あと〇日しかないよ

嬉野K

チャンス

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 なぜ明確に回数を覚えているのか? それは簡単だ。


 夢の中に出てくる小さな少年が言うのだ。


「あと10日しかないよ」

 

 最初にあの夢を見たとき、少年はそう言っていた。どこかで見たことのある少年だった。


 その後も少年は夢に現れるたびにこう言った。


「あと9日だよ」

「あと8日」

「もう7日しかないよ」


 この調子でカウントダウンが進んでいくのだ。そして今日……そのカウントダウンは9回目になった。

 

 いったいなんなのだろう? あと◯日しかない?


 俺の寿命でも予言しているのだろうか? 俺はあと数日で死んでしまうのだろうか?


 だとしても回避方法なんてない。この健康な状態から突然死んでしまうのなら、おそらく事故や事件に巻き込まれるのだろう。


 ならば『どんな事件に巻き込まれるのか』『どこでどうやって巻き込まれるのか』……それらを教えてもらいたいものである。警戒はしているが、24時間警戒し続けるのも大変だ。


 結局折れはカウントダウンの意味もわからないまま日々を過ごした。予言だの占いだの、俺は全く信じていない。

 

 ……


 しかし夢の中に出てくる少年。どこかで見たことがあるような気がする。小憎らしくてクソガキっぽい、顔を見るだけでイライラしてくる少年。


 どこで見たのだろう? なんだか淡い記憶の中にいるような気が……


 そんな事を考えながら日々を過ごしていると、ふととあるネット記事が目に止まった。


「……第7回〇〇ノベルス小説コンテスト……」


 締切はもうギリギリだった。今から書き始めたのでは間に合わない。だが……


「……俺……そういえば応募しようとしたことがあったっけ」

 

 少し昔の話。子供の頃からの夢であった小説家になりたくて、長編小説を書き上げたことがある。


 だけれど怖くて投稿しなかった。受賞するわけないとか、こんなの面白くないとか……いろいろと自分に言い訳をしていた。


 ……


 ……

 

 夢の中の少年がカウントダウンを始めた日。それはこのコンテストの応募締切のちょうど10日前だった。


 ……


 ああ、なるほどそういうことか。俺はそこで夢の中の少年の正体に気がついた。同時に苦笑いした。


 あれはだ。子供の頃の俺。小説家になれると信じて疑っていなかった頃の俺。


 その頃の俺が忠告しに来たらしい。夢を叶えるチャンスが転がっているのに、それを逃すのかと。


 道理で小憎らしいガキなわけだ。俺なのだから当たり前だ。


 ……


 わかったよ。挑戦してみるだけしてみよう。


 通るとは思っていない。成功するとは思っていない。だけれど……挑戦することに価値があると思う。


 ……


 あの原稿データ、どこに保存してたかな。

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