第9話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・5

 その日は城、領主の館では朝から騒がしかった、御姫様おひいさまと呼ばれている領主の一人娘が、昨日突然お出かけになったまま帰ってこないという。


 ここは、転生転移者一行が向かおうとする。

 領主の城。

 朝から、その御姫様おひいさまが行方不明と、大騒ぎとなっている、近衛兵、と奉行から、軍関係に至るまで、総動員し大山鳴動といった感である。

 山から谷、川から海、街から邑まで、ありとあらゆる所をそれは路傍の石をめくってまで探す勢いであった。


 青い空を。

 当の本人、その御姫様おひいさまと呼ばれている本人は城の屋根の上で、ロリポップキャンデイーを頬張り、その柄を左右に口で弄びながら、その抜けるような青い空を見上げていた。

 その空には黒い鳥、多分カラスだろうか。

 三匹、円を描いて、この城の上を高く低く、滑空している、見上げながら、私もあれぐらい自由であればいいのに、であれば、あの人の元にすぐにでも行けるのに。

 と寝ころんだまま、伸びをして、チラと、城の外、下に目をやると。

 何やらその屋根の上で、自由を渇望している、その城の主の娘、領主の娘である、自身の名を口々に呼んでいるのが見て取れた。

 そんな家臣たちの右往左往している者を見ると滑稽で、それはそれで楽しむことが出来た。

 が、だんだん腹が立ってきた。自身の自由を縛っておきながら、いざ何かあれば、大騒ぎするその身勝手さが。



 感応波かんのうはで、腰元こしもとを呼びつけた、遠くから、一匹の龍が羽ばたく音と共に同じ屋根の上に降り立った、羽ばたいた羽根を背中に仕舞い込み、その体、顔、形が龍から、腰元の人形に変化しつつ、呼びつけたであろう、主の傍にかしづいた。

 御姫様おひいさまお呼びでしょうか、彼女は直接目を合わせることなく、言った。

 今の城下の混乱ぶり、御姫様おひいさまを探して、家臣共以下が右往左往している様を簡単に説明しようと、言葉を継いだ時、主、その御姫様おひいさまとをばれている彼女は、今まで口に含んでいた、キャンディーを嚙み砕き、棒だけになったそれを勢いよく口から吐き出した。

 その柄は矢のように弾丸のように空気を裂き、屋根に突き刺した。

 含み針の型だ。

 また、新しいキャンディーを懐から二つ取りだし、一つは自分にもう一つはかしづいている腰元こしもとの口に無理やりねじ込んだ。

 どうだえ、欲しくも無いキャンディーの味は。いらぬ見合いなどわらわはせぬ。

 と、言ってまたキャンディーを噛み砕き、残った棒、柄を、天守閣の守り神、鬼瓦の頭に吹きつけ突き刺した。

 出掛けるぞ、用意せい。

 そう言うと、腰元こしもとは仰せのままにと、つと立ち上がり、その姿を龍に変え、主を乗せ大きく羽ばたき、二、三回羽ばたいただけでその姿は大空の点となった。

 飛び去ったあと、突き刺さったキャンディーの柄は守り神の頭から真っ二つにし、粉々に砕けた。



 一方、茶屋では岡っ引きが、多分そうだと思われるそれが戻ってきた。

 斥候として、峠の先の様子を、見に行かせていた。

 店の前にそれが四本足で、現実の世界で言うならばバッファローの姿をしたそれが、土煙を上げ急停止した。

 馬鹿野郎、飲み食いする前で、埃立てんじゃねぇ、と叱責すると、頭を掻きながらごめんよお、親分、とすまなさそうに、徐々に人型の岡っ引きに戻った。いや、バファッロウが本来の姿なんだろうか。

 が、ちらと憮然とした態度で転生転移者の三人を見て、先の峠の様子を見てきた事を、親分に耳打ちをしていた。

 何、それは本当か、とか、相槌を打っている横に、白いセーラー服がお茶と、茶店の食べ物を。

 自分たちは岡っ引きさんが様子を見に行っている間、十分休憩させてもらいましたから、と言いつつ。

 お盆一杯にして岡っ引きに差し出した。

 目を丸くして、すまねえ、おいらこの茶店の団子には目がねえんだと言いながら、お盆ごと抱え込みガツガツ食べだした。

 親分は、すまねえ、こんな奴に気を使ってもらって。

 すると、ひでえな、こんな奴って、とガツガツ口に団子を頬張り、顔の半分がバフッローに戻って、親分に突っ込んで言っていた。

 クスとセーラー服は笑った。




 一つ先の峠では。

 遠眼鏡をしまいながら、半獣人は部下に集まるよう下知を下し自身は、持ち場戻った。

 持ち場、つまり、この街道を通る旅人、通行人から、通行料と称して、金品を強奪する、所謂、野盗である、得物と、風体で、脅し。幾何ばかりの金品で、その日が面白おかしく過ごせる分だけせしめたら、後は自由に通行させている。

 脅すだけで、命を奪う事など皆無に等しい。

 だが、この界隈で、残忍な手口で、金品だけでなく命を奪い、女、子供をかどわかし、人身売買を稼業にしている外道が出没しているという、部下を集めたのはその警戒を厳重にすることを伝達するため。 

 自分たちのしていることは悪い事には変わりがないが、盗人にも三分の理、自分達より極悪非道な野盗に襲われない様、この街道を縄張りとして、安全を守っている、その自負はある。

 その証拠に、女、子供連れは決して手を出さない、逆に見届ける位だ。襲うのは、大名や、役人、貴族、金持ちと思しきものからだ。

 部下が集まったと、部下が知らせに来た、同時に新しいニュースをもたらした、それは、領主の御姫様が、行方不明。そして、公儀隠密らしきものがこの街道を、移動中。最後のニュースは、一億金貨の賞金首の野盗が、この街道に目を付けたらしいとの事だった。


 それらのニュースを勘案し、半獣人はなるほど、あの遠眼鏡に映っていた見慣れぬ一行は、公儀隠密と結論付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る