京都旅行
「ねぇ、ずっと気になってたんだけど」
「うん? なに〜?」
そう能天気に返事を返すと優真は私が荷造りしていた旅行カバンを指差す。
「ああ。あれ、明日旅行くんだ〜」
優真と恋人同士になれた嬉しさから口元が緩みまくりながら答える。
そんな私とは正反対に優真は眉を顰める。
「は、誰と?」
「うん? いや、一人だよ。私の本当のお父さんとお母さんが行ってた思い出の旅館に泊まりに行きたいなって思っただけだよ。ようやく二人を思い出に出来たから、寂しくなくなってきたし、その報告も今日お墓参りした時にも伝えてきたんだ〜」
「……は?」
優真は私の言葉に驚いたと言いたげな風に一時停止する。
それから私の肩を勢いよく掴む。
「え、何……それ、聞いてないんだけど」
私の肩を軽く揺らしながら、動揺しまくってる優真。優真にとっては軽くでも私にとっては力強い。
「そーいえば、言ってなかったかも〜。私、今の家の……早乙女の本当の子じゃなくて里子なんだ〜」
揺らされながら、隠す事でもないから、明るくそう答えると優真は何となく顔が暗い。
「苗字も……家族と違うの? えと、高校から家出たのもその……」
「うん? そーだよ。あ、でも誤解しないでね! 今の家族は皆、優しいし! 一人暮らしも高校が実家からちょっと遠いからなだけだよ〜。苗字が違うのも、本当は養子にしてくれるって言ってくれてたけど、私が今の苗字が良いって言っただけだから!」
「……まぁ、でも授業参観とかあった時も仲良さげだったから、それなら良かった」
一応、心配はしてくれたみたいだ。そういえば、学校では両親の方が北見さんと呼ばれているから、優真はそんな事に気付かなくて当たり前だ。
それに優真はマックスが家に居るから呼べないし。
「ねぇ」
「なに」
ぎゅっと抱き締められる。優真の匂いは何となく落ち着く。柔軟剤の匂いなんだろうけど、優真だからこの匂いは好きだ。
「私も紫亜に着いて行っていい?」
「へ?」
「……ダメ? 一人の方が良かった?」
流石の優真も私の理由を聞いているからか、いつもみたいに強引に来ない。
「ううん。いいよ。元々、お姉ちゃんが一緒に行ってくれるって言ってたんだけど、急なお仕事で来れないから誰かお友達と一緒に行っておいでって二人分あるし」
「よし、それなら決まりね。一緒に行こう。私、一回家に帰って準備してからまたここに帰って来るから」
「夜ご飯は?」
「紫亜が迷惑じゃないなら、一緒に食べたい……んだけど」
「えぇ〜。そんなの良いに決まってるじゃん〜。二人で食べた方が美味しいでしょ〜」
「そ。それなら良かった。お言葉に甘える事にするわ」
そう言って優真はじーっと私を見つめる。そして、私の右耳にそっと触れた。
「その……ピアス、さ。大事なの?」
遠慮がちに聞いてくる優真。今日はなんだかしおらしい。いつもグイグイ来るからなんか、調子狂う。
「あ、これ、……優真のピアスはもう付けられないって思ったからこっち付けたんだ〜。……あ、えと、これ、お母さんの形見のピアスで、私の誕生石のペリドットの宝石なんだって、本当はこっちを付けるためにあけたんだけど、付ける勇気が今まで持てなかったんだ。……でも、やっと最近付けられたんだよ」
悪い事では無いが、つい下を向いて答えてしまう。
「そう。……じゃあ、私のピアスは御役御免ね。やっと付けられたんだから、そっちの方が大切でしょ?」
優真は私が返した白猫のピアスを取り出して見つめる。私の気持ちを考えて我慢してくれてるのか、少し寂しそうに笑った。
「あ、いや! また明日が終わったらまた優真がくれた白猫のピアス、付けるよ! その……優真と恋人同士にまたなれたなら付けたいなって思ってたし。それに……」
「それに?」
優真と恋人同士になれた時の事は一応考えてたので、お母さんの形見のピアスの方をどうしようかは望み薄でもこうしたいなというのはあった。
「これ、リメイクしてくれるお店に渡してネックレスにして貰おっかな〜って思ってたんだ〜」
私の誕生石のペリドットのピアス。お母さんの形見のこのピアスをネックレスにリメイクして貰って付けてもいいんじゃないかと少し思っていた。
それなら、いつも通り優真のピアスを付けられて、お母さんの形見も身に付けられる。
何よりいつも一緒に居るつもりになれる。
「……そう。それは……嬉しい。このピアスをまだ付けてくれてる紫亜を見るの、いつもあげて良かったなって、嬉しかったから。……じゃあ、紫亜にあげたピアスだから返すわね。また、付けてくれるって言ってくれたし」
優真、私が付けてたの本当は嬉しかったんだ……。
穏やかな顔で私の右耳を指の腹で軽く撫でてから指先が離れた。
そして私に優真がくれた大切なピアスが渡される。
「……ん?」
「なに?」
優真は少し何かに引っかかるといった風な表情。そしてその後、また思い出したかのようにまた私の肩を揺さぶる。
「ちょっと! 紫亜! 誕生石がペリドットって、今月誕生日じゃない!?」
ペリドットは八月の誕生石だから、その事を今、思い出したのだろう。優真は慌ててる。
「えぇ〜。優真、今まで私の誕生日、興味なかったじゃん〜」
私の言葉にダメージを受けた優真はハッとしたような表情をした後にぐぬぬと言った風な顔。
「……そう、だけど!! 恋人になったから別! 私は紫亜が知りたいの!! 誕生日も教えなさいよ!」
「誕生日は明日だよ」
「あっぶな……じゃない! 誕生日プレゼント何にも用意出来てない。本当にごめん!」
申し訳なさそうに私に頭を下げる優真。
「えぇ〜。知らないのは仕方ないよ〜。だから、顔を上げて」
「仕方ない……事じゃないわよ」
優真は顔を上げて、私の頬を両手で包む。
「紫亜は私の誕生日、知ってたでしょ? ……お菓子とかくれてたし。だいたい、聞くチャンスはいつでもあったのに、紫亜の誕生日を聞く気がなかった私が悪いんだから」
「……プレゼント、覚えてたんだ」
確かに優真はれーなちゃん以外に無頓着だから、友人達に優真は「南さんの事以外興味無さすぎ」と弄られていた。
私は私で優真にあげたいだけだからと、あげていた。でも、高価な物だと遠慮するかなと思ってちょっとしたお菓子をあげるだけにしていた。
優真の事なので、見返りはどうせない事も理解していたので、自分の誕生日は教えてないし、そもそも夏休みに誕生日だからプレゼントを用意するのもめんどくさいだろうと聞かれた相手以外教えなかった。
「……紫亜、本当にごめん」
「なんで、また謝るの?」
「用意してなかったし、紫亜の事を知りたいって思った時に一番に聞けばよかったな、と思って」
知りたい……って思ってくれてたんだ。
思えば、そう言ってた気がする。私の事を知りたい、ってあの時から優真は私の事を気にかけてくれたのかと心がじんわり暖かくなる。
「その気持ちだけで十分だよ。嬉しい」
「……私は良くないんだけど。まぁ、とりあえず今は何にも思い付かないから、ごめん。一旦帰って旅行の準備してくる」
私に不意打ちに軽くキスをして、優真は立ち上がる。
「いってらっしゃい〜」
顔が熱いが手をぶんぶん降ると優真は微笑んで「いってきます」と私の部屋から出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます