布団ダンス

灰湯

布団ダンス

 僕の特技は布団ダンスです。


 布団ダンスとは、掛け布団や敷布団…枕を使って踊ることです。埃を巻き上げ、風を起こし、最終的にはお母さんを起こして、怒られます。


 人間誰しも、一度はやったことがあると僕は信じています。枕を投げたり、布団をバサバサと音がするほど叩く。布団にクルクルに包まって、床をコロコロする。

 

 簡単です。皆もやってみましょう。


 コロコロ、クルクル、バサバサ。


 風が起きて、埃が舞います。足音がしました。多分、お母さんです。

 このままじゃ、怒られるのは分かっています。

 でも、大丈夫。いいんです。怒られても。


 だけど僕は負けることだけはしません。絶対に負けません。布団ダンスは天下無双のダンスなんです。


 大丈夫…大丈夫。怖いものなんてありません。まだ終わりたくないんです。絶対に負けない。


 バサバサ、ボフッ、クルクル、ドスドス。バンッ!


 部屋の扉が開きました。そこにはお母さんがいました。お母さんは頭から角を生やし、顔を真っ赤にして僕を叱ります。


 イライラ、ガミガミ、ゴロゴロ。


 お母さんの雷が落ちます。でも、僕はそれが嬉しくて微笑みました。


 ニコニコ、ニコニコ、ニコニコ、ニコニコ…


 お母さん、もっと話して。僕をもっと叱って。怒って。何でもいいから…一緒にいて。


――――――――――――――――――――――――


 そこで、目が覚めました。

 絶対に負けないといったのに、僕は負けてしまいました。

 お母さんはもういません。僕は布団に包まって泣いていました。


 負けて…僕は此処へ戻ってきました。お母さんのいない…苦しい場所へ。


 此処で布団ダンスはしません。だって…いくら踊ったって…お母さんは来てくれませんから。


 怒ってもくれません。此処では布団ダンスは踊る意味がないんです。天下無双のダンスじゃないんです。


 お父さんが隣にいました。外は暗くて夜でした。

 僕は涙を止めようとして目を擦りました。

 でも、止まらなくて…そんな僕の頭をお父さんが撫でてくれました。


 布団ダンス。

 僕がお母さんに会えるダンス。

 幸せを壊す敵から…お母さんとの大切な思い出を守ってくれる天下無双のダンス。


 僕は強いです。泣いたりしない。自分にも…負けちゃいけないんです。


 お父さんは言います。いつか僕が強くなれたらお母さんにまた会えるって。


 僕はそれを信じていません。お母さんには夢の中でしか会えないのは分かっているんです。


 だから…夢の中で僕は何度も布団ダンスを踊ります。

 悪夢に変わらないように。目が覚めないように。


 『お母さんが消えないように』


 その度に、お母さんが僕を叱ります。絶対に笑ってはくれません。


 でも僕はそれが幸せです。怒られても…お母さんに会えるだけで幸せです。


 悪夢になんて負けません。

 天下無双。誰にも負けない自信があります。


 だから見ていて…お母さん。また会いに行きます。

 また…僕を叱ってください。

 僕の前に姿を見せてください。

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布団ダンス 灰湯 @haiyu190320

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