第3章 神へ③
3.2.3新たなる姿
シノは静かに息を吐いた。
レアとミナに支えられながら、足元に敷かれた純白の絹の上に立つ。
手術から目覚めて間もない身体はまだ覚束ないが、意識は冴え渡っている。
まるで夢の中のような感覚のまま、目の前の鏡に映る姿を見つめた。
ーーこれが、わたし?
純白の肌はシミひとつなく、陶磁器のように滑らかで透き通るほどの輝きを放っている。
長い銀色の髪がさらさらと肩を滑り、腰を過ぎ、足元へと流れ落ちる。
髪の合間から、ふさふさとした純白の尻尾が緩やかに揺れ動いている。
額に光を宿した一本の角が、神聖な輝きを放つ。
白銀の結晶のような質感を持ち、純粋な美を象徴するかのように天を向き、長さは約30cm、まるで神聖な装飾品のように光を反射している。
鼻は鋭く高く尖り、顔の造形すら人間のものではなくなっている。
唇をゆっくりと開けば、肉食獣のように研ぎ澄まされた鋭利な牙が覗く。
犬歯は長く、大きい。
さらに口角が頬の中央まで切り開かれたことで、笑うたびに非現実的な裂け目を生む。
その間から、四つに裂かれたスプリットタンが蠢いた。
かつて二つに割かれた舌は、今やさらに深く裂かれ、蛇のように自由に動く四本の触手のようになっていた。
目元に手を添える。
蝶の羽のように広がる白銀のまつ毛が、扇のように優雅に揺れた。
目尻と目頭はさらに切開され、わたしの瞳はかつてないほどに大きく、深く、魅惑的になっていた。
黒目は猫のように縦長に歪み、白目は深い青に染まっている。
「さあ、計りましょうか……」
フルートのような、わたしの甘い声が響いた。
レアとミナが恭しくメジャーを持ち、シノの身体の各部位を計測し始める。
トップバスト、184cm。
アンダーバスト、47cm。
ヒップ、148cm。
ウエストはーー
「28cm……」
その言葉が告げられた瞬間、歓喜に震えた。
「きゃあああああ……」
甲高い叫びが空間に響き渡る。
極限まで絞り上げられたウエスト、比類なき異常な曲線、バストとヒップの巨大な膨らみ……。
そのすべてが、以前の数値をはるかに超えていた。
「うふふ……すてき、すてきすてき……」
両手の15本の指で、身体中をまさぐる。
純白の長い爪が滑らかな肌をなぞり、突き出た乳房の先端を弄る。
巨大な乳首までもが血色を排した白さで統一され、異様なほど均整の取れた姿に仕上がっていた。
「わたし……こんなにも……美しくなれたのね……」
その言葉を聞き、周囲の信者たちは一斉にひれ伏した。
「神女(シンニョ)様……!」
「これこそ、神の進化……!」
「どうか、さらなる御姿を我らにお示しください……!」
信者たちは狂ったように祈り、涙を流していた。
彼らの目には、わたしの姿が完璧なる神として映っていたのだ。
だがーー
鏡の中の自分を見つめ、陶然としながらも、ふと小さく呟いた。
「……ああ……これでも、まだ足りないわ……」
それは独り言のような呟きだった。
しかし、それを聞いた信者たちは、恍惚とした表情でさらに祈りを捧げる。
「神女(シンニョ)様……!」
「どうか、さらなる変容を!」
「もっと……もっと美しく……!」
わたしの声はその一つひとつが教義となり、記録される。
わたしの言葉は、もはや神の言葉だった。
もっと、美しくならなければならない。
もっと、異形へと近づかなければならない。
この世界の誰よりも、どんな神話の存在よりも、美しくーー。
わたしは静かに目を閉じ、フルートのように甘く響く声で囁いた。
「ええ……、もちろんよ……」
その瞬間、信者たちは歓喜に打ち震え、さらなる進化への道が確定した。
わたしの両脇には、レアとミナ。
二人の細い腕が、わたしの腰を支えている。
極端にくびれたウエストは、彼女たちの指で触れるたびに、まるで折れてしまいそうなほど脆弱だった。
そう――
わたしは、もう自分の足だけでは歩くことすらできない。
だが、それでいいのだ。
神とは、ただそこに存在するだけで、人を動かすことができるものなのだから。
3.2.4 崇拝の狂熱の余韻
レアとミナの白い指が、わたしの腰をそっと支えている。
彼女たちの肌は、まるで同じ陶器の素地から生まれた姉妹のよう。
わたしの歩みは遅く、慎重だ。
踵が触れるたび、異様なまでに膨らんだ乳房と尻がわずかに揺れる。
角は静かに前を向き、銀の髪が長い波を描いて流れ落ちる。
先ほどまで響いていた讃美の声は、遠ざかっていく。
信者たちは狂信的な熱に浮かされ、涙を流しながら、わたしを神として拝んでいた。
その光景が、まぶたの裏にこびりついている。
「おかえりなさいませ、シノ様」
扉を閉めると、レアとミナが同時に跪き、まるで儀式のようにわたしを見上げた。
「あぁ……帰ってきたのね……」
わたしはふふっと甘く笑い、ゆっくりと床に腰を下ろす。
全身を覆う滑らかな皮膚が、室内の静謐な空気を撫でる。
極端に伸びた爪がひんやりとした床に触れ、背後の銀髪が水のように広がる。
白く細い指をゆっくりと動かし、自らの身体をなぞる。
胸の丸みを確かめるように、豊かすぎる膨らみを押し上げ、爪先でそっと転がす。
くびれたウエストに沿って滑らせ、硬質な骨の感触を味わう。
「あぁ……すてき……とても……すてき……」
15本の指が、一斉にわたしをまさぐる。
異形の右手と左手が絡み合い、皮膚の上を這う。
乳首の輪郭をなぞり、しなやかな尾を指先で弾く。
角の根元を撫でれば、じわりと快感が走った。
もっと……もっと……
わたしは次の変容を思案し始める。
──さらなる神性のために、何を加えるべきか?
この異様に締め上げられたウエストを、さらに極限へ。
28cmから……いくつまで縮められるかしら?
この肋骨の檻さえなければ、もっと美しく、非人間的になれるのではないかしら……?
この猫のような瞳を、もっと鋭く、もっと異形に……
たとえば、青い虹彩に金のリングを宿すのはどうかしら?
いっそ完全に黒目を消し、青い白目のみを残せば、人間離れした神々しさをさらに際立たせることができるかもしれないわね。
4つに裂かれたスプリットタンを、もっと……
さらに……8本に分かたれたら、どんな感触になるのかしら?
きっと、新たな悦楽が生まれる。
装飾ではなく、本物の翼……
皮膚を引き伸ばし、人工の骨格を植え込む。
天使のような翼を背中に植え付けるのだ。
翼を動かせるようになれば、わたしはさらに神へ近づくわ。
脚の形を変える……
より動物的な形状へと変形させる。
膝を逆関節に折り、つま先だけで立つ姿勢を取れるようにすれば、地上の存在とは一線を画した異形へと近づくわ。
わたしは甘く微笑みながら、指先を舐める。
鋭利な爪が白い唇をなぞり、牙がちらりと覗く。
「ねぇ……レア……ミナ……」
二人は膝を揃え、息をのむ。
わたしの言葉は絶対だから。
「あなたたちも……もっと……美しくなりたいでしょう?」
レアの頬が紅潮し、ミナは陶酔したように瞳を潤ませた。
「わたし……考えたの。あなたたちを、もっと素敵にしてあげたいって」
「……たとえば……あなたたちの唇……もっとふっくらと……薔薇の花びらのように膨らませてあげる……そして、牙をもう少し鋭くするの……わたしのように……」
「それから……あなたたちの耳……もっと尖らせましょう……そう、エルフのように……わたしの神聖な使徒としてふさわしい形に……」
「レア……あなたの腕……もっと細く、もっとしなやかにできるわ。骨を削り、筋肉を細く縫い直せば……ほら、まるで……彫像のように」
レアは恍惚としながら、わたしの指先を握った。
「それは……とても光栄です……」
「ミナ……あなたの声……わたしのように、もっと甘く、透き通るようにしてあげる……声帯を改造して、人工的な響きを持たせれば、きっと……神聖な声になるわ……」
ミナは震えながら頷いた。
「私……シノ様のようになりたい……」
わたしは喉を鳴らし、甘く笑う。
「あぁ……すてき……とてもすてき……」
わたしの指が、レアの顎を持ち上げ、ミナの髪を梳く。
二人は陶然とした表情で、わたしを見つめる。
「もっと……神に近づくのよ……わたしたち、みんなで……」
二人は息を呑んだ。
「ええ、シノ様……わたしたち、どんな痛みでも耐えます……シノ様と同じになれるのなら……」
わたしはゆっくりと微笑み、彼女たちの顔に爪を這わせる。
「素敵……わたしの愛しい子たち……」
彼女たちの頬に爪が食い込み、白い肌に赤い線が滲む。
まるで生贄の儀式のように、わたしの指先が二人の肌に新たな傷を刻む。
血の香りがほのかに漂うが、それすらも甘美な儀式の一部だった。
「わたしたちは、もっともっと美しくなれる……ええ……もっと……」
わたしは囁きながら、自らの乳房に指を沈める。
乳房の柔らかさを確認するように、爪を立てながら形を確かめる。
まだ、もっと大きくできるかもしれない。
いずれはこの肉体すらも不要になるのかもしれない。
部屋の奥、鏡の向こうには、白く輝く異形の神女が映っている。
その歪な美貌が、わたしの全てだった。
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