12・今日

「新作のおにぎりだよ!買っていかないかー?」

「お兄さん、ちょっとこの商品を試食していきませんか?」

「毎度ありがとうございます。またお願いします。」

「この服良いなー」

「この白い玉、実は防御の効果があるんです。どうですか?」

「いらっしゃいませー」

 

 騒々しい声が聞こえる。

たくさんの人が大きな声を出して、たくさんの人が買っている。


 僕は今、シアルドにいる。

この国の中で2番目に大きい都市だ。

 

あのことがあった後、僕の両親は僕に何も言わなかった。


ただ静かに僕を見て、諭すこともしなかった。

それでも僕たち家族はあの街に居づらくなったらしく、昨日の夜の内に出発したわけだ。


僕は初めて馬車に乗っていたから、するべきこと、つまりクッションを用意したり酔い止めを用意したりしていなかった。


 すっかり朝になった頃にはもう腰はバッキバキで足は張ってるし、頭が精米されたかのような気分だった。

そんな体を振り絞って今日は街の中心に来たわけだけど、スマやドロウは宿だけ確保してどこかに行ってしまった。

昨日の今日で話しかけづらかったんだ。

 

 「さあ、どうしよっかなー」

朝の清々しい空気を感じるが、体は動こうとしない。

なるべくここから移動しないで過ごしたい。


 「よし、朝ご飯食べよう」

 

動かないでおきたい。

 

というふうに考えて街の中心の広場に来た。

けれど、この辺りにあるレストランは値段が高いらしい。


 かといって裏路地に入るのは勇気がいるし、もう少し郊外に行きたいけど。


 足腰がもう崩れ落ちそうだ。


「裏路地入ってみるかー」

 

まだ朝だから”裏路地“という言葉の印象とは違って見える。

案外いいかもしれない。

 

そう思いながら歩いていると、いかにも名店というふうな店があった。

僕が入ってみると、不機嫌そうな店員が出てきて席に案内された。

 入ってみると、案外人が多くて驚いた。それもこの町の人がほとんどで少し気後れする。

何頼もうかな。

 

「この、オーク肉の燻製カルボナーラをお願いします。」

 「はい、かしこまりました。」


 お金は足りるようにしたつもりだけど、大丈夫だろうか?

 待っていると、今さっきの店員がやってきた。


「レストラン・穴吹では待っているときに歌を披露しております。」

 え、急に?

 こんなサービスもあるのか。


 その店員は全力で歌った。

こちら、オーク肉の燻製カルボナーラです。ご清聴ありがとうございました。

 拍手しようとしたその瞬間。

 頼んだものが来た。


「え?」

 何で今、届けた?もう少し待つとか考えられると思うのに。


 僕はどっちに反応していいか分からず、取り敢えず拍手をしておいた。歌ってくれた店員が顔をうつむかせて、厨房の中に戻っていくのが目に入った。


「どうもありがとうございます。」

 見届けたあと、後から来た店員に感謝した。


「1500ルベスになります。」

 もう3割も使ってしまった。


 歌った店員が心にしこりを残して、僕は店を出た。


「ふ〜。美味しかった...」


 僕は宿に戻ることにした。

 少し忘れていたが、僕は体が固まって痛くなっていた。


「図書館に行くのは明日でいいかな。色々と時間があるし。」


 そう思って、僕は宿に向かった。

「え?ハロン様、でしょうか。こちらに予約は入っておりません。」


 僕はどうやら両親に置いてかれてしまったらしい。

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