幕間 ちゃんと返すよ
ガチャガチャとアケコンを動かして、部屋で格ゲーを楽しむ。オンラインで対戦して、相手に綺麗にコンボを叩き込んで倒すと余計に楽しい。
「ふぃ〜。この人、めちゃくちゃ強かったけど勝ってよかった〜」
強いと言えば、優真はコンボ覚えるの早かったし、他のキャラでやらない? って聞いてみても、紫亜ちゃん関連じゃないからやってくれないし、紫亜ちゃんはぶっちゃけ強すぎてボコボコにやられるから気乗りしない。だって、何回やっても勝てないから私が諦めた。
紫亜ちゃん、なんかプロゲーマーかなってくらい強いんだもの。私もある程度強いと思うんだけどなぁ。ゲーセンで人とよく対戦するし。なので、紫亜ちゃんとは最近違うゲームで遊んでいる。
一息しようとアケコンを置くとそのタイミングでチャイムが鳴る。誰だと確認すると優真だったので居留守を使おうと無視を決め込む。
するとドアをガチャガチャしだしたので、慌てて私はドアを開けた。
「居るなら、さっさと開けなさいよ」
「だって〜。優真が来るとだいたい私、シメられるんだもん」
そう。ゲームして遊んでくれるならいいけど、ほとんどそうじゃない。父さんや母さんから私の様子を見てきて欲しいって頼まれて来ている事がほとんどだし。
ズカズカと上がり込んで来て優真はさっきまで私がゴロゴロしていたソファーにドカッと座る。
「私の居場所が〜」
「うるさい。早く来たんだからお茶でも出しなさいよ」
「偉そうだ〜」
「あんまり文句言ってると、あんたが私に返してないお金、今回収してもいいんだけど」
「ぐぬぬ……待ってなよー」
仕方ないと肩を落として私は冷蔵庫から麦茶を出す。コップに注いで出すと優真はそれをノータイムで飲んだ。
「で、要件なに〜」
どうせ、怒られるんだろうな、と思う。
だって一昨日に人から借りた金はちゃんと返せと私の首根っこ掴んで私のバイト代から借金返済してたし。それも父さんや母さんに頼まれた事だったらしいけど。流石私の両親、私の行動がよく分かっている。
「……あんた、紫亜の事好きだから惚れさせる〜とか言ってたの嘘だったんでしょ」
「あれ〜。それに今更気付いたの?」
「紫亜の事になると頭に血が上るのよ」
冷静にそれだけ判断しているのは凄いな、と思う。客観的に自分が見えている。
「そうそう。優真の誕生日当日に丁度定期ライブやるって先輩から聞いてたし、紫亜ちゃんビジュつよつよだし、声もいいから丁度いいかなって、それに優真の恋人なら余計優真は喜ぶでしょ?」
紫亜ちゃん、優真と仲良さげだったから、喜ぶかなとは思ってたけど恋人と知ってから紫亜ちゃんしか居ないって思って頼んだ。本当に、優真が喜べば、ワンチャン借金返さなくて済むし。
まぁ、本当はエルちゃんに頼みたかったんだけど、エルちゃんって私になんか当たり強いんだよねぇ。なんでだろ。エルちゃんにはお金借りてないのに。
「喜ぶでしょってあんた……はぁ」
「あれ? ダメだった??」
優真、ステージから見た時にめっちゃ嬉しそうな顔してたと思ってたけど。
「ダメな訳ないでしょ。嬉しかったわよ。そこだけは優華に感謝してる。……で、本音は?」
素直にお礼を言いつつも、優真は私の本当の所を言えと促す。まぁ、私の本音は一貫して……。
「優真、この前借りた一万円をチャラにしてください」
渾身の綺麗な土下座。本当にベースの弦の予備を最近頼んじゃったから返せない。だってあの弦、六千円近くするし、あの弦以外使いたくないし。
チラッと顔を上げて優真の様子を伺うと凄い、その、般若みたいな顔をしていた。
「お、怒ってる?」
「あんたに感謝した私が悪かったって反省してたのよ。……やはり、今、ここでぶん殴るべきね」
本気で拳を握っている優真。めちゃくちゃ怒ってそう……怖い。というか優真に殴られるのは初めてじゃないけど痛いから嫌だ。たんこぶ出来るもん。本当に!!!!
「ごめん!」
殴られると思って目を瞑ると痛くない。
「……あれ?」
目を開くと露骨にため息をつく優真。
「……ステージ上で歌う紫亜が見れたから今回は許してあげる。けど、次は無いから」
「え、本当!? という事は借金はチャラ……」
「半額の五千円は返しなさいよ。……父さんの手伝いとはいえ、一応バイト代から貸したんだから、全額返って来ないのは痛いわよ」
ぐぬぬ……流石に全額は無理か。うーん。まぁ、ギリギリ弦は買えるし、セーフか。それに今返さないと後からだと一万円に戻るかもだし〜。
「分かった! 返す! 今返すよ。五千円!!」
財布を引っ張り出して、四千円あったから、小銭で後、千円ないかと掻き集める。
「……あんた、本当にこれでよく一人暮らし出来るわね」
「毎月振り込んでくれる父さんと母さんのお金のお陰だよ〜。バイト代は趣味に注ぎ込んでるし」
「清々しい程のクズね。そのお金を使いまくるからこれなんだろうけど」
呆れた顔をしながら、私からお金を受け取り優真はまたデカイため息。
「もう返したからいいでしょ〜。帰って〜」
「あ、そうだ」
「……何?」
「あのステージの映像とかないの?」
あのステージとは紫亜ちゃんが歌った時のライブだろう。確か先輩が先生に頼んで録画して貰ってるって言ってたな。そのステージで演奏した子に渡して、出来てない所とか出来てた所の確認出来るかららしい。ちなみに私も演奏してたから先生が今度くれるって言ってたかも。
「あるよ〜」
「ふーん。そう」
あれ、この反応……。
「あれ、優真、欲しいの?」
そう聞くと優真はピクりと動きが止まる。
「そりゃあ、欲しいに決まってるでしょ」
「ふーん。……まぁ、先生が今度くれるって言ってたかも〜」
「……それ、今度改めて見せてくれる?」
まぁ、見せるも何も、元々は優真の誕生日だったから紫亜ちゃんを指名したんだしなぁ。
それに謙虚に見せて欲しいだなんて、優真は優しいなぁ。私ならちょーだいって言ってるもんね。
「ま、私のやつあげるよ。どうせ、演奏見返したりしないし〜」
自分の演奏のダメな所は案外知ってるし、ライブハウスで他の人の演奏聴いてる時とか身に染みて分かるしね。
「え、くれるの!?」
「え〜。なに、その反応〜」
「いや、あんたの事だからお金くれって言うと思った」
「あ!」
いい提案を聞いたとポンと手を叩くと、要らない事を言ったという風な表情を露骨にした優真。
まぁ、本当ならそうしたいけど、まぁ、優真の誕生日だから紫亜ちゃん呼んだしなぁ〜。
「まぁ、別に誕生日プレゼントにあげるよ〜。これで五千円分の働きね〜」
本当は五千円分には足りてはないけれど。私に出来るのはこれくらいだし。
「五千円分の働きはしてないじゃない。……でも、ありがとう」
少し調子に乗ると軽いデコピンされて、「いてっ」とは言ったものの、素直に嬉しそうに微笑む優真に私は満足するのだった。
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