正義のヒーローはダンスで天下を無双する

ねくしあ@新作準備中

ぐんない

「ぐがああ……すぴー……」

『起きろ、AD-Ⅴ。時間だ』


 うるさいなぁ……いま何時だと思ってるの……ねむい……


『これは命令である。小官は軍務規定に従い警告を行った。次の警告が無視された場合、小官には規定第五条の通り強制的に変身を執り行う権利が発生する。直ちに起床したまえ』

「きしょー? 今日はいい天気ね……」

『……命令である。起きろ、AD-Ⅴ』

「もー、そんなに“これ”がほしいのー? だ——」

『執行官へ通達、AD-Ⅴへの変身を執行せよ』

『こちら執行官、了解。AD-ⅤへMHプロトコル起動』


 瞬間、私の両手両足につけられた輪っかの装置がきらきら光り、ふわっと浮いて一瞬でピンクの戦隊スーツが身を包んだ。


 ほんっとこれダサくて嫌……私子供の頃に戦隊とか見てなかったし。上官に文句を数千回は言ったけど全部規定がどうので無視される。


「そういや今は戦隊とかがテレビでやってる時間かぁ……』

『日曜日の昼近くまで寝ているのもどうにかしたまえ。それに——こちらからは貴官の行動が全て筒抜けだ。だから……毎回服をはだけさせるのをそろそろやめてくれないか。目のやり場にこまる』

「もぉ、そんなに見ないでよ、管理官。恥ずかしい。もしかして夜の私を見てオ——」

『執行官へ通達、転移プロトコルを要求する』

『こちら執行官、了解。転移プロトコルを起動』


 くひひっ、やっぱチェリーボーイはからかいがいがある。


 ——視界が切り替わると、そこは市内にある廃工場の中だった。いつもここに怪獣やら何やらが出てくる。


「あら、皆来てたのね。さすが」

「Ⅴが遅いだけだ。どうせ今回も強制的に変身して転移させられたんだろ」

「おいおい、変身の時に布団まで巻き込まれてんじゃん。ヤバいって」


 あ、本当だ。スカートみたいに布団が巻き込まれてる。管理官煽りすぎたかな……


「布団……!? もう、Ⅴちゃんったらしっかりしてよね!」

「Ⅲはその点大丈夫だもんな」

「えへへ、そうでしょ~」


 ちっ、あの黄色いⅢめ。清楚キャラで媚び売ってるの知ってるんだぞ。裏のどす黒い姿とか何なら録画録音してばら撒く用意だってある。覚悟しとけ。


「皆! あれを見ろ!」


 何かに気づいたようなⅠが注目を集める。

 その指の先には、くねくねした触手を身にまとう怪人がいた。


「くははは! 世界をこの触手で覆ってやるゲソ~!」

「そんなことはさせない!」

「私たちが!」

「世界を守る!」

「くははっ、そんなことは無理だゲソ! 喰らえ、《精神術式イデアコード混沌失踪カオスロスト》!」


 刹那——世界が渦を巻き始めた。


 分かっている、これは術式コードによるものだ。私たちにかけられた術式コードが視覚に異常を引き起こしている。

 でも……抵抗、できないっ!


「あたま~ふわふわ~」

「ありゃ、さけのんだっけ?」

「かえるね~」

「ふえぇぇん……ママ、つらいよ~」

「ちっ……この役立たずの同僚め!」

「ゲ~ッソッソ。後はピンクのお前だけゲソ~!」


 なんなんだよこいつら!

 いつもはもうちょっと活躍してくれるのに今日は一瞬でダウンしやがって……Ⅲとかママに泣きついてるし!


 こうなったら!


「《現実術式リアルコード獄炎龍ドラゴフェルノ》!」


 術式を作り上げると、私の背後に炎の龍が現れた。

 酸素を燃やし、世界を熱で包んでしまいそうな程に威圧感がある。


「これで死ねイカ野郎!」


 炎龍を怪人に向かってぶつける。

 空気をかき分け、轟音と共に突撃した龍に対し、怪人は術式で対抗した。


「《現実術式リアルコード瀑布ハイドロフォール》!」


 炎の龍は虚空から現れた大量の水によってかき消され、蒸発して辺りを白い水蒸気で満たしていく。


 私の布団が段々湿っていくのが分かった。

 重くて動きづらいけどここで脱ぐと全裸になるのでそれはできない。本当に最悪だ。


「バカゲソね、《精神術式イデアコード軟体行動オクトムーヴ》」

「っ……!」


 やばいっ、頭がふわふわする上に身体までまともに動きやしない!

 直立するのがやっとで——まるで骨が柔らかくなったみたい!


「ゲソゲソ! 人間は弱いゲソね~! もっと我を楽しませろ! 《精神術式イデアコード同族嫌悪ヒューマフォビア》!」

「……! 人間、嫌い!」

「嫌いだ!」

「襲ってやる!」

「死ね!」

「……うっわ、キモ。男が『殺してやる』じゃなくて『襲ってやる』なのリアル感あってキモいしⅢが直球な死ねなのもキモい。マジキモい」


 そんな事を口では言ってるけど、直立できなくてバランス取れないし術式勝負では勝てないしでどうすればいいかわかんない。本当にどうすればいいかわかんない。マジヤバい。


「どうせ死ぬなら踊ろう。うん、そうしよう。ダンスっていいよね、すごい楽しいし」


 なんかの歌で『もう踊るしかない』ってあったな~なんて事を思い出し、自分の趣味であるダンスをすることに決めた。踊れば多分なんとかなるのだ。死ぬ時に痛くなくなるとかある。しらんけど。


「ワンツー、スリーフォー、ファイブシックスセブンエイト」


 おぉ、すごい! 激しめのダンスだと身体に骨なくてもなんとかなる! 地面にずっと足をつけてないし結構いいかも!


「うらあああ!」

「うおおおおお!」

「死ね!!」

「ワン&ツー&スリー&フォー&ファイブ&シックス&セブン、エイト」


 襲いかかってくる同僚たち。そこに、私のダンスによって振り回された布団が直撃する。


「うわ——」

「し——」

「あ——」

「な——」

「うわナイスヒット。こりゃ、布団で吹っ飛んだ、ってか?」


 ……。


「死ねこのイカ怪人ッ! 《体内術式ボディコード極限強化アンリミットエンハンス》ッ!」


 足に力を込め、腕を引き絞り——時空をブチ抜く。


「ゲソッッッッッッッッ——!」


 無限まで加速された布団に直撃した怪人はソニックブームを起こしながら彼方へと消えていった。


「状況終了。管理官、転移プロトコルを要求する」

『核爆弾みたいな威力してる……こっわ——こちら管理官、執行官へ通達、転移プロトコルをを要求する』

『こちら執行官、了解。転移プロトコルを起動』


 あー、ほんっとヒーローは疲れるね。

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