強面な後輩君が「僕、酒は一滴も飲めないんです」って言われた時にキュンッて来るアレ!
独立国家の作り方
恐れを知らぬ新入社員
今日は会社の新人歓迎会、部署の垣根を越えての宴会は、意外とこれまでに無い企画だ。あったとしても、女子会くらいじゃないかな。
私の隣には、入社2年目になる佐竹君が、その存在感を露わにしている。
「森本先輩、ビールです、どうぞ」
その問題の佐竹君が、私にお酌をしてくれた。
基本的に低姿勢だし、仕事はよく覚えるし、いい奴ではある。しかし、なんなんだ、このガタイ! デカいよお前! ウチら人事総務部ってさ、新人君たちの研修とか見なきゃでしょ、もうビビってるじゃん! 新人君達。
・・・・まあ、一部に羨望の眼差しで見ているのもいるけどなー。
「ほら、佐竹も飲みなよ」
「あ、すいません、僕、お酒一滴も飲めないんで」
ああ、そう言えばこいつ、酒飲めないんだよな。
本当に、顔だけ見たら、天下無双の戦国武将みたいに片膝付いて、デカい皿で日本酒呑んでそうにしか見えんけど。
そう言うギャップって・・ちょっと可愛く見えちゃうんだよね。
「えー、先輩ってぇ、お酒飲めないんですかぁ」
ほらほら、来たぞ早速。この子、絶対筋肉フェチだろ。
たしか秘書室の
いいなあ、キラキラネームとまでは行かなくても、菜々美なんて綺麗な名前で。
「佐竹先輩ってぇ、彼女とかぁいるんですかぁ」
こいつ、新人のクセにグイグイ来るな、今時って、こんな感じなのかな。
・・でも、ま、これくらいじゃなきゃ行き遅れちゃうよね。私も同期、ほとんど残ってないし。
それでも、こういう大きくて不器用そうな男に
乾杯の後、ようやく新人君達もリラックスしたのか、席を変え始める。
佐竹の近くには、筋肉大好き男子と女子がそれぞれやって来ては酒を進める、そして「一滴も飲めない」事情を説明する・・もう何度目だ? いっそ、飲めませんって張り紙しといたらいいのにってくらい。
「餌をあげないでください」って張り紙が一瞬頭に浮かんで、私は吹き出しそうになってしまった。
「大丈夫ですか? 森本先輩」
そう言いながら、新しいおしぼりを差し出す佐竹は、見た目とは違いその気遣いはもはやメイドの領域だ。
こういうのって・・・・ちょっとだけいいな、って思ってしまう。
体デカいのに、マメな奴っているよなー、たまに。
実は、とても面倒見が良く、後輩からも懐かれている。
頼りがいがあるんだろうな、今年は人事総務部に来る新人はいないけど、他の部署行っても新人君達は絶対佐竹を頼ってくるんだろう。
新人研修の時も、マメに動いていたしなー、こいつ。
「佐竹センパーイ、ねえ、私が注ぐんでー、一杯だけ! ね、一杯だけ飲みましょうよー」
ああ、菜々美ちゃんがグイグイ来て佐竹を困らせてるな。
コンプライアンスがあるから、上司が今それやることは無いけど、後輩って、それも女子社員ってあんまり関係ないからなー。ここは助け船、出してやるか。
「あのさ桜井さん、佐竹は本当に飲めないのよ、勘弁してやってよ」
「いえ、大丈夫ッス、僕、飲みます」
おいおいおいおい、大丈夫か? こいつ、意外とキャッピキャピの女子に弱いんだな・・・・もうちょっと骨のある奴だと思ってたのに。
って、思っていたら、飲んだ次の瞬間、あの巨体が私にもたれ掛かってきたではないか!
ちょっ、重い! 災害級に重い! 地震で家具が倒壊したのかと思えるヤバい重さだよ!
で、菜々美ちゃんが、すっごい顔で私を睨んでいる。
違う違う! よく見ろって! 酔って眠たいんだよ、うちの大型犬は! ってか、飲ませたのあんたでしょうに!
「大丈夫ですかぁ、先輩、ごめんなさい、無理に飲ませちゃって」
「・・ん? んん。 大丈夫、これくらい」
んー、大丈夫ってリアクションじゃないなー マンガみたいな酔っぱらいになっているぞ。
「ん、んあ? 大丈夫ー、僕、酒強いんで」
ん? 今、なんて?
大丈夫か? こいつ、飲むとこんなんなるんだ!
いや、重いのを除けば、ちょっと面白いかも。
デカくて真面目で、誠実が服着ているみたいな男だと思ってたけど、案外いじり甲斐があるじゃないか!
でかした! 菜々美ちゃん!
「あのー、私、先輩のこと、もっと知りたいですぅ。色々聞いてもいいですかぁ?」
「んぁ? ・・・・カモン!」
(ハハハ) なんじゃそりゃ! おっさんか! カモンって言うか普通!
「先輩ってぇ、趣味はなんですかぁ」
こら、ベタベタ触るんじゃない菜々美! もはや筋肉フェチを隠す気無いだろ!
そう言えば、こいつの趣味なんて、聞いたことないな。興味があるぞ、それ。ナイス質問。
・・・・まあどうせ、筋トレとか、ラジオ体操とか言うんだろうけど。
「・・・・べっ」
「べ?」
「ベっ・・ベリーダンス」
は? え? はい? ベリーダンス?
あれだよね、なんか女性がヒラヒラしたドレス着て、腰をフリフリする、中東のアレだよね!
もう、それを聞いた一同大爆笑だよ! 菜々美ちゃんなんて、腹筋崩壊しそうな程に笑い転げて。
私もビール吹き出しちゃったじゃん! 一瞬、ベリーダンスって名前のラジオ体操があるのかと思っちゃったよ! いやー笑った笑った! 凄いの持ってるな!
こいつがベリー踊るところ、見てみたいわマジで!
で、言う訳よ、誰かが冷やかして「おい佐竹、踊ってみろよ」的なことを。
佐竹は、ふら~と立ち上がると、ネクタイを外して、仁王立ちした。
やっぱりデカいな、もはやランドマークだよ。
きっと待ち合わせ場所とかに使えるんじゃないか? 「あ、今どこ? そっちからさ、デカい佐竹が見えたら、そのまま真っ直ぐ車で15分くらい進んだとこらへん、私そこの足下で待ってるから」的な。
そして、なんか可愛らしく膝を曲げたかと思ったら、今までのスローモーションが嘘のように素速く腰を振り始めたではないか!
盛り上がる会場、ベタンベタンと足を畳に打ち付ける、その度に小さく跳ね上がる私。
彼のダンスは、それまで個別に盛り上がっていた社員一同を、一斉に笑いの渦に巻き込むような引力を持っていた。
あー、他のお客さんまで見ちゃってるよ、大注目だな。
笑い事じゃないぞー菜々美ちゃん、ちゃんと責任取れよなー。
「じゃあ、じゃあ! お休みの日って、何しているんですかぁ」
追い込むな菜々美ちゃん! まだベリー踊っている最中なのに、イクねえ!
すると、ダンスを止めた佐竹は、再び仁王立ちになって沈黙した。
なんだか、怪獣映画見ているみたいだなあ。
そんな風に思っていたが、佐竹は急に、ボソっと名前を言い出すではないか。
「森・・森本先輩・・・・」
・・・・おい! 休日何してますか? の質問の冒頭に、無責任に人の名前を出すんじゃない! 何なの? 私が? 君の? なに? 休みの日に会った事なんて無いだろ! 変な噂になるだろうが!
「森本先輩・・だと思って、自分の掛布団に・・寝技を掛けています」
・・・・えっ?
お前、今なんて? シャレになってなくいないか?
会場が静かになっちゃったよ、どうすんだコレ、他の席のお客さんまで静かじゃん! 貸し切りかと思うくらいに、静かになっちゃたよ!
「布団に、寝技、掛けています!」
何で2回言う? しかもそこだけ! どうした? バカになっちゃったのか佐竹。
ほらー、どうすんだ? これ。
寝技って・・それ、絶対にグレコローマン・スタイルじゃない方のやつだろ! エロい方のやつだろ!!
さては、ウケを狙ってスベッたな? こんな壮大なスベり、私はフォローなんて出来ないぞ!
もう菜々美ちゃんが固まってるじゃん! やめろよな、普段誠実な奴が、いきなり下ネタ言うと、大体こうなるんだって!
「あの、佐竹先輩ってぇ、森本さんの事が好き、とか? ですか?」
菜々美ー! お前! このタイミングで聞くやつじゃないだろそれ!
どうするんだ? 今の佐竹は何言い出すか解らんぞ! ベリーダンスを踊り出す奴なんだぞー!
「自分は・・・・自分は・・・・」
よせ佐竹! もういい! もういいから! お前はもう一週間くらい黙っとけ!
「好きです! 森本先輩! 自分、好きです!!」
あー ・・・・ 言っちゃったよ。
ほらー、また静かになっちゃったじゃん。
「好きです! 森本先輩! 自分、本気で好きです!!」
だから、なんで2回言うんだよ!
2回目ともなると、会場から温かい拍手が起こった。
なに泣いてんだよ佐竹ー、泣きたいのはこっちだよ。
ほらー、菜々美ちゃんが凄い形相で私の事睨んでるじゃん。
「好きです! 森本先輩! 自分、好きです!!」
3回目! お前、わざとやっているだろ! 3回目!!
今度はなんだか、ヒューヒュー言い始めたぞ、うちのバカ社員どもが。
あーあ、もうこりゃ収集つかないやつだ。
そう思っていた時、突然、とんでもない質量の何かが私に落ちて来た。
地震? 災害? ナニコレ?
それは、酔っぱらって倒れて来た佐竹だった。
・・・・マジか。
突然、社員の前で告られたと思ったら、今度は乗っかられた。
明日から、どんな顔して出社すりゃいいのさ。
責任取れよ、佐竹!
強面な後輩君が「僕、酒は一滴も飲めないんです」って言われた時にキュンッて来るアレ! 独立国家の作り方 @wasoo
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作者
独立国家の作り方 @wasoo
都市伝説やタイムトラベルを絡めた恋愛ものが多いので、SFのジャンルになることが多いです。 長編から短編まで、色々書いていますので、読んで頂けたら幸いです!もっと見る
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