第3話 妹と指切りげんまん
真隆は面接から帰ると、何だか身体がクタクタでベットに潜り込んだ。
『コンコン』
「うーん」脳裏に少しずつ大きくなっていく音に目が覚めていく。
「お兄ちゃん寝ているの?お母さんが夕食持っていけって。今日から手渡しじゃないとダメだって」
(何だよ。それ!!)
上布団を蹴り上げて、寝ぼけ眼でドアを開ける。
「ああ、ありがとな」
「お兄ちゃん、お久しぶりね」美月が、お盆を持ちながら話かけ
る。
「ああ」照れくささを隠せない。
「なんだか、こざっぱりしてるね。今日、面接いったんでしょ?」
「ああ」何で知ってるんだ?母さんが、言ったのか?
◇◇◆◆
ご飯を食べながら、名刺から調べた「ブルー」という名のショーパブ動画を見始める。
「これが、ショーパブ!」スマホの画面で見ても、大迫力だった。ダンス、ピアノ、歌、タップダンスやミュージカル等、素人目で見てもすごかった。
スマホの画面では広さが分かりにくいが、あの喫茶店の間取りでは広いとはいえないだろう。そのステージをめいっぱい使っていた。
一人一人が、半端ない上手さだ。
その中で、一番小さい娘が目に付く。何年か前に遡って見ると、如何にも素人だった。きっと、オーナーがいっていたバイトだろう。しかし、1年ごとに上手くなってきている。
「すごいなあこの娘」カレーを頬張りながら、この小柄ながらもダイナミックなダンスから目が離せない。
(実際に見てみたいなあ)
『コンコン』
食べたの下げに来たよ、美月の声がする。
「何だよ。それぐらい、自分で持っていくから」ちょっと煩わしく返事を返す。
「いいから。ちょっと頼みたいこともあるからさ」
「何だよ」ドアを開けると、パソコンの傍まで入って来た。
「この、動画見たの?」
「えっ、どういうことだよ」
「スマホにミッキーさんから着信が来たの。お兄ちゃんが、面接に来たって!」
「えっ、何で‥‥」言葉が口からでかかっていたが、理解した。
「もしかしてこの娘‥おまえか?」確かに。顔はいつも化粧だか被り物をしていて出てはいないが、背格好は美月である。
「何であんな所で、高校生がバイト出来るんだよ」つい、説教じみた言葉がでる。俺に説教する資格なんてないんだが‥
「最初は喫茶店から始めたのよ。お金がほしかったから。うちはお兄ちゃんに、お金がかかるから。お母さんには言い出せなかった‥。それに、店はくたびれているけど、ショーは一流なの。私のダンスをお金を払って、見に来てくれる客がいる。それが、私の喜びなのよ」
「原因は、俺かよ。まあそうだよな」今まで現実を見ないようにしてきたが、いきなりのげんじつ投下である。
「でもね。わたし、お兄ちゃんが入ってきて嬉しいの。わたしとは、違うかもしれないけど‥何か、変わる切っ掛けができたらいいなって」
「ふっ、これじゃあ。どっちが年下か分からないよな」
「それからわたしのこと、親には内緒にしてほしいの」
「当たり前だろ」それも、俺が切っ掛けだなんて言える訳がない。
子供の頃のように美月は、嫌がる俺に無理やり指切りげんまんをして、お盆を持って嬉しそうに俺の部屋を出て行った。
(変わる切っ掛けかあ)あるといいよな…。
人生が変わる切っ掛け KAC20255 クースケ @kusuk
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