第20話
卒業から1年ほど経ったとき、戸島の所に1通のメールが届いた。
実学院の在学生が卒業生に発信しているメールマガジンだった。
プロ入りが決まった実学院大学野球部のエース高草のインタビューが載っていた。
京都の付属高校のとき、春の甲子園で優勝に導いた投手だった。
彼は高校に入った頃から、普段の生活や毎日の練習で気付いたことを日記に残していると書かれていた。
それを見た戸島は自分も日記を付けることにした。
私生活もサラリーマン生活ももっと有意義なものにするために。
しばらく経って、自らプログラムを作り、ノートに書いていた日記を電子化しようと決めた。
そして、日記やメモを書いたり、過去に書いた内容を見るためのソフトを完成させた。
戸島はそのソフトを使って、毎晩家で毎日日記を書いている。
普段の仕事の中で気付いたことや、その日あったことで記録に残しておきたいことを書く。
その記録を元に会社に提案したことが評価されたことがあった。
仕事がやりやすくなったと現場の人から喜ばれた。
会社から表彰までされた。
学生時代の戸島はプログラムを作って、自分で使っていた。
他の人にソフトウェアを渡すことはなかった。
戸島は日記のソフトを仕上げたあと、それをインターネットで配布し始めた。
そして、プログラムのソースコードの公開にも踏み切った。
そのソフトをいわゆるオープンソースにした。
プログラムを改変(改造)したり、ソースコードを流用することも認めた。
改変・流用したプログラムも同じ条件で公開することを条件に。
そのソフトがかなり使われるようになった。
戸島は一部の熱狂的なユーザーの間ではすっかり有名になった。
学生時代、彼は好きなことをずっとしていながら、なぜか満たされない思いをしていたという。
幸せとは心の持ちようだと、当時から何となく気付いていた。
でも一人で幸せに成れるほど人生は簡単ではないし、だからこそ面白い。
学生時代に比べると、プログラミングに掛けられる時間はかなり減った。
でも、今の方がずっと幸せだと戸島は言った。
彼は続けた。
それは、自分のソフトを喜んで使ってくれる人がたくさん居るから。
プログラミングをしてお金が入ってくるより、自分の作ったソフトがたくさんの人に使ってもらえる方が良い。
そして、楽しんで使って欲しいと。
今度は、現在開発中の家計簿のソフトを作って公開したいと彼は言った。
それは学生時代から考え続けてきたアイデアだという。
そのうち、買い物をしたとき紙のレシートをもらう代わりに、電子データで管理できるようになって欲しいと考えているそうだ。
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