KAC20254:最終話「わかれ」

「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」今回も同様の書き出しが必要かな?


 あっさり一晩で書けちゃったせいで午前中から添付メールを送って後悔したよ。

午後イチで催促メールが届いた。期限に三日あるから完結させろとの指令だった。


《おはよう西園寺夢々くん。今回キミに与えられたミッション期限まで三日ある。

だがしかし特殊で書き出し指定あり「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」

小説冒頭を上記で900字以上執筆して期日に完結させてメール添付ヨロシク!》


 ちょっと待った結局のところ望んで自らの首を絞めたかもしんない追加依頼だ。

午後すぎたメールでおはようっておかしくない? 業界人っぽい感じの悪癖かな。


 もしくは「このテープは自動的に消滅する」音声デッキから煙が噴出するヤツ?



「結果として無断侵入を試みて申し訳ないが猪突猛進のおバカ娘を助けて欲しい」


 細マッチョ体型で二メートル近い長身だった現代の彼と異なり苦笑いする若者。

それでも十代後半ぐらいに見えたから分別あるリーダーとして頭を下げた謝罪だ。


「いや慣例として苦情を申し立てただけよ。怒ってないし含むところもないから。

あんたたち不法侵入みたいだけど……悪意なさそうだから彼女を解放してあげて」


 苦笑してイバラの棘から伸びた本体であるわたしの胴より太い幹にお願いする。

その直後イバラ拘束をいきなり解かれた彼女が数メートルは落下して転げ回った。



「イタタタッ。モンスターみたいな棘の大樹が結界なんて誰からも聴いてないし」

「なんにも考えず特攻したエーが悪い。おバカな性格を早く直さないと死ぬよ?」


「だってさぁ迷いに迷って三日じゃん。ケーちゃん止めなかったしお腹ヘリヘリ」

 なだめたいのか諌めるつもりかウサギ獣人娘のお小言に反論するおバカちゃん。


 確かにエルフの森は秘境。それなりの広さがあり迷いの森はワナだらけだよね。


「ふぅん生食用の木の実ぐらいなら後であげる。その代わり外の話を聞かせてよ」

 おバカちゃんに笑って応じながら視線はリーダー役の彼から外さずお願いする。


「もちろん何なりと。こちらとしても是非はないしここを訪れた目的を伝えたい」

 一瞥したおバカちゃんに苦笑しながらこちらを見る彼の碧眼は真剣さを帯びた。



 そうだ……彼らの目的はエルフが秘めた猛毒に倒れた父王を救う特効薬だった。

この遭遇をきっかけに里を出奔する理由はもちろん精霊魔法使いとしての役目だ。


 それから紆余曲折があり国を追われたチームと行動を共に冒険する日々は続く。

十年ほど時を重ねてから風の噂に聴いた母国の悲劇と寄り添いたい彼らと別れた。


「いつも助けてもらい冥利に尽きる。いつか……また巡り合えたら旅の続きだな」

「そうね。わたしは死ねないからね……生まれ変わりのあんた達を助けてやれる」


 しばらく後で彼らの訃報を耳にして数日間だけ喪に服したような記憶はあった。

最後までおつき合いしてくれた方に申し訳ないけれどラストしんみりと閉めよう。



 あの日交わした「遠い約束」の実現に向け引きこもりは早々に引退しないとね。

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過去とリアルの境界で夢うつつ 神無月ナナメ @ucchii107

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