私を無理矢理イザベル様の後ろに乗せると、私は心の準備も全然なのに、イザベル様はとっととグリフォンをハッ! と、飛び立たせてしまわれます。
「きゃあぁぁぁぁぁ!!! 高い高い高い高い─────! イザベル様お願いです。せ、せめて木の高さ位に低く飛んで下さいぃぃぃ!」
もちろん、『わあぁ♪ イザベル様、何だか鳥になった気分です。空を翔ぶってスゴく気持ちいいですね!♪♪♪』
………何てことには、まっっったくならず。3時間位飛んで休憩するはずだったという空の旅路は、30分も経たない内にギブアップとなります。
「ウッ、オロロロロロロロロロロ………」
「だ、大丈夫か、ネーネシア?」
「大丈夫じゃありませ、オロロロロロロロロ………」
「あ、あぁ、それはそうだろうが………違うのだ。
私が聞きたいのは、其方の口から出ている、その七色にキラキラとしたフローラルな物体は問題無いのか? という事だ………………」
「ウッ……、ゆ、友人とは言え、イザベル様に
私が木の影でイザベル様に背中を擦られながらオロロロロしていると、
「ガハハハ、吐瀉物まで七色に変えてしまうとは、ネーネシア殿はまったく何でもありですな、ハハハ♪
しかし弱りましたな姫様、この分では陸路と然程変わりませんぞ?」
「「ガアァァァ!」」
バルドス様には笑われ、バルドス様が手綱を握っている二頭のグリフォン達はバサバサと、飛び足りないよ! と文句を言っている様な気がします………。
『イ、イザベル様ぁん、せめて木の高さ位低く飛ぶことは出来ませんかぁ? あ、あは〜ん………』
わ、私は恥ずかしさを堪え、ここぞと師匠に教わった、
『良~い、ネーネシアん。お貴族なんてね、胸の前で指を組んで、上目遣いに猫なで声でクネクネアハ〜ン♡とおねだりすれば、一殺よん♪』
作戦を実行したんですが………、
「そ、そうしてやりたいのは山々なのだが、低い高度は風の抵抗や障害物でグリフォン達に余計な負担がかかってしまうのだ、すまん。と言うか、何だその羞恥に溢れるアハン♡は………」
と、すげなく却下されます。ぐぬぬぬ………。
ん? ちょっと待ってください! グリフォンに負担がかかるのでダメ、ということはぁ♪♪♪
「イザベル様、私に良い考えがあります!♪」
この時の私は、昨晩良く眠れなかったりとか、グリフォンに酔っていたりとか色々で、多分PONになっていたんだと思います………。
何故か
私は絶叫とオロロロロ! を繰り返し、グリフォン達の超高速5連ジャイロの3転目で失神したのですが、野営の為に着地して起こされた時には、王都まで普通に飛んでも後半日程度の所まで来ていたので、結果的に良かったのかも知れません。と、思う事にしておきます………。
ハァ。どうして私はグリフォンにでは無く、自分に酔わない様な魔法を掛けなかったのでしょうね。アハハ………。
**********
………後日、王都の往来で偶々耳に入った、
『おい聞いたか、先月街道から少し外れた山の空に虹色のキラキラした雨を降らすモンスターが出たってよ!』
という噂話を聞かなかった事にしたのは、また別のお話です。
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