志乃カリンと志乃マリという女

 私志乃カリンには血の繋がっていない家族がいる。


 志乃ツバサ、ツバサはこの時代に珍しく人工授精で生まれたのではなく両親がいた。


 ツバサの本当の親、龍宮ナナと龍宮ソウヤさん。


 そのツバサの母親は私の母である志乃マリと親友で探索者クラン『ドラグーン』を結成しそこに男では珍しく探索者となったソウヤさんが加わって一緒にダンジョン攻略をしていた。


 このドラグーンというクランはツバサの両親が亡くなってメンバーが私の母1人になったので解散という事になったが当時を知る人からは伝説と呼ばれているようだった。


 今の私の母のおっとりしていて何処か抜けているところを見ると本当にそうだったのか疑いたくなるが映像にも残されていてネットを検索するとすぐに出てくるので本当だった。


 なので家族ぐるみでの付き合いがありツバサの両親が亡くなってしまう前からツバサとは付き合いがあった。


 また小さい頃から男性を見ていたのでそのおかげで今ツバサと同じ屋根の下で暮らしても自分の欲を露骨にぶつけたりしない耐性が出来た。


 なので私は我慢が出来るがナニとは言わないがもし志乃家に引き取られていなければツバサはコッテリと絞り取られる酷い目に遭っていただろうことは想像に難しくない。


 だってツバサは世界一カッコいいんだから。


 この世の中の女は男なら何でもいい、力尽くで自分の物にしたいと思っているが私はそうではない。


 ツバサじゃなきゃ駄目、絶対にツバサじゃなきゃ駄目なんだからと思っている。


 もちろんこの気持ちを伝えた事はない。だがいつかは伝えたい受け入れて欲しいと思っていたのだが無理かもと成長するにつれて思っている。


 男は一般で知られている知識では背が大きく胸や尻が大きい女か探索者として強い女に惹かれると聞いたからだ。


 私の身体は学校の同年代の友達を見ても貧相で彼女たちには妹みたいに扱われてクラスのマスコットみたいな存在に不本意ながらなってしまった、背を見てもまるで子どもみたいだ。私は女なのにツバサにすら背で負けてしまった。


 背はともかく胸だけはなんとかしようと大きくなる食べ物や揉んだりしたが効果は悲しいかな全くなかった。


 じゃあ探索者として強い女になろうとしたがこの身体では剣を扱っても魔物に押し切られてしまう。ただ幸運な事に魔力量だけは母の血を受け継いだのか日本でも有数の魔力量だったがそれだけ攻撃魔法が上手く使えず回復魔法という必要ではあるが裏方の役割を担う魔法しか上手く使えなかった。


 ということは探索者としてやるには回復術士としてクランに所属するしかないが私の呼んでいる雑誌『パンパン』では男が選んだモテナイ女探索者職業ランキング1位に回復術士と書いてあり、そのコメントでは『後ろでコソコソして他の人の手柄を取ってて女らしくない』や『グヘヘ、お兄ちゃん治してあげるよと手を握ってきてキモかった』とか散々な言われようでツバサには黙っていようと思った。


 男のツバサは他の男と同じように家で大切に守られて、母が探索者は引退したものの後進の育成のために教官を行っているので家の家事は全部ツバサがやっていた。


 そんなツバサに気に入られたくて、常識として家で家族に守られている男の仕事とされている家事も手伝ったりしようとしたが焦がしたり洗剤を多く入れて洗濯機から泡が噴き出してきたりと邪魔にしかならなかった。


 ツバサは笑って本当おっちょこちょいだねと言って許してくれていたがこれじゃあ全然カッコよくない……。


 家で守られているツバサも決して外に出れない訳じゃないので襲われないように身元がちゃんとした探索者に護衛を依頼して出かけたり、私や母がついて行って買い物や遊んだりしている。


 外でカッコいい女の人を見つけてしまったら……。


 だから私のようなちんちくりんでキモい回復術士ではそのうちに他の女を好きになってツバサがどっかに行ってしまうと気が気ではなかった。


 でもツバサと結婚とか出来なくてもこうやって一緒に生活出来ればいいなと思っていたそんなある日私に絶望が起きた。


 私はある夢を見ていた。


 大好きなツバサが私の身体を求める夢だ。


 私だって貧相な身体はしていても身体は大人になってる。


 だから私はその夢の中でツバサに愛をささやかれ自身の身体を貪られていた。


『駄目だぞツバサ、今はお母さんが家にいるんだからそんなにされたらバレちゃう』


『いいじゃないかお母さんに見せつけてやろう。ほら新しい家族が出来るよって』


 そういう夢を見ていた私は起きて夢だと分かってからも身体の疼きを止められずに自分を慰めていた。


「んっ、ツバサぁもっとしてぇー」


 自分の手が自分の物じゃないように止められない。


 そしてヒートアップしていく行為だったが声が大きくなりすぎた。


「カリンどうしたの何か用、入るよ」


 と私の部屋に入ってきた。


 一応はノックはされたのだが私がこんな事をしているとは知らないツバサはノックをしながら入ってきたので私の痴態を見られてしまった。


 そして運の悪い事にツバサが入ってきてツバサと私の目があった瞬間に至ってしまった。


「カリン何考えてるの、この変態」


 そうツバサは叫ぶと怒って私の部屋の扉をバンと閉めた。


 それから私は下の階に降りてツバサを探したが居なかった。呆然自失としながらも学校に行かなければならないとツバサの用意してくれた朝ごはんを食べたが何も味がしなかった。


「ごめんツバサ、じゃあ行ってくるから」


 部屋に籠もっているであろうツバサに向かって謝罪する。もちろん返答はない。


 気まずさから私は急いで家から飛び出した。


 そして電車の中でどうツバサに許してもらおうかと答えの出ない問答を繰り返しているといつの間にか目的地の学校前の駅に着いた。


 そこで信じられないものをみた。


 ツバサの身体にいやらしく触れている女たちだ。


 私はツバサが1人で家を出ることはないと思い込んでいた。そんな事をすればツバサは飢えたオオカミの群れの中に入る羊のようなものだとツバサ自身も分かって居るはずだから。


 私はツバサがショックのあまりに家を思わず飛び出してしまうという可能性を排除していた。


 すぐにツバサに駆け寄ろうとしたが朝のこともあってちゅうちょしてしまう。


 私がヘタれているとツバサがその女たちから離れようとしていた。


「あの、お姉さん方非常に残念なのですが学校行かないと行けないんで離して下さい」


 ツバサにあんな痴態を見せつけた私を追ってきてこんな状況になっていることが分かった。


 私の謝罪を聞いてあの後すぐにツバサが追いかけて来てくれたのだと思った。


 そのせいでツバサはこんな怖い目にあわされているのだと私は私を殴りつけたくなった。そんなことよりツバサを助けないと。


「ちょっと待って、ツバサ。この人達は誰なの」


 そうまるで待ち合わせしていたカップルのように見せかけるためにそうツバサの肩を掴んみながら声をかけた。


 朝あんなに汚い所を見せつけた女に触られたくはないだろうがこうすれば何だ彼女持ちかと諦めてどっかに行ってくれるだろうと思ったのだ。


 それは思ったようにいかず私は強い力で押され倒れた。


 何て私は弱いんだと嘆いたがそんな事をしている暇はないツバサが……ツバサが……。


 そう無我夢中で女に立ち向かったが駄目だった。


 まるで歯が立たない。


 そして私というツバサと何かしら関係のある女の姿を見て、そいつらは余計に興奮した様子でこのまま野外プレイを初めてしまいそうだった。


 そんな事になったらツバサの笑顔はもう見られなくなるとしがみつき私はどうなってもいいと逃げるように促したがツバサは逆に殴られる私を見て怒っていた。


 そしてツバサはその女たちから逃げずに殴りかかろうとする悪手を放った。


 それも私を守ろうとして……。


 男が女に勝てるわけがない、体格の差が違いすぎるし筋力も劣っている男が勝てるわけがない。ただ彼女たちの嗜虐心をあおるだけだと思った。


 実際ツバサは殴られて骨が折れる音が聞こえた。


 そんな状況になってもツバサは逃げない。そればかりか衣服を脱ぎ上半身裸になった。


 私を守ろうとして自分の身体を差し出そうとしていると私は思った。


 ツバサに女たちは卑猥な言葉を投げかける。


 もう勝てない、目の前でツバサを汚されてしまうんだ。


 知らない女の下で気持ち良さそうにするツバサを想像してしまう。


『いいよ、これカリンじゃ味わえなかったの』


 見たくない……、見たくない……、見たくない……。


 だがそうはならなかったツバサの身体に気を取られて防御してなかったとはいえツバサは一撃でB級探索者を沈めたのだ。


 ああ、男に守られるなんてなんて情けないんだ。


 なのに私の腹の下はキュンと喜んでいた。


 ☆☆

 私は志乃マリ、カリンと私の親友の龍宮ナナの遺した子ツバサを育てている。


 そして私はいい母親であろうとしているがツバサ君に向けるこのドロドロとした気持ちを抑えられないでいた。


 この気持ちはただ子どもを残そうという本能ではないのだろうという所が本当に醜いと自分のことながら思ってしまう。


 それは私の過去にあった。


 今のカリンとツバサ君のようにナナとは小さな時から一緒で本当の親友であった。


 そしてそんな私たちには夢があった2人で最強の探索者になって好きなものを全部手に入れようという馬鹿みたいな夢だ。


 そんなどうなったら達成なのかイマイチ分からない夢を追うためにクラン『ドラグーン』を作った。


 最初は低級のダンジョンでも攻略に手間取り挫けそうになった事もあったがそれでも少しずつ進んで来れただって親友2人なら最強だったからだ。


 そしてとあるダンジョンを攻略中のこと今でも珍しく男の探索者が苦戦している所に出会ったのがきっかけだ。


 その探索者の名前は海野ソウヤ。


 後にナナと結婚して龍宮ソウヤとなる人だった。


 ソウヤを見つけ、魔物から助けたのもの私だ。


 そして私はソウヤに一目惚れしていた。初恋だった。


 ソウヤは私が熱心に誘ったのもあってドラグーンに加入することになった。


 クラン、ドラグーンでは私はナナより体格があったし、力が強かったのでタンクの役割を担っていた。そして攻撃魔法が得意なナナが私がヘイトを集めた魔物を後ろから倒し、ソウヤがナナに抜けていきそうな魔物や素早さを活かし魔物を強襲するなど女顔負けの体術で倒すというような布陣だ。


 そんなある日私はとんでもない事をナナから言われた。


 それはソウヤを抜いた飲みの席でのことだった。


 ついにソウヤ君と2人きりでの食事の約束を取り付けた私は頼れる親友であるナナに相談してもらおうしたのだ。


 爆弾はそこで落とされた。


「私、結婚するんだよね」


「へえー、誰なの相手は」


「ソウヤ君と結婚することになったんだ。だからマリに親友スピーチして欲しいんだよね」


 私はそのナナの言葉を受け入れられずに脳内で何回もリピートした。


 だがその意味はそのままの意味だった。


 ソウヤ君は私のことカッコいいって言ってくれてたよ……。魔物の攻撃を受けた時どんなに小さい傷でも心配してくれたよ……。それにソウヤ君は私と一緒ならってクランに入ってくれたんだよ……。


 私がソウヤのこと先に好きだったのに……。


「そうなんだ良かったね」


 なんとか荒ぶる内心を悟られないように声を出せた。


「ありがとう、そんでマリの相談って何」


「いや、何でもないや」


 それから私は何事もなかったかのように振る舞うのが精一杯だった。


 私は逃げるように人工授精を行う事でダンジョン攻略をお休みした。


 いっそナナを殺して、ソウヤ君を奪ってしまおうかとダンジョン攻略中に思ってしまったからだ。


 ダンジョン攻略中の事故は良くあることなのでバレない自信があった。


 だけどソウヤ君の笑顔を思い出し思い留まった。ソウヤ君の幸せが私の幸せ、例え結ばれなくてもそれでいいじゃない……。


 私はカリンを産み、ナナもツバサ君を産んだ。


 カリンが産まれるとそれまで忘れられなかった我が子の可愛さにソウヤ君を失った苦しみから解放され、ナナと話しても苦しくなくなった。


 それから子どもが産まれたのでクランを解散したがカリンとツバサ君を一緒に遊ばせるようになったのでこの3人の付き合いは変わらなかった。


 そしてナナと子育てはダンジョン攻略より難しいねと笑い合った。


 そんな中、ナナとソウヤ君が死んだ。


 ダンジョン攻略の第一線を退いていたため低級ダンジョンで後進の教育を行っていた際に本来は上級のダンジョンにしか出ないはずの魔物が出現し2人は新人を逃がすために残ったが装備も低級ダンジョン用で十分とは言えずブランクもあり死んでしまった。


 私は2人の死を悲しむと同時にツバサ君の事を思い出した。


 2人が死んだらあの子はどうなるのよ。


 そこで施設に送られそうになっていたツバサ君を引き取る事になったのだがツバサ君を育てるうちにソウヤ君が重なって見えるようになった。


 駄目よ、マリ。ツバサ君はソウヤ君じゃないのそれに私はツバサ君のお母さんでもあるんだから。


 理性で抑えようとするがツバサ君が大きくなるにつれてどんどんソウヤ君に似てくる。


 するとまた私の中でナナがソウヤ君を盗ったという怒りも湧いてくるようになってしまった。


 そんな中で今回のツバサ君が襲われそうになったところを一撃で倒したということ。


 やっぱりソウヤ君みたい。いやソウヤ君がまた来てくれたんだ。


 今度は失敗しないでねって。


 今度はツバサ君を……いやソウヤ君を私だけのものにするからね、ナナはもう充分でしょ……。





















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