文化祭 3

 体育館に慌てて着くと、そこにはれーなちゃんがミスコンを見る席の場所を取っていてくれていた。


「あれ、れーなちゃん!?」

「ああ。紫亜ちゃんにエルちゃんですか。良かったです。間に合って」

「優真には……もう会えないよねぇ……」

「ですね」


 そう言ってステージに苦笑いで目を向けるれーなちゃん。


 れーなちゃんが場所を取ってくれなかったら、前の方で見れなかったから、ありがたい。


 私達が着いた頃にはミスコンは始まっていて、ミスコンに出てる一年生が自己紹介をした後にアピールポイントをやっていた。


 皆、制服でやるんだなぁ。まぁ、文化祭だしそりゃあそうか。てっきり、派手な衣装でやるのかと思っちゃった。


 流石、ミスコン。出てる子、皆、可愛かったり、綺麗な子だったりする。


 アピール時間は歌を歌ったり、ダンスしたり、身体の柔らかさをアピールしたりと様々だ。


 でも、その中で一際立ち姿が綺麗でアピールポイントが独特だったのは優真だ。


「一年五組、西園優真。オレンジの生搾りが出来ます」


 そう言って、手袋をはめてオレンジを片手で生搾り。


 確信的にこちらの方を見て、エルちゃんに向けてオレンジを握り潰している気がした。


 ……絶対、さっきのキスシーンを引きずってるよ。優真。


「へぇ。私に嫉妬しているのかな」


 涼しい顔で確信犯の癖に白々しいエルちゃん。優真への嫌がらせってはっきり私に言った癖に〜。


 去り際の優真は私の方を見て、少し安心した様な表情。


 その後、先輩のアピールも始まり、最後に誰が良かったか投票してくれとお願いされて終わった。


「西園〜。西園〜〜……っと、」


 優真の名前を書いて投票箱に入れる。そして、エルちゃん達に優真の所に行くからと伝えてから、私は優真の所へ。


「優真……!」


 体育館ステージを終え、出て来た優真を体育館の入口で出待ちして、呼び止める。すると優真はいつものローテーションな顔で私の手を掴む。


「ちょっと来て、紫亜」


 やっぱり、さっきの話かな。


 優真からしたらやっぱり嫌だった、というのは容易に想像出来る。私も優真が誰かとキスしてたら嫌だし。


 そう思いながら、優真に連れられて歩いていると、また体育館へ逆戻り。


「……へ?」


 なんでまた体育館なのか意味がわからずはてなマークが頭に浮かび散らす。


「紫亜、アレに出るわよ」


 そう言って優真がにっこりと微笑んで指差したのは「飛び入り歓迎! カップルコンテスト」だった。


「え、」

「紫亜。アレに出て、紫亜がエルよりも私との方がカップルとしてお似合いだって事を皆に見せ付けるのよ」

「えぇ〜!!」


 急展開。いや、本当に急展開過ぎない?


「……よく見つけたね。カップルコンテストなんて」


 ジト目で優真に言うと優真は不敵に笑う。


 ちなみに優真は私と会う前に勝手に手続きをもうしてくれたみたいでカップルコンテストにそのまま備える為に舞台袖へ。


 飛び入り歓迎な為に服装は何でもいいらしく、目立つがそのまま王女の服で出る事にした。もう着替えてる暇ないし。


「エルのせいでミスコンに出る事になった時に、体育館の近くの掲示板とか、体育館内にもチラシが貼られてたから、紫亜と出て優勝するのもいいなと思って」

「へぇ〜。でも、記念に出るのも良いかもね。……ん?」


 なんか、この自信家、聞き捨てならない事を言ったぞ。


「優勝って、言った?」

「優勝って言ったけど。私と紫亜なら最強カップルだし、当然でしょ?」


 何言ってんだこいつと私の方を見てそういう表情を浮かべているが、それは私のセリフである。


「いや、急に出る事になったし、二人でアピールする事ないじゃん〜」

「は、あるでしょ」


 確かカップルコンテストはお互い仲良しな所をアピールしろってチラシに書いてた。


「まぁ、私に任せときなさい」

「……それが不安なんだけど」


 優真の自信は何処から出てくるのか。……でも、まぁ、劇のキスシーンを見て、凹んでるかもと思ってた優真よりは全然良い。


「……とりあえず、出るからには頑張ろうね」

「出るからには優勝あるのみよ」

「それだと、強豪校のチームの部活じゃん〜」


 なんて言いながらも、優真は私の手を引く。優真と手を繋いでいるからか緊張なんて何処かに行った様に落ち着いてる。


 ……飛び入りなんて緊張すると思ってたけど。優真と一緒だからそんな事ないや。


「次は美少女カップルの一年五組の西園優真さんと一年三組の北見紫亜さんです!」


 司会者の先輩からそう紹介されて、ステージに出て行こうと優真に促される。


 ……それにしても美少女カップルって書いたな。優真。なんか自称みたいで恥ずかしい。


普通に出て行くと思っていたら、優真はおもむろに私を抱えてお姫様抱っこ。


「きゃ〜〜!!! 王女がお姫様抱っこされてるわ〜!!」

「さっきは王子とキスしてたし、罪な王女様ね〜」


 謎に盛り上がり黄色い歓声が凄い。さっきの劇を見た人はまるで私が二股かけてる王女みたいに言ってるし。


 その声に優真は少し……いや、かなりムッとしたのか、小声で「ステージの真ん中に着いたら、こっち向いて」と私に合図する。


 言われた通り、ステージの真ん中に着いたので優真の方を振り向くと優真はそのまま私にキスをした。


「「きゃ〜〜!!!!」」


 盛り上がる会場。そして、驚いて固まる私。満足そうな優真。


 チラッと客席を見るとやれやれと言った表情のエルちゃんに優真の事は分かりきっているのでやると思ってたと言いたげな表情の玲奈ちゃん。


「優勝カップルは私達よ!!」

「「うおぉぉぉ〜!!」」


 そう言って余計に客席を焚き付ける優真。そして更に盛り上がる会場。優真にお姫様抱っこされてる私はまるで、遊びに行くと思ってたら病院だった様な猫の顔をしていると思う。


 煽るだけ煽って優真は満足そうな顔をして、舞台袖へ帰って行く。


「優勝は私達ね!」

「……そうかなぁ」


 その後、続々とカップルが出て行き、私達並に盛り上がったカップルは文字通りの飛び入り参加した校長先生とその奥さんだった。


「校長先生達が一番のライバルね」

「……もう勝負はついてない?」


 ジト目でそう言いながら、結果発表の時間だ。優勝カップルは拍手の量で決まる。


 ミスコンと違ってこっちはなんか、アバウトだなぁ。


「結果発表!! 優勝は〜」


 結果は二位だった。私達の時の拍手は結構あったが、それでも校長先生とその奥さんの時の拍手の量に負けていた。


 ……まぁ、校長先生が相手じゃあなぁ。


「……負けた」


 思ったよりもめちゃくちゃ悔しがる優真。


 とりあえず、着替える為に、一年三組の劇の着替え用教室にしていた空き教室で制服に着替えて、王女の服を畳んで机の上に置く。後で皆の衣装を回収してクリーニングに出すから置いといてくれとクラスメイトに言われたな。


「二位でも凄いと思うけどな〜」


 先輩カップル達もアツアツっぷり見せてたし。美男美女の先輩カップルとか居たし、そのカップルに勝てただけでも凄いと思う。


「嫉妬ポイント」

「へ?」

「嫉妬ポイント、今、五ポイントだから」


 優真はそう言いながら、私に五本指を見せ付ける。


「劇でそんなに溜まったの〜」

「溜まった。それにキスシーン見せられて、かなり嫉妬した。だから、ちょっと抱き締めさせて」

「……え、そんな事でいいの?」

「いいのよ」


 これで一ポイント消費だけど、もっと他の事に使うのかと思った。


 そう思いながら、大人しく優真に抱き締められてると、しばらくして顎をクイッとされてそのままキスされる。


「これで二ポイントめ」


 唇を離して、不満を解消する様に優真はそのまま、また深いキスをしてくる。


 ガッツリと優真に頭や腰を固定されて身動きが取れない。優真とのキスは溺れそうなくらい甘い。甘くて溶けそう。


「……んっ」


 気持ちいい。……けど、このままじゃあ、少し息苦しいかも。 


 そう思ったタイミングで優真が唇を離す。繋がっていた銀色の糸が私達の間で名残惜しそうに切れた。


「はぁっ……はぁっ……」

「ごめん。加減やっぱり出来なかった」


 優真はぎゅっと私を抱き締めて、優真の心地良い体温が私の身体から離れる。


「これで四ポイント消費ね。で、カップルコンテストに付き合って貰ったから、それで五ポイント消費」

「それくらいなら、言えばしても良いのに〜」

「それでも、言うよりポイント消費の方が早いでしょ」

「確かにそうだけど〜」


 流石に今日は優真のやりたい事をポイントなしですると思う。それくらい、優真は不安だったと思うし、嫉妬したと思う。


「その為の嫉妬ポイントでしょ」


 私の心の中を読まれたかのように優真はキッパリとそう言う。


「……ぁ」


 不安になった時、嫉妬した時に相手に何か埋め合わせをしてもらう為の嫉妬ポイントだ、って言ったのは自分だ。


「紫亜」

「な、何」

「申し訳なさそうな顔、しなくていいのよ。だいたいあれはあんたの意思じゃないし、エルが悪かったんだから」


 私の両手を握ってくれる。なんだか、暖かくて優真に気にしなくていいと言われている様だった。


「優真……」

「紫亜、好きよ」 


 熱視線で私を見つめてそう言われると、私も頬に熱を帯びてしまう。


「そんなの……私も好き」

「でしょ。紫亜も私の事が好き。私も紫亜が好きなんだから、それでいいのよ」


 そう言っていつもの自信家を取り戻して微笑む優真は、いつもよりも柔らかい顔で私も嬉しい気持ちになった。


「さ、行きましょ。私の勝ちが発表される時間よ」


 優真は私の手を引いて体育館へ向かう。そういえば、そろそろミスコンの結果が分かる時間だ。


 ……本当にそんな自信。何処から出てくるんだか。でも、そんな自信満々の優真の優勝を私は信じている。


 優真と一緒に体育館に張り出されているミスコンの結果を見に行く。


「……本当に一位だ」


 信じているとは思っていたが、あの個性的アピールで本当に一位になるなんて。


 でも、確かに優真が見た目はもちろん、一番立ち姿や歩き方も綺麗だった。アピールは本当に個性的だったけれども。


「そりゃあ、そうよ。私が優勝するに決まっているでしょ」

「優勝したら、なんか貰えるの?」

「賞状とミスコン一位だったと来年の文化祭まで言える事」

「ほぇ〜。そうなんだ〜」

「食べ物なんて貰えないわよ」

「……流石に貰えると思ってないよ〜」


 少し金券かなんか貰えるのなら、優真に何か奢って欲しいな〜なんて思ってたくらいで。


「ふーん。そう」


 じーっと私を見つめて、軽く息を吐く。多分、私の思っていた事は優真にバレてそう。


「ま、いいか。紫亜、玲奈達と合流して文化祭を最後まで楽しみましょう」


 私の手を引いて柔らかく微笑む優真に私は元気良く返事をした。


「うん!」


 後に文化祭でミスコンを優勝した優真は、果物を片手で握り潰せるアピールをお化け屋敷でもミスコンでもしていたせいで「怪力ミスコングランプリ」というこれまたクソダサい異名を得た。

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