錬金術師のセカンドライフ

亜槌あるけ

むかし、むかし……

 今から千年は前のことである。


 テオイア大陸は、暗く深い闇に閉ざさていれた。

 “厄災の魔王”——そう呼ばれし強大な魔物が、大陸中に災いを振り撒いたからである。


 その禍々しい両腕は広げれば大陸の端から端まで届くほどに大きく、山々と人々の住む街を崩し尽くした。


 吐く息は嵐を巻き起こし、瘴気を振り撒いて人々を病に罹らせ、植物を根こそぎ枯らし。


 肩から生えた百の蛇の頭は、海をかき混ぜて津波を起こさせ。暗闇でも鋭く輝くような赤い双眸から放たれる熱に捉えられたものは、たちまち燃え上がるほどだった。


 一歩歩けば大地は崩れるほどに激しく振動し、一声鳴けば、王の命令を受けた家来のごとく活性化した魔物たちが人々を襲ったという。


 古よりの眠りから突如目覚めた災厄の化身に、人々は成す術もなくひれ伏すほかなかった。

 誰もが確信していた。世界はもう終わりなのだ、と。


 けれど、そんな世界にあるとき三人の救世主が現れた。


 三人のリーダーであり、鍛え抜かれた剣技と、明るく強引な性格でどんな困難も振り払った“剣の聖女”アテナ。


 神々に愛され、神霊と言葉を交わすことによって起こされる奇跡の数々と、優しい笑顔で皆を癒し護った“祈りの聖女”ウェスタ。


 類まれなる錬金術の才能を持った稀代の天才であり、仲間たちを助け勝利へと導いた“錬金の聖女”アルテミシア。


 冒険者として世界中を巡る旅をしていた彼女たちの活躍により、“厄災の魔王”はエーフォ山の洞窟の奥深くに封じ込められた。


 そうして、暗く深い闇に閉ざされていた大地は、再び光を取り戻したのである。




 彼女たちの功績を讃え、人々はのちに彼女たちを“聖女”と呼ぶようになった。

 その名は未来永劫、このテオイアの大地に語り継がれることだろう。


 そして、それから千年経った今もなお、“厄災の魔王”テュポーンは、エーフォ山で静かに眠り続けている。


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