第10話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・6

峠茶屋では。




 この峠を越すのにはあの野盗と対峙しなくてはならない、俺も役人の端くれ、そういう輩をはいそうですかと、素直に駄賃払って通るなんて恥知らずな事は出来ねえ、と。


 十手持ちの役人は思った。


 となりで、フゴフゴ言いながら、茶店の団子を口いっぱいに頬張ってい岡っ引きを横目に、なんてことは無い、白いセーラー服が次々持ってくるもんだからいい気になって食ってやがる。




 向き直っておい、と学生服に声を掛けた。


 おめえはどう思う?




 急に声を掛けられた学生服はどう答えたらいいか思いあぐねていた。


 つい最近、こんな異世界に叩き込まれ、それだけでも、現実の事なのかどうなのか混乱しているのに、この世界を書き記せと、目的が曖昧過ぎるし、しかも勝手に隠密だのと言われ引き連れられたことで、何をどう感想や、考えを述べるのか、未だはっきりしていない。




 それにこの幽界に来る前の世界であった、現実世界でも、学校では大して目立つ存在でもなく、その他大勢の一人で、只、日々図書館で自分の好きな本を呼んでいたらそれで十分な、そんな自分自身に。




 答えるだけの、材料は持ち合わせていなかった。




 ジッと十手持ちの役人は学生服の目を見て、頭を掻きながら小さく溜息をついて、まあ答えられめえと一言。




 視線を外し、そこの本を抱えているお嬢さんはどう思う、と質問の矛先を本を持っている長い髪の紺のブレザーに聞いた。




 が、あっけなく。さあ、私は、この本に逐一書き込まなければなりませんので。と。




 まだ、岡っ引きは半分水牛のまま、団子を頬張っていた、面白半分に白いセーラー服は次々と団子を持って行くのをしばらく見て一言、頭を掻いて。




 行くか。と呟いた。






 一つ先の峠から離れた山中にて。




 鉞の柄が異様に長い。


 振り回すにも熟練の技が必要。


 ましてや、女性がそれを軽々しくしかも二本。


 羽毛を、羽根を振り回すが如く、に。




 その一団を率いた、それは。


 獣人たち野盗が縄張りしている峠を目指していた。




 その名を聞けば、誰もが泣いて、命乞いをする。


 最恐の女盗賊団、いや盗賊と言うには生易しい、と。巷では千羅刹女と呼ばれている。


 その名の通り千人の羅刹女。


 まさにそれらが通った後には草木も生えない野盗集団。


 その国の正規軍が何度討伐隊を繰り出しても、それは闇雲に犠牲者を増やすだけの事だった。


 ただ、災害が通りすぎるのを待つ、今はそれが最善の対処法とどの国も恐怖におびえていた。




 千羅刹女と呼ばれる彼女達は先のアーマゲドンでの扱いを、地獄のような扱いに対する、恨み辛みを吐き出すが如く無慈悲な残虐な行為で、その国を震撼させていた。




 彼女達の夫や子供、そして女性としての尊厳を踏みにじられた彼女達の怨嗟はやがて、復讐と言った殺戮に昇華させていった。




 今もある商隊を襲い、金品、命を奪い、また、護衛に出撃した軍隊もその命も奪ったところだった。




 そしてその千羅刹女の長が目指したのは、獣人の砦のある峠だった。




 目指すはあの峠と。




 幹線道路であって定期的安定的な報酬を期待しての事だろうか、または単に、千羅刹女が復讐の一環として殺戮する為だろうか。




 それぞれ、動き出した。








 御姫様の行先。




 腰元が、着陸地点の指示を仰いでいた。


 その城は断崖を刳り貫き、難攻不落の城としていた。


 すると、背中に乗っていた御姫様と呼ばれている者は、柄付きのキャンディーを口に含みながら100階にある大きな、いつものバルコニーに降りるように指示した。


 2.3回羽ばたくと、龍はそのバルコニーに着地した。




 背中から御姫様が、降り立つと同時に、龍は人型に変化し腰元の姿になり、そのまま目を伏せながら傅いて、主の帰りを待っていた。




 彼女はバルコニーから、その屋敷の部屋に入るなり、お姉様、と言って、その者の背中から抱きついた。


 分かっていたように、その抱きつかれた者は、その長い髪を靡かせながら、眼帯の奥の瞳を一際輝かせ、振り向き、よく来たなと、その手を握りスッと寝室へと誘った。




 御姫様は慌てて、頬を真っ赤にして、今までのそれとは、全くの別人の様に、しおらしくなった。そして、言葉を選びながら言った。


 実は報告が、どうやら隠密がわが領地に、今度の政略婚儀を嗅ぎつけての・・・というセリフの続きは、ベッドに押し倒され、羽毛の中で掻き消されてしまった。






 城、領主の館では。




 お姫様が何処に行かれたかと、滑稽な位まだ騒いでいた。


 ようやく、捜索隊が編成され、それぞれ出発した。


 重臣達は気が気ではなかった。


 隠密がこの国に入ってきた情報がもたらされ、この国を左右する婚儀が成功するかしないかで、命運が分かれてしまう、それなのにその御姫様が不在となると、かの国の王太子にどう説明すれば。


 しかもこんな忙しい時に国外れの峠では、千羅刹女が動き出したとの情報もある。


 王太子は婚儀の下見にもうそこまで来てると言うのに。






 ハープを持った少女の館では。




 カラス、ヤタガラス三人娘は庭に降り立ち、人の形に変化しながら黒いセーラー服のとなり、ハープを爪弾いていた少女に今までの事を、手短に報告した。


 少女はハープの手を止め。


 一言。


 兄上が心配です。今のままでは、かの力は人のそれのままです。


 いざとなれば、私が力を目覚めさせねばなりません。


 案内しなさい。


 そう言うと、ヤタガラス達三人娘の背中に乗り、大空に舞い、館を後にした。

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