京都旅行 2

「ふっふっふ〜ん♪ お好み焼き〜♪」


 フライパンをひっくり返してお皿の上でお好み焼きをひっくり返す。そしてそのひっくり返したお好み焼きをフライパンの上に戻す。


「お、焼けてる〜♪ ふっふっ〜ん♪」


 二人分のお好み焼きを作ってソースにマヨネーズに青のりを乗せて、最後の仕上げにかつお節をまぶす。


「美味しそうね」

「お、早かったねぇ〜」


  その一連の流れを見ていたらしく優真は関心したようにじっとお好み焼きの出来栄えを見ていた。

というかいつ帰ってきたんだろ。本当に早い。


 私はご飯をお茶碗に盛る。お好み焼きは立派なおかずだ。


「……お好み焼きだけで十分じゃない?」

「えぇ〜。足りないよぉ〜」


 優真は食事の事に無頓着過ぎる。食べられればなんでもいいタイプだし、そんなに食べないし。


「本当に、紫亜ってよく食べるけど、何処に入ってるのよ」


 ジト目で私の身体を見る優真に自分の身体を抱き締める。


「ジロジロ見られるの、恥ずかしい〜」

「……いや、今までお互いよく身体見てるでしょ」


 ため息をつきながら、優真はお好み焼きを机の上に置くのを手伝ってくれた。


「「いただきます」」


  お互い手を合わせて食べ始める。


「そーいえば、よく許してくれたね。優真のお母さん。優真の突然の旅行の事」


 優真のお母さんは常識人な人だから、今回の優真の行動も傍若無人な行動をして、私に迷惑をかけていると思われているのではなかろうか。


「え、怒られたけど」

「あ、やっぱり?」


 優真はお好み焼きを切って口に入れる前に答える。


  優真が私の家によく泊まりに行ってた癖に手ぶらだった事も良しとしてなかったっぽかったし。  


「うん。だけど、紫亜のお姉さんが急な仕事で行けなくなったからその代わりにって紫亜にお願いされた事にしたら、諦めたみたい」

「諦めたって、渋々じゃん」

「そうなるわね。……まぁ、母さんが紫亜に迷惑はかけるなって念を押してきただけだし」


 だから心配しないで大丈夫と言った風に優真はマイペースにお好み焼きを食べていた。


「「ごちそうさまでした」」


  二人共食べ終わると、優真は「食器くらい洗う」と洗ってくれて、私もそれならとお風呂の準備をする。


 そして湯が沸いたと軽快な音楽が流れた。 


「ねぇ、優真。お風呂沸いたけど、入る?」


 お風呂が沸いているのを確認してから優真に聞くと、優真は入ると即答。


「分かった〜。じゃあ、タオルとかバスタオルを準備するね〜」


 パッパッと箪笥から取って、タオルを浴室に持って行く。


「持って行ったから、入っていいよ〜」


 そう言ってリビングのソファに座ろうとしたら、浴室に向かおうとしている優真に腕を掴まれる。


「へ?」

「紫亜も一緒に入るのよ」

「えぇ〜」

「……嫌なの?」


 驚き過ぎて思わず固まると優真は少し眉を顰める。


「嫌じゃない……けど、二人で入るには狭いよ?」


 正直二人で入るとギッチギチになりそう。


「いいわよ。別に」


 気にしてないと言った風な表情。


 ……まぁ、優真が良いなら良いかと私も諦めて、自分の着替えやタオルを準備する。


 そして、浴室に二人で入る。入る前にシャワーを浴びて、二人共浴びおわると優真はシャワーを止めた。


「身体、洗ってあげる」

「え!? い、いいよ〜」


 今まではセフレなだけだったから、別々にお風呂に入っていたので、流石に緊張してしまう。


「いいから」

「ちっ……力強い〜」


 フィジカルモンスターの優真に力でかなうわけなく、強引に座らされる。


「むぅ〜。強引だ〜」

「恋人になったんだから、このくらいしたいんだけど。別にいいでしょ」


 耳元で言われたせいか、耳が熱い。


「そう言われたら、断れないの知ってるクセに」


 つい拗ねた様に言ってしまうが優真には効いていなさそう。その証拠にご機嫌にボディタオルにボディーソープを付けて泡立てている。


「どうせ、スケベな事しようとするんでしょ〜」

「いや、しないわよ? 紫亜、肌が白いから赤くなっても、傷付けちゃっても可哀想だし」


 優真は本当に何にも手を出して来ずに丁寧に私の身体を洗う。


うーん。これは、……あれだ。


「なんか、恋人に洗って貰ってると言うよりも飼い主がペットに洗ってあげている、みたいな〜」

「……動物は洗った事ないけど、相性悪いし」

「だよね〜」


 なんて言いながら、あまりにも下心のない洗い方をされているので、普通なら下は恥ずかしいから自分でやるとか言いたかったが、すっごい事務的に洗われる。


 そしてついに頭、めちゃくちゃモコモコ泡立ってる。後、なんか気持ちいい……頭、マッサージしてくれてる。


「ふぇ〜」

「なんて声、出してるのよ」

「なんかマッサージが気持ちいい〜」


 優真の指の力加減がとても良く、その上気持ちいいツボポイントを押さえている。


「そう? 前にテレビでやってた頭皮マッサージを紫亜で試してみただけなんだけど」

「……えぇ〜。実験台じゃん〜」

「まぁ、そんなんだけど、気持ち良かったら明日もしてあげるわよ」


 意外な特技だ……。優真は要領は良いとは思ってはいたけど、マッサージの才能もあったなんて……。


「優真の将来はマッサージ師で決まりだねぇ〜」

「寝る前に足つぼもやってあげようか? 心得てるわよ」

「ごめんなさい」


 調子に乗り過ぎたと反省する。うん。優真が本気になれば私なんてイチコロだもんね。


「いや、これは雑誌で読んだからツボを覚えてるし、やってあげようか? ってわりと善意だったんだけど」


 本当にそうだったらしく、優真は全力で嫌がってる私に困惑した表情を浮かべていた。


 それから、お風呂を上がり、明日は午前中に京都に向かうからと二人でベッドに入る。


「ねぇ、紫亜」


 囁くような声。正直恋人になったせいなのか、いつも通り密着されているだけなのにドキドキしてしまう。


「な、なに」

「キスしていい?」

「……いいよ」


 その、恋人になった途端素直に許可を取ってくるなんて思わなくてなんだか気恥しい。


「ふふっ。じゃあ、紫亜の誕生日になったらするわね」

「それ、後二十分じゃん〜」

「なら、抱かれる? 明日がキツイかもと思って気を遣って手を出さないつもりだったけど、暇なら全然抱くわよ? 正直、我慢してたし」


 ギシッとベッドが軋む。優真は本気なのか私の事を組み敷く。


「あーっ!! だめだめだめ〜!!! 優真は体力バカだから良いけど、私は明日、生まれたての子鹿になりたくない〜!!」 


 身の危険を感じて咄嗟に優真の身体を押すと、優真は小さくため息をついた。


「我儘ね」

「なんでそっちがため息ついてるんだよぉ〜!! 傍若無人〜!」

「ベッドでも騒がしい」

「優真はそんな私が好きなんでしょ〜」


 自分で言ってて恥ずかしいけど、本当の事なので照れずに言う。自意識過剰ばちこい!


「好きじゃなきゃ、今日わざわざ誤解を解きに来ないわよ」


 拗ねたように優真はそう言って組み敷くのを辞めて、私の隣に戻る。


「じゃあ、誕生日までの間、優真の事おしえて!」

「……いいけど、だいたい知ってんじゃないの?」

「そうだけどさぁ〜! 改めて知りたいもん」

「そ、なら言いなさいよ」


 私の頬を撫でるその手が優しくて安心する。


「ずっと聞きたかったんだけどさぁ〜。優真って男の子だったら絶対「ゆうま」って名前になってたでしょ〜。同じ漢字でさ〜」


 なんとなく、優真の名前って両方行ける様な名前になっている気がする。


  中学生くらいの時に友達と一緒にそういう話をしたのは覚えているが、優真は興味無さすぎて全然話に入って来なかったし。


「あ〜。正解。父さんが男の子だったらゆうまという読みにしようって言ってたって、実際女の子だったから読みをゆまにしようって言ってたんだって母さんから聞いた」

「ふーん。男の子だったら、優真って絶対今以上にモテてただろうね。今でも目がキリッとしてる美人さんだし」


 優真、男装してもウケそうな見た目もしてるよな〜。エルちゃんもだけど。


 優真は美人でスタイル良いし、髪もアッシュグレージュの色味が似合っている。ハーフアップにしてるから、結構大人っぽく感じるし、黙って立ってたら本当にモデルさんかと思うくらい立ち姿が綺麗だ。


 エルちゃんはエルちゃんで貴族みたいな優雅さがあるし、物腰も柔らかくて、優しい。まるで王子の様な風格。


 最初の頃はエルちゃんと二人で居るとファンクラブの人達に何かされないかヒヤヒヤしてたけど、エルちゃんのファンクラブ会員の人達って皆、礼儀正しい人多いし、エルちゃんの友達の私に親切にしてくれるから、その不安は直ぐにどっかに行った気がする。


 それにしても二人共身長あっていいな〜。


 一五七センチでほぼ平均身長しかないけど、やっぱり背の高い二人は羨ましい。


「いいなぁ……身長高くて」

「なんで急にタラレバの話から、身長の話になるのよ」

「だって、優真もエルちゃんも身長高くて、高い所にあるもの簡単に取れるじゃん〜。私せめて後、三センチ欲しかった〜。きっちり一六〇センチピッタリになったし」

「そのままでも平均くらいは身長あるでしょ」

「平均は平均だけどさ〜。キリ良い身長ってなんか良いじゃん〜」

「そんな事言ったら、私は後、二センチあれば一七〇センチだったわね」

「いいなぁ〜」

「私はそのままの紫亜が好きだけど、姿勢を正せば二センチくらいは何とかなるんじゃないの?」

「ぐぬぬ……後、二センチ何とかなってもギリギリ届かない……」


 後、一センチ足りないお化けになってしまう〜。


 なんてどうでもいい様な会話をして、優真もそれに返してくれる。


 うん。こういう何でもない会話が楽しいの嬉しいな。


 前は楽しくても優真から「セフレでしょ」って現実を突き付けられる度に息が苦しくなった。陸に居るのに溺れている気持ちになっていた。


 身から出た錆、自業自得、その言葉が私にピッタリだった。


「紫亜」

「な……、」


 ちゅっと流れるようにキスをされて、私は驚いて固まる。


「あははっ、なんか猫みたいな反応。昔、玲奈の家に初めて行った時に私を見て固まったちよ丸に顔そっくり」


 なんてキスして来た癖に優真は手を叩いて大爆笑。


 チラッとベッドの横に置いていたデジタル時計を見ると丁度夜の十二時になっていた。


「も〜っ!! 私の誕生日になったならなったって言ってよ〜!!」

「ふふっ。ごめんごめん。……誕生日おめでとう。紫亜」

「ありがとう。一番に優真に祝って貰えて嬉しい」


 本当に嬉しくてついつい口元が緩んでしまう。そして、視線が合う度に優真はキスしてくれて、ゆっくりと腰を撫でられる。


 思わずピクリと反応すると優真は微笑んでちゅっとまたキスをした後、だんだん深いキスに変わっていく。


 私の舌を追いかけて絡めたり、歯をなぞったりしてくる。


「……はぁっ」

「ごめん。息、苦しい?」


 ちゅっと最後の合図と言わんばかりにキスをして、少し酸欠になってる私の頭を撫でてくれた。


 今まで以上になんだか気持ち良くて、満たされるような気持ち。そんな心地よい気持ちになった。


 それから、お互い色々と話している内に私は寝落ちしたみたいで、意識が切れる寸前に優真の穏やかな声が聞こえた気がした。


「おやすみ。好きよ。紫亜」

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