2話 裏アカ
僕は、女性として裏アカを作り、SNSで男性と話す楽しみを見つけた。
アカウント名は咲希にして、女性としてプロフィールを出す。
顔も声も出さなければ、ネットの世界で女性として暮らすことができる。
男性は、女性からのコンタクトには警戒が少ないから、会話はしやすい。
困ったのは、今度会おうとか、Zoomで話そうと言ってくる人。
男性だとバレたくないから、いつも会えないと断っている。
今のところ、それ以上、強引に誘ってくる人はいない。
世の中には、ネットで女性を装い、女性の世界を覗き込む男性もいる。
ネットの世界では、そんな男性を摘発する人もいた。
僕は、そんな人に目をつけられないように、ネットで静かに暮らしている。
別に女性の世界をみたいわけでもないし。
裏アカで交流を続けていると、少し気になる人もいた。
悩みを出すと、ずっと寄り添って一緒に考えてくれる。
アカウント名は南崎 智。本名かはわからない。
でも、南崎さんは自分から発言することはほとんどない。
だから、どんな人かはわからない。
自分に自信がないのだろうか。
ネットの世界で無言なら、存在していないのと同じ。
でも、私が発言すると暖かい言葉をかけてくれる。
なにをしたくてSNSに参加しているのかもよくわからない。
不思議な存在だった。
家に帰ると、レディースに着替え、ネットの世界で女性として過ごす。
でも、お昼はIT会社で営業マンとして働いていた。
職場では、ごく普通の男性若手社員として振る舞っている。
今日は、お客様に生成AIの事業活用について提案に来ていた。
お客様は2人の男性、こちらは、僕と後輩の女性の2人。
名刺交換をすると、お客様の1人は南崎 智という名前。
SNSでよく私の相談に乗ってくれているあの人と同姓同名。
もともと南崎 智が実名かもわからないけど、そんな偶然があると驚いていた。
あまりでしゃばらない所、内向的な所は南崎さんそのもの。
南崎さんは、実際に会うと、こんな人なのかもしれない。
見た目はすらっとしていて、やせ型。
それでいて笑顔はとても素敵。
提案が終った時、後輩の女性が話し始めた。
「あのう、もう定時ですし、これから一緒に飲みにでも行きませんか。」
「宮本さん、初めてのお客様に失礼だろう。まだ入社したばかりで世間知らずなんですよ。申し訳ありません。」
「今井さん、別にいいじゃありませんか。行きましょうよ。私も、宮本さんみたいにお綺麗な人と飲めたら楽しいし。ただ、接待とかなると面倒だから、割り勘ですよ。」
「申し訳ありません。お付き合いいただけるなんて嬉しいです。」
僕らは、先に出て、お店で待っていた。
「先輩、私は笹山さんと話してるので邪魔しないでくださいね。もう1人は無口で、暗そうですよね。なんか、ぼやっていう感じで。」
「邪魔はしないけど、仕事とプライベートを混同しちゃいけないよ。」
「会社の経費で飲むわけじゃないし、そんなに厳しいこと言わないでくださいよ。いつも仕事で大変なんだから、そのご褒美ってことで。」
そのあと、合流してきたお客様と飲み始める。
後輩は、笹山さんとずっと話していた。
僕は、南崎さんと静かに話す。
その時、南崎さんは、驚くような話しを始めた。
「SNSで知り合って、まだ直接会ったことないんですが、好きな人がいるんです。でも好きだなんて言い出せなくて。いつも優しくしてくれて、僕に前に進む勇気をくれるんです。どうすればいいんですかね?」
「そうなんですか。なんて呼んでる方ですか。」
「アカウント名は咲希って言うんです。本当の名前かは分かりませんが。」
目の前にいる男性が、本当に南崎さんだったなんて。
しかも、僕のことが好きだったとは思いもしなかった。
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