ダンスで決着をつける!!

さんゼン

第1話

 なくならない貧困、なくならない戦争、ひたすら進むばかりの環境破壊。少子高齢化、教育格差、政治家の汚職。


 そんなニュースだらけの現代社会で、ある日、ひとりのつぶやきが一大ムーブメントを巻き起こした。


「もう面倒なことは全部ダンスで決着つけねえか」


 そして、その通りになった。


 道端で喧嘩するカップルがいれば、


「どっちが悪いかダンスで決めんぞ!」


「望むところよ!」


「「勝負!!」」


 突如流れ出すダンスミュージック。激しいステップを踏んで踊り出す男、女は「リズム取れてねーぞ」とピストルの形で耳を指差す煽りを入れる。


 攻守交替して女が妖しい動きで躍り出せば、男は「その動き、有名どころのパクリじゃねーか」と両腕を上下に動かしてなにかを噛んでいるような煽りを入れる。


 さらに攻守は交代し、テンションは最高潮へと達し、ギャラリーも巻き込んでの大勝負に発展する。


 そして――


「俺が悪かった。お前のパッション、受け取ったぜ」


「私もわがままだった。貴方のコンビネーションかっこよかったわ」


 二人は健闘を称え合い、よりを取り戻し、抱擁を交わし合うのだった。


 ところ変わって、学校で不良によるいじめが発生すれば、


「よお、N太。お前良いもんもってんな。ちょっと俺に貸せよ」


「だ、ダメだよ。Gに貸したら帰ってこないじゃないか。この肘サポーターはダンス用で、お小遣いを貯めて買ったんだ」


「お前のものは俺のもの。N太のくせに生意気だぞ!」


「じゃあ」


「おう」


「「ダンスで決着をつける!!」」


 突如重低音が鳴り響く体育館。


 豪快なパワームーブを繰り出すGに、N太は「そんなムーブは簡単だぜ」とタバコを喫うような仕草で挑発を入れる。


 攻守交替したN太はGとは異なる静かな立ち上がりを見せる。Gはそれを見て「ビビってるビビってる!」と両膝を震わせるような仕草で挑発を入れる。


 が、それはN太の策略だった。Gが挑発を入れたのを冷静に確かめてから、Gのパワームーブをはるかに上回る難度の技を華麗に繰り出したのだ。


 敗北を悟ったGは膝をついて項垂れる。


 N太に己よりも優れたダンス力があることを認めた瞬間だった。


 とはいえ、ダンスが終わればあとはノーサイド。


 ふたりはそれからダンスの技を切磋琢磨する親友となった。


 そしてまた、地球の行く先を占う重要な取り決めも、ダンスによって決められようとしていた。


『さあさあさあ始まりました。世界の命運を決めるダンスバトル! 本日も実況はわたくし、万民のお耳の恋人ジョンAが務めさせていただきます! 解説は伝説の鈴木さんに来ていただいております! 鈴木さん、本日の勝負、予想ではどのような運びになるでしょうか』


『まるで予想ができません。相手は宇宙人ですからね。そもそも身体の構造からして我々人間とは違います。これまで見たことのない勝負になるでしょう』


『なるほど、それは楽しみですね! では、さっそく登場してもらいましょう! 人間代表! 天下無双のダンサーK!! 宇宙代表! 変幻自在の軟体生物ショゴス!!』


 ドームのバイブスはぶちあがった。


 その日のダンスバトルは、宇宙史に刻まれる伝説のダンスバトルに――


「――んあっ?」


 Kはそこで、目を覚ました。


 一瞬前後不覚に陥ったが、いつもの布団の上に自分がいることを自覚して、ハハっと笑う。


 自分は夢を見ていたのだ。それも、ずいぶんと荒唐無稽な夢を。


 なんだ、宇宙人と世界の命運を賭けたダンスバトルって。


 そんな妄想を抱くほど、自分は疲れているかもしれない、とKは思った。


 朝の支度を終え、部屋を出ると、外には秘書が待ち構えていた。


「世界大統領、お時間です」


「うむ」


 世界大統領であるKには本日重要な仕事があった。


 秘書に案内された部屋へと入ると、腹の底を震わせるような重低音が鳴り響いていた。


 部屋の奥にはニヤつきながらKを見る大柄の男。


 世界大統領は、世界で一番ダンスがつえーやつが務めることになっているのだ。


 男が一歩前に出て、Kはネクタイをほどいた。


 ふたりは同時に言う。


「「ダンスで決着をつける!!」」

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