終わり
「ご報告。優真とパートナシップ制度で実質結婚しました! そして、一緒に暮らします。よし、報告終わり!!」
小声で両親のお墓の前で発表する。あれから、高校を優華ちゃんのせいで余計にわちゃわちゃしながら、卒業して、それぞれ大学に行ったり専門学校に行ったり、就職したりした。
優華ちゃんは大学に行かずにバンドマンになると言い、そのまま宣言通りにバンドマンになっていた。宣言通りにはなるのは本当に凄い。
さてとと立ち上がり私は動物とかに荒らされないようにお供え物を回収して帰宅する。
それから、私は職場に急げとあわあわして準備して出て行く。優真からはそんな私に「後から行くから」と声を掛けられて「分かった〜」と返事をした。
私の職場は定食屋。ちなみに店主は私。優真や家族、友達等に料理を振る舞って「美味しい」と言って食べてくれていたのが好きだったからやりたいと色々資格を取りに行ったり、家族にお金を借りて店舗を買ったりと色々頑張った。(本当は金融機関に借金して返済しようと思っていたが、お父さんが別にそのくらい出すよと言ってくれたが大金なので返させて欲しいと頼んだ。専門学校のお金までも出して貰ったので、これくらいは返させて欲しい)
ちなみに家族への借金はお父さんが「返せる時にゆっくり返しなさい」と言ってくれているので、お言葉に甘えてそうさせて貰っている。
「ふぅ〜。エルちゃん〜。おはよう〜。ごめんね。遅れた〜」
「おはよう。別に良いよ。いつものお墓参りだろう?」
「うん。色々優真との事言っときたくて〜」
「ふふっ。報告は大事だからね。さて、仕込みは色々進めておいたよ」
「ありがとう。エルちゃん〜」
エルちゃんは高校生の時に進路決めた私が「ここの専門学校に通う〜」と言っていたら、エルちゃんも「奇遇だね。私もそこなんだ」と和やかに眩しい笑顔で言われたのを今でも覚えている。
そのままエルちゃんは調理師免許やら色々と資格取ってて、私が「お店開くんだ〜」と言った時も「良ければ雇ってくれないか?」とこれまた後光が差すくらい眩しいエルちゃんに言われて、どうせ人を雇わないといけないし、エルちゃんなら性格の相性良いから私もやり易いなと思い、是非ともお願いしますと頭を下げたな。
エルちゃんからは頭は下げなくて良いのに、と言われたけれども。
ちなみにエルちゃんが居るから、エルちゃん目当てに来るお客さんが多くてお父さんへの借金が思ったよりも早く返せそう。流石エルちゃん、神様、仏様、美の神様のエル様。
エルちゃんとは休みも一緒なので、たまに好きなお店行って食べ歩きしてる。優真はエルちゃんと一緒にお店する〜って言った時は露骨に嫌そうにしてた。
だから、優真が嫉妬するかもと思い、休みにエルちゃんと食べ歩きすると言うと「それはエルと行きなさい」と昔と同じローテンションで言われた。本当に優真と一緒に行った京都旅行の時に食べ歩きはもう懲り懲りなったのだろう。そして、嫉妬ポイント制度は今でも健在だ。
それから開店時間になり、忙しい昼時を終え、一息つく。その頃に見知った顔の人達がやってくる。
「いらっしゃいませ〜。今日はきょーかちゃんも一緒?」
「ふふっ、そうです。二名でお願いします」
「ここのお店、美味しいからね。それにお財布に優しい日替わり定食もあるし」
この時間帯に入ってくる人達はれーなちゃんときょーかちゃんだ。
二人共、公立の図書館の司書さんをやっている。今日は多分二人の休みが合ったので一緒に来てくれたのだろう。
れーなちゃんは本が好きでそのまま司書さんになりたいと資格の取れる大学に行った。何故かきょーかちゃんも一緒だったらしい。まぁ、私的には二人共仲良しで嬉しい。
それにれーなちゃんにはオススメの本を教えて貰い、それを図書館で借りたりする。きょーかちゃんはこれを読め、あれを読めと言ってくるけど、なんだかんだ私が好きそうな本を選んでくれるから素直じゃないだけだと思う。
二人共、日替わり定食を頼み、今日の日替わり定食はチキン南蛮定食だから注文を取って作る。他のお客さんの料理もやったり、エルちゃんも手際良く作業してくれる。そして、料理を提供すると二人共美味しそうに食べていた。
「ふふっ。紫亜ちゃんのチキン南蛮、本当に美味しいです」
「本当よね。卵にもこだわってるんでしょ?」
「ふっふっふっ! ちゃんと近所の卵農家さんから新鮮なのを仕入れているよ!!」
交渉したら、良いですよと言ったのでわりとトントン拍子で契約は進んだけれども。
後、高校時代のファンクラブ会員だった薄井さんはここで普通に従業員として働いてくれている。なんか目の保養だからって言ってた。他にも従業員やパート、アルバイトの人達も居る。
この前、元ファンクラブの人達が来たりとかJリーガーになった葛西くんとかなんだかんだ同じ高校だった人達や専門学校で一緒だった子達も来てくれたりして結構有り難い。
それから、優真がやって来て、優華ちゃんの首根っこを掴んでやってきた。
「いらっしゃいませ〜って優華ちゃん、何やったのさ」
今の時間帯、お昼にしては遅め、夕食にしては早めな時間なのでお客さんは居ない。
「こいつ、また私のお金返してないのよ」
「いくら貸したの?」
「二万円」
「返す返す〜!! 返すってば〜!! 明日、バンドの給料入るから〜」
「……どうせ、その言葉、当てにならないから明日あんたの所にまた行くから」
「うへ〜。最悪だぁ〜」
「最悪なのは私の方よ!!!」
「プロボクサーもモデルもやってるのに、ケチ〜」
「ケチじゃないわよ。借りた金はちゃんと返しなさいよ」
「優真の言い分が正論だから、優華ちゃんは返そうね〜」
優真は勝負が分かりやすいからとプロボクサーになり、試合がない日はトレーニングをしたり、その綺麗なスタイルを武器にモデルをやっている。
優真はボクシングで負け無しチャンピオンでその上、モデルも結構仕事が来るみたいでお金は沢山あると言えばあるらしい。
まぁ、優真が安定した収入があるまで私とパートナシップ制度を使わないと頑なだった。
私としては別に稼げなくても良いけど、優真的には私を養えるくらいお金がないと自分を許せなかったらしい。何ともまあ、優真らしいと言えば優真らしい。
ちなみに試合の日は定食屋を店長権限で休みにしている。どうしても優真の活躍は生で観たいし。
それから優真は多分目に付いたのだろうサバの味噌煮定食を頼み、優華ちゃんは優真にシメられてしょぼしょぼになりながら、五百円の日替わり定食(チキン南蛮定食)を頼んでいた。
優華ちゃん、本当にお金が厳しいんだな。いつも日替わり定食しか頼まないし。でも、優華ちゃんもテレビの歌番組やライブとかでツアーしたりと結構有名なバンドに居るんだけど、やっぱり浪費癖が凄いんだろうな。前に来てくれた時は新しい機材を買ったと嬉しそうにしてたし。
などと食べている二人を見て微笑ましく思った。
休日。優真は普通に仕事なので、お昼はエルちゃんと遊びに行ったついでに食べた。
何気なく家の鍵を眺めると高校生の時に優真から貰った可愛いたい焼きの食品サンプルのキーホルダー、それは私と優真の家の鍵に付けている。もちろん。優真の鍵には私が高校生の時にあげた白猫の羊毛フェルトをキーホルダーにしたやつを付けている。
本当に優真が今まで大事にしてくれていて、付けてくれていて嬉しい。
だから、私もこのたい焼きの食品サンプルのキーホルダーや中学生の時に貰った白猫のピアス、それにこれまでも優真に何気なく貰った物も全てちゃんと大事にしている。
それとこれは優真から貰った物ではないけれどもお母さんの形見も。
お互い、無駄に物持ちは良いなと嬉しい気持ちだ。
「まだかな〜」
夕食を作ってワクワクソワソワしながら、優真を待つ。
今日は「遅くなる」という連絡がメッセージが元々、入っていたが、本当にいつもよりも少し遅い時間に優真が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり〜。ご飯作ってるよ〜」
「本当だ。ありがとう」
一応、優真はプロボクサーでモデルなので身体に気を付けているのでそういうアスリートの人が食べる食事を作った。
ひき肉の野菜炒めやきんぴらやサラダやキノコのスープとか。
「「いただきます」」
二人で手を合わせて食べる。すると優真は「いつも美味しい。ありがとう」といつもお礼を言ってくれる。
二人でいつもご飯を食べて居ることに本当に幸せを感じる。あの頃、片想いをしていた私に将来は優真と一緒に幸せに暮らしているよと言っても信じないだろう。
「「ごちそうさまでした」」
食器は食洗機があるのでそれにぶち込む。ちなみに食器乾燥機もあるので家事が余計に楽になった。
優真も家事能力が初めの頃はやばかったけど、ちょっとずつ根気よく教えていたら、優真もちゃんと覚えた。料理以外は。
掃除洗濯は何とかなったのに、料理は何でかどうにもならなくて優真は流石に諦めたらしい。
私が体調崩した時はれーなちゃんや優真のお母さんに助言を貰って、お粥とかを買ってきてくれる。
「紫亜」
「ん? なに〜」
「左手を出して」
「……手?」
首を傾げながら、言われた通りに左手を出すと優真は徐ろにポケットから箱を取り出してそれをパカッと広げて、その中に入っていたキラリと高そうなダイヤモンドが光る指輪を私の左手の薬指につける。
「えっ!? もしかして結婚指輪!?」
驚く私に優真は「そうよ」と素っ気ない返事をしながら、私の左手に付けた指輪を見てうんうんと頷いている。
「やっぱりピッタリね」
「いつの間に用意したの〜。それに優真も付けてるし」
「前から頼んでた。今日出来たから取りに行ってたのよ。紫亜とパートナシップ出来たし、それに……」
「それに?」
「紫亜を一生幸せにするって約束の証」
恥ずかしげもなくあまりにも当然の様に真っ直ぐと言われたものだから、ついつい瞳に熱いものがくる。
「なに、紫亜。泣いてるの?」
その言葉にポロポロと涙が溢れて止まらない。
「うん。だって、嬉しい。ありがとう。……でも、一緒に幸せになるのは優真もだよ!!」
優真にそのまま抱き着くと優真も優しく抱き締め返してくれる。
「当たり前よ。私達は世界一幸せになるんだから」
「うん。幸せだよ!」
あの頃、長年片想いをしていた全然泣けなかった白猫は愛しい人との両想いを経て、泣けるようになった。
そして、今は幸せを感じて嬉しい事で泣いている。これからも色々な事が起こるだろうが、優真と二人ならどんな事でも乗り越えて行けそうだ。
そんな将来の幸せまで感じて私は優真と共にこれからの人生を歩める事を嬉しく思った。
白猫は泣けない 村雨 @kagtra423
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