第19話
彼は将来、アメリカのシリコンバレーにでも行って活躍するのではないかと、私は予想していた。
ところが昨日、仕事のことについて話していると、物流関係の会社に勤めて普通の仕事をしていることが分かった。
戸島は3年の後期に、工学部情報工学科のソフトウェア工学という講義を受講した。
私たちの学科では他の学部の講義も一部受講することが出来た。
戸島は最初、その学部の学生よりも優秀で、教授からも一目置かれたという。
ところが、講義が進むと理系の考え方に付いていけなくなった。
戸島は高校時代は文型で、数学や理科はほとんど勉強していなかった。
やがて、他の学生たちから遅れ始めた。
それでも必死に付いていこうと、休みを返上してまで苦しみながら勉強した。
結局、単位を取れなかった。
彼が単位を落としたのはそれが最初で最後だった。
これではソフト会社に入っても通用しないではないか。
戸島は悩んだ。
4年の間に数学を勉強し直して、学士入学で情報工学科に編入することも考えた。
確かにプログラミングは彼の趣味で、すごくやりたいことだった。
でもその好きなことを仕事にすることが出来たとき、プログラミングはやりたいことからしなければならないことに変わる。
プログラマーには成れたとしても、勉強に追われながら周回遅れで他の人たちに付いていかなければならない。
それでもなお好きでいることは、自分には出来ない。
それが彼の結論だった。
それで、ソフト会社に入ることは残念した。
戸島は事務員になることを希望した。
だが、女性の事務員を求めている会社が多く、就職活動は難航した。
そんな中、物流会社が事務職を募集しているのを見つけた。
求人票には荷物を取り扱うことがあると書かれていた。
彼は思った。
これは男子の方が有利なのではないか。
戸島はその会社に採用された。
彼は言う、どんな仕事でも自分を高めることが出来ると。
だから、ある程度は楽しむことが出来ると。
彼の本棚にソフトウェアに関する雑誌がたくさん置いてあるのが見えた。
彼は今でもプログラミングを続けているのだろうか。
私は気になってきいてみた。
戸島はその会社に入り、もうプログラミングのことで悩まされることはないと安心した。
ところが、しばらくして会社の仕事に慣れきて、余裕が出てきた。
休日に趣味でプログラミングを再開した。
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