天下は布団にあり

六角

天下は布団にあり

 その昔、日本には伝説の動画配信者がいた。その名を、ドリコと言う。踊り子のドリコ。

 短尺の動画の中で音楽に合わせて歌って踊る。そんな流行りの動画配信サービスにおいて、ドリコはダンスで天下無双の称号を手にしていた。

容姿は、まあ、普通。

話は、まあ、そこそこ。

性格は、まあ、良くも悪くも。

でも、踊りがピカイチときた!

ピカイチ!いや!天下一!


 実際にそのダンスを目にしたものは必ずこう言う。

「あれはね。普通の踊りとは全然、違う。普通、踊りっちゅうもんは、音に合わせて体を動かすだろ。だが、その逆。踊りに合わせて、音がどこからともなく流れてくる。私はね。最初、疑いしましたよ。どこかに音源があるんだって。でも違った。音はね。流れてないんです。ただ、そのダンスをみるとね脳内に勝手に流れてくるんですよ。」


 足を動かすと、

ドンドンシャーン!ドラムだ。

 腕をぶんっと振ると

ジャーン!ギターだ。

 ステップを踏むと

タラララ〜!ピアノだ。

 肩を弾ませると

ベンベン!ベースときた。

手はカスタネット。指はハープ。肩はバイオリンに、腰はトランペット!どんな音でも出してしまう!

そんな不思議な力がドリコにはあるんですね。


さらに!そのダンスを見たものは必ず

「うおっ。なんだっ。」

踊っちまう。

踊らずにはいられなくなってしまう。

老若男女、神も仏も妖も。

踊ってしまう。


さらにさらに!地面が揺れる揺れる!木も揺れる!鳥は歌い!虫は奏でる!周りにある照明は門灯も街灯も、ピカピカ!

なんとも不可思議。


それだけじゃない!家がビルが跳ねる跳ねる!電化製品!家具!玄関の扉も!ずんちゃずんちゃ!

冷蔵庫はクールに。冷気を振りまきながら。

コンロは炎を、ぶわっと。

注目!スポットライトがパッ。

机と椅子のタップダンス!

たんたかたんたか。トントントン。

車は扉をバタバタ。

空に飛んでガソリンを振りまいて大炎上。

家は揺れに耐えれず崩壊していく始末。

中にいる人はそれでも踊る踊る。


いつしか、

踊っているのは彼女と無機物だけ。

炎上しきった車は、扉をキーキー。

崩壊しきった家は、瓦礫をガチャガチャ。

壊れた家電は、電気がバチバチ。

机と椅子は、足をボキボキ。


そこにね。どこからともなく、

布団がパタパタ飛んできて、

踊り疲れた彼女にふかふかな寝床を与えましたとさ。

めでたしめでたし。



え?何もめでたくない?あと途中に話してた人は?なぜ生き残ってるのかって?

「いやぁ、布団から出られなくってね。」

天下は布団にあり。天下布団なんつって。

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天下は布団にあり 六角 @Benz_mushi

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