幕間 物語くらいはハッピーエンドを。
物語はハッピーエンドの方が私も好きだ。
報われないストーリーはそれはそれで面白いし、好きな人も居る。だけど、私はそれでもハッピーエンドが良い。
私は紫亜に振られた癖にまだ引きずっていた。未練タラタラだった。
紫亜への気持ちをまだ引きずっていたから、文化祭で喫茶店が出来なくなった時に劇がやりたい、とクラスメイト達に提案を出した。
劇をやらせてくれるのなら、ヒーローはきっと私でヒロインは紫亜になるだろう、と分かっていたから提案した。我ながらズルい人間だ。
……紫亜は最後までちょっと渋っていたが、前に売店のパンに新しいパンがあって食べてみたいとボヤいていたから、それを条件に出すと直ぐさま手の平を返していて、苦笑したけれども、ヒロイン役を受けてくれた。
私は私の気持ちを清算したいが為に脚本を書くクラスメイトにラブストーリーが良いんじゃないかと打診し、それをそのクラスメイトもノリノリでオーケーしてくれて書いてきてくれた事には感謝した。
本当に私は紫亜が思っている様な優しい人間じゃない。私利私欲な事も平気でする様な人間だ。
そんな私にも紫亜は優しかった。来世では、なんて余りにも諦めが悪い私に笑っていてくれた。諦めが悪い私にもそのままの変わらない親友で居てくれる。
そういう所は紫亜に救われるし、好きだ。……いや、人ととして好きなんだ。
劇はハッピーエンドで終わってしまったから、私は自分の気持ちを清算する。
これでやっとズルズルと引きずっていた紫亜への気持ちも友情として変換出来そうだ。私の大事な親友の紫亜へと。
カップルコンテストの舞台上ではキスをする二人を見て、優真は相変わらず負けず嫌いだな、と苦笑した。舞台上の優真にやっぱり少し嫉妬してしまう。でも、これは多分、親友としての私の嫉妬だろう。
そして、紫亜が着替えに教室に戻るらしく、優真もそれに着いて行った。私は玲奈と二人で後ろの方から文化祭のステージを見ていた。
軽音部のバンドライブが始まり、それに盛り上がる人々。そのバンドの流行りのバンドカバーを聴きながら、玲奈は私に話し掛ける。
「エルちゃん」
「……なんだい」
「思い出に出来ましたか?」
「そんなに私は分かりやすいかい?」
玲奈にはまだ紫亜に未練タラタラだった事がバレていた様だった。
「ふふっ。無理だと分かっていても好きだ〜という感じが紫亜ちゃんとそっくりだな、と思いまして」
「そうか。……似たもの同士だったか」
好きな食べ物や話など、紫亜とは以前から気が合うな、とは感じていた。でも、そうか。傍から見ると私達は似たもの同士だったのか。
「そうです。エルちゃんと紫亜ちゃんは似てます。……優しい所も」
「……それはどうかな。紫亜の方が私よりも純粋さ」
曲が流行りのバラードカバーに変わり、さっきまで盛り上がっていた雰囲気がしっとりとした雰囲気に変わる。
その曲を聴きながら、私は玲奈に問う。
「玲奈。ずっと聞きたかった事を聞いていいかい?」
「……なんですか?」
「玲奈は……あの日、私に優真を病院に連れて行ってくれと頼んだ時から、彼女の告白を断った事を後悔してたんだろう?」
それは優真が屋上から飛び入りた時の話。彼女は持ち前の身体能力でほぼ軽い擦り傷と打撲だけだったけれども。
あの日、私と玲奈は図書委員で図書室に居た。
その日は玲奈が少し遅れて来て、その後に大きな物音がした。それから、玲奈は優真だと気付いて、思ったよりも取り乱しながら、私に優真を頼んだ。自分に原因があるから、会いに行けないとも。
「……そうですね。優真ちゃんのメンタルは繊細な絹ごし豆腐だって、分かってたのに。あんな事をさせてしまった事を後悔してました。好きなら、好きと私も言ってしまえば良かった。私が嫉妬深くて束縛しちゃうから付き合わない方がいい、なんて思わなければ良かった、と後悔はしてますよ」
そう言った玲奈は深く息を吐いた。
「そうか」
「……優真ちゃんが紫亜ちゃんを好きになったのも仕方がない事なんです。私が自らチャンスを手放してしまった。だから、そうなってしまった」
「……未練はないのか?」
そう言うと玲奈はとびっきりの笑顔でこちらを向く。
「私は遊園地に行った時にちゃんと振られて、キッパリ未練は捨てました」
「ふふっ。それはそれは私には耳が痛い話だ」
玲奈は強い女性だ。それは私には出来ない。ズルズルと引きずって行った未練はやっと今日、切れた。
紫亜に向ける気持ちがやっと親友としての私で居られる。今、思えば私の告白はするつもりがなかったのだから、振っても気にしなくていい、いつも通りの親友で居て欲しいと頼んだのは私なのに、引きずっていただなんて、とんでもなくダサい始末だった。
ふむ。やはり私は紫亜の前じゃカッコイイ王子様では居られなかったみたいだ。
冷静に自分の事を考えると、来世では、と言っている辺り、ダサさにダサさを重ねている。
……紫亜にはずっとダサい私を披露してばかりだ。
素のダサい私を見せれて気楽で居られたから、紫亜の事が好きだったんだろうな。
王道のきっかけで、この学校で初めに私に声を掛けてくれたから、きっとその時から好きだったんだ。一目惚れだったんだ。
……本当に定番的で王道な私の恋のお話。
ステージ上のバンドが最後に盛り上がる曲の定番カバーをやり始めた。その曲にノリノリな観客達。
「この曲、好きなんだ」
こういう定番曲も私は好きだ。王道シナリオのハッピーエンドの様に定番的で。
「そうなんですか?」
意外そうな顔をする玲奈に私は言葉を続ける。
「ああ。何でも定番的なのも好きなんだ。だから、物語もハッピーエンドが好きさ」
「ああ。……ふふっ。だから、あの劇のストーリーですか」
いつもの様に笑いかけると、何となく察した玲奈は私につられて笑った。
私の恋はビターエンドだったが、紫亜。君の恋が、人生がハッピーエンドなら問題ない。
だって私は君の親友で、ハッピーエンドな話が好きだからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます