サプライズ 2
「いや〜。本当に今日はよろしくね〜」
能天気な優華ちゃんの声を聞きつつ、私はただ今、リハ中。めちゃくちゃ緊張している。
今日は優真の誕生日当日の二月四日。即ち、軽音部の体育館ライブ当日だ。
ざわざわしている会場の声がステージ裏からでも聞こえてきてかなりド緊張。
「もう〜。紫亜ちゃん、緊張しすぎ〜」
「逆にあまりにも能天気過ぎない?? 優華ちゃん」
私や周りの軽音部の人達とは正反対に全然緊張とは無縁の顔をしている。
「ああ、私、バイトが前に居た所も最近始めた所もライブハウスだから、たまにサポートとかでベースやギターやドラムやキーボードで入るんだよねぇ〜」
「……ん? ベース以外にも出来るの??」
サラッと普通に凄い事言ってないかな。優華ちゃん。
「ピアノ昔、習ってたからキーボード出来るし、ギターはベースやる前からやってたし、ドラムは興味あったから、前のバイト先の所で仲良くなったドラマーの人に練習付き合って貰ってた」
性格はクズだけど、愛嬌はなんかあるもんな……優華ちゃん。お金、返してくれないけど。
「多彩だねぇ〜」
「そうでしょう! そうでしょう!」
思ったよりもドヤっててちょっとウザいかもしれない。それから、またリハ。なんだかんだ。能天気な優華ちゃんと喋って気が抜けたのが良かったのか、良い感じに歌えた。
「北見さん。元々、歌、上手いって初めて聴いた時に思ってたけど、もっと上手くなったね」
「そうそう。きたみん、良い感じになってる〜」
「本当ですか? 嬉しいです〜」
皆、褒めてくれて優しい。優しさが身に染みる。
ちなみに軽音部が歌が上手い人とかビジュ良くてそこそこ歌える人とかをゲストボーカルにして体育館で人前での定期公演をするのは珍しい事じゃないらしい。一年生は初心者とかが多めなので、演奏に集中したい人が多いらしいから、ゲストボーカル。
先輩達のバンドは学外やライブハウス等でやっていたりするので普通にギターボーカルやベースボーカルが居る。
一年生で優華ちゃんみたいに経験者も居るのでその人がボーカルをやれば良いのでは? と思っていたが、なんかボーカルは目立つ人がやった方が見に来る人が多いから、軽音部的にもやる気出るらしい。
定期公演をするのはせっかく練習してるのだから、人前で演奏しないとバンド組んでない人や一年生がやる気出ないという理由があるって優華ちゃんからも聞いたし、軽音部の人達も同じ事を言っていた。
私も上手いと言っても人並みくらいに上手くらいのレベルだが、そう言って貰えるのと、せっかくボーカルに選ばれたからには自信を持って歌わないとダメだと思う。なので「そんなことないですよ」という自虐はしない。
それからリハが終わり、本番直前。優真にはちょっと先生に捕まったから用が終わったら遅れて来ると言っている。
「あ、もう優真達来てる」
優真はもちろんエルちゃんやれーなちゃんもそれに、れーなちゃんに着いてきたっぽいきょーかちゃんや何処から情報を掴んだのか、私のファンクラブの薄井さん達も居る。
「さて、紫亜ちゃん」
「優華ちゃん」
「今日は練習した成果を見せようね!」
「あれ、意外に真面目な事を言うだね」
普段はいい加減でお金返してくれないのに。
なんて思っている私の思考が滲み出ていたのか、優華ちゃんは少し不服そうな表情をしていた。
「もう〜。私だって、自分から誘ったんだからメンタルケアくらいするって〜」
「え〜。信用出来ないなぁ。早く千円返してね」
「そ、その話はまた今度〜」
「あ、逃げた〜。……ありがとうね」
「緊張ほぐれた?」
「うん!」
「じゃあ、今日は本当に頑張ろ〜」
いい笑顔で能天気の笑う優華ちゃんを見ると何となく緊張感なくて気が抜ける。
でも、それが程よく力が抜けて上手く歌えそうだと思えた。
「じゃあ、本番行こう」
ステージに上がって、マイクの調整をして少し息を吐く。私がステージに上がると思ってなかった人達やファンクラブの人達は歓声を上げてくれる。
ステージ上から優真と目が合うと、優真は驚いていて私から視線を逸らせない様子だった。
……優真が見てる。なんだろう。優真と目が合うだけでなんだか落ち着く。落ち着いて喋れそう。
「軽音部……というか角田優華ちゃんに頼まれて、ゲストボーカルをします。北見紫亜です。気持ちを込めて歌うので聴いてください」
私の言葉が終わると共にカッコイイギター、それからどんどん楽器が共鳴していくように音楽を奏でる。
ちらりと隣を見ると悔しいけど、ベース弾いてる優華ちゃんは普段の頼りなさが嘘のように頼りになる。それにカッコイイし。
それから、私が頼まれた恋愛ソングを一、二曲歌い、最後にバラード曲。歌詞が片想いの恋愛ソングだ。
何となくこの曲の歌詞が私が優真に片想いをしていた時の気持ちと似ている。そのせいで私自身も気持ちを込めて歌える。
だからなのか、つい優真が居る方を視線で追ってしまった。すると、やはり優真と視線がかち合う。目が合うと優真は目を細めて微笑んでいた。心なしか優真から「頑張れ」と言われた様な気がした。
「ありがとうございました」
そう言って礼をするとパチパチと拍手が鳴り響く。そうして、私達がはけると次は先輩達のバンドでそのギターボーカルの先輩が挨拶をして、曲が始まる。
「きたみ〜ん!! 良かったよ〜!!」
「北見さん、本当に良かった! 本番でもっと良くなったって感じ!!」
「紫亜ちゃん、マジさいこーだったよ」
私を褒めちぎる同級生と緩く褒める優華ちゃん。
「いやいやいや! 皆の演奏も凄かったよ!! 本番もミスなかったし!」
歌うだけの私と違い、優華ちゃん以外皆は素人。三曲も練習して、ミスなく出来ていたのは本当に凄い。
「また頼んじゃうかも〜」
「こら、優華は調子乗らないの!!」
「それに角田さん、お金返して」
「ぐへぇ……色々言われる前に退散しま〜す」
「あ、優華ちゃん!」
嫌な予感がしたのか、優華ちゃんはしれっと逃げようとする。そんな優華ちゃんを慌てて呼び止める。
「なに〜」
「まぁ、千円は返して欲しいけど、今日は本当に誘ってくれてありがとう。優真を喜ばせられた様な気がするから、お礼、言っとくね!」
「ふっふっふ〜。じゃあ、優真が喜んでたら、借金はチャラに……」
「ならないよ。早く返してね」
「……はーい」
ちらりと私の様子を伺う優華ちゃんにそこだけは強めに言って、そのまま手をひらひら振る優華ちゃんと別れて、優真達の所へ向かった。
優真達の所へ着くと、エルちゃんから優真なら一度外に出たと言われたので優真を捜しに外に出る。熱気も少しあるから、切り替えたかったのだろうか。元々、優真は人混みとか好きじゃないし。
「優真っ!!」
自販機の前でミネラルウォーターを飲んでいる優真を発見。私の声を聞いて、優真は私の方を向いてキュッと蓋を閉める。
「紫亜……」
そのまま駆け寄って抱き着くと優真は抱き締めてくれる。ふわっと香る柔軟剤の匂い。本当にこの匂いが好きだ。
「……驚いた」
「ふふっ! そうでしょ! 優華ちゃんから頼まれたってのもあるけど、今日は優真の誕生日だからね。サプライズだよ」
サプライズが成功したのが嬉しくて顔を上げふと、優真はふと微笑んで私の頭を撫でてくれる。
「ありがとう。嬉しい。最近、紫亜と予定が合わなかったのはこの練習だったのね」
「うん。軽音部に入り浸りだった〜」
「……はぁ、という事は優華が紫亜の事好きとか何とか言ってたのは私を煽る為か」
心なしか、またかという表情。以前にも同じ様な事があったのだろうか。
私が不思議そうな顔をしていると優真が答えてくれる。
「あいつ、前にも私を煽って、突然サプライズだ何だのってプレゼントくれたりしたんだけど、その理由がなんだと思う?」
「……うーん。借金チャラにする為??」
当たりだったようで優真は静かに頷く。
「そう。その時のプレゼントがサイトに粘って買わないと買えない欲しかったランニングシューズで、しょうがないからチャラにしたのよ。まぁ、その時は二万貸してたから、一万は靴代、もう一万はサイトに粘って買った時間代って所だけど」
優華ちゃんは昔からしょうがない奴だと言って、ため息をついていた。
「なんか優華ちゃんらしいね」
「でしょ。まぁ、紫亜が私の恋人って知ったから紫亜に歌って欲しいだなんて、無茶ぶりしたんだろうけどね」
優華ちゃんの考えなんてお見通しの様だった。まぁ、優真と優華ちゃんは従姉妹同士だし、そりゃあそうか。
「……紫亜」
「なに〜」
「ラブソングオンリーだったけど、アレ、私の事を想って歌ってくれたって思ってもいい?」
その優真の答えにちゅっと背伸びをしてキスをする。
「当たり前でしょ。優真の事しか考えてなかったよ」
片想い中の時の事も思い出して歌ったし、気持ちもかなり込めた。だから、私の気持ちが優真に届いたのなら嬉しい。
「優真」
「何」
「優真の誕生日プレゼントは後で渡すね」
「今日は紫亜の家に行くから、その時でもいいけど」
「あれ、家族で祝うと思ってたから今日は誘うの遠慮してたんだけど」
よく何かあると家族で焼肉とか行ってたから、なんかお祝いがあるのかと思って誘わなかった。
「断った。紫亜と祝いたいって言ったら、母さんが今度祝おうねって言ってた」
「……私を選んでくれたのは嬉しいけど、本当にいいの?」
「いいのよ。母さんも紫亜と私の仲はもう知ってるし」
「……なら、優真の誕生日だから気合い入れて料理作るね!」
優真へのもう一つのサプライズに前に良兄と行ったお店は休みの日に優真を誘って祝おうと思ってたから、別日に予約を入れている。
なので私は今日は優真に喜んで貰えるように料理を頑張ろうと心の中で意気込むのだった。
「美味しかった。ご馳走様。まさか、ケーキまで作ってただなんて……」
一応、優真の誕生日なので、個人的に祝う為にホールケーキを作っていた。でも、今日は流石に家族と祝うかもと思い、全部自分で食べようとは思っていたけども、本人と食べれたのでそれが無駄にならずに済んだ。
「一応、準備してて良かった〜。個人的に当日に食べたかったし」
「本当に紫亜は私の事好きね」
「好きだよ。何年、片想いしてたと思ってるの〜」
「ふふっ。そうね。ありがとう」
それから、食器を洗い、家事を済ませてから優真に改めてプレゼントを渡す。
「タオル?」
「うん。優真は朝、ランニングしてるでしょ? だから、よく使うタオルにした」
結構お高めタオルだから、触り心地もふっわふわ。貰って微妙という事も無いだろう。
「ねぇ、紫亜」
「なに〜」
「大切に使うわね」
「うん。そうして!」
「じゃあ……」
「……じゃあ?」
そう言って、私に近付く優真。何となくそういう空気なのを察する。
「してもいい?」
「……いいよ」
「愛してる」
「私も愛してるよ」
ちゅっと、軽く触れるだけのキスをしたかと思いきや、それから徐々に深くなる。
「……はぁっ」
舌を絡めあったり、軽く吸われたりと私をじっくりと食べるようにキスされる。
唇を離されると二人の間に銀の糸が垂れて、そのまま名残惜しくも切れる。
「ベッド行こう」
「……うん」
ベッドに連れて行かれて、優真に服の下から優しく壊れ物に触れるようにお腹を撫でられる。
「……んっ」
ピクりと反応するとちゅっと優真は私のお腹にキスする。これから優真にされる事を想定して、ドキドキと心臓が脈打つ。心臓がまるで楽器になったみたいだ。
ちゅっと軽く私の唇にキスされて、ふわっとした感覚を胸に感じたのと同時に優真にブラのホックを外されたのだと自覚する。
服の下から胸を優しく触れられて、身体は優真のせいで敏感なので、またピクりと反応する。そのまま胸の突起を指先で虐められて、優真に触られているのが気持ち良くて先が硬くなっていく。
「好き。好きよ。紫亜」
耳元で好きな人にそんな事を囁かれると耳まで真っ赤になってしまう。
「耳も弱いよね。紫亜」
「〜〜〜っ!!! だ、誰のせいでっ!!」
「私のせい、でしょ?」
私に不敵な笑みを見せて、ちゅっとキスされる。
それから、ズボンを脱がされ、太ももをさすられる。触り方がなんかくすぐったくて、身体がピクピクと反応してしまう。
「……もうっ、優真のえっち」
「私の誕生日だから、えっちでもいいの。……触る」
「……うん」
じっくりと太ももや私の下着の周りを撫でてから、下着の中に手を入れられる。
「……っ」
「これなら、痛くないわね」
優真に触れられているから、私の下着の中はとっくに濡れていて、常に溢れている。
ちゅっとキスされて、それから胸の硬くなっている先の突起を口に含んでまるで飴を舐めているかのように舐められ、私のナカに優真の細長い綺麗な指先をスルッと挿入される。
「……はぁっ」
「気持ちいい?」
指先をバラバラに動かされて、私の好きな所を知ってる癖に聞いてくる。
「……好きな人がしてるっ……から」
気持ち良くて気持ち良くて、自分でも恥ずかしい声が漏れ出る。
「……あっ!!」
「……もう無理そうね」
余裕のない私に余裕しかない優真は嬉しそうに私の気持ち良い所を攻め続ける。その攻めに私は呆気なく屈して、優真の指を締め付け、やがて全身の力が抜けた。
「……はぁっ……はぁ……はぁ」
「少し休憩したら、またしよう」
「え、」
体力がもう限界な私に優真はサラッと恐ろしい事を言う。
「……ふふっ。冗談。紫亜が疲れてるの分かってるし」
多分、最近我慢していたからその言葉も嘘ではないと思うが、私を気遣ってそう言ってくれているのだと思う。
「……いいよ。疲れてるのは本当だけど、今日は優真の誕生日だから……それに」
「……それに?」
「最近優真としてなかったから、私もしたいって言うのはちょっとあると言うか……」
自分で言ってて恥ずかしくなるが、本音だ。優真の温もりをまだ感じていたい。
「……キツかったら言うのよ。嫉妬ポイントの時はちょっと加減出来ないけど、今はそうじゃないし」
「ふふっ。うん」
優真にまた深くキスされて、気持ち良い。そのまま、優真の優しい温もりに溺れていく。最中、優真に「今、最高に幸せだから、私も紫亜をこれからいっぱい幸せにする」と言われて、そのまま暖かい温もりと共に優真とこれからも幸せな日々が続きますように、と心の中で密かに祈った。
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