第五編 幻想を見させてもらい

 誰にも必ず、その瞳の奥に幻想を持っている。


 君にしか見えない世界が、君にしか感じ得ない感覚が、君にしか分からない気持ちがある。


 それを知りたいと思うこと、それが愛かもしれないね、なんて綴ろうとしてハッと気づく。


 愛という概念自体が、実に人によってバラバラな価値観で、それこそ幻想であることに。


 例えば僕と君が愛し合える瞬間が来たとして、二人の見ているものは果たして同じなのだろうか。


 そうではないだろう。


 二人が見てるものは、それぞれに幻想を纏い、そこには仄かな期待と躊躇いがあるはずだ。


 それでも歩み寄りたい。


 それでも相手の髄まで知り尽くしたい。


 そう思った時に僕らに待ってることはなんだろうか。


 幻想の中に微笑む君は、輝かしくて、なんだか、この世界には相応しくないくらいだ。


 この世界はあまりにも残酷すぎてしまい。


 僕らはどうやって理解し合おうか。


 どうやって互いを信じていこうか。


 幻想を、どう、現実に組み込んでいこうか。


 そんなことはやっぱりわからない。


 でも、君のことを少しずつ知っていって、なんだかお互いに悲しい過去を持っていることを、探り合いの中で静かに悟っていって。


 それでも二人で横に並んで歩く道が見えたなら。


 幻想を見させてもらい。


 人生を、望めるだろう。君との人生を。

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