11・諦め

 学校は、その生徒を事実上退校処分にした。


騒ぎは数日の内に暗黙になり、表立って話す者はいなくなった。


 生徒と家族は、あの日の内に町を後にした。


あの日、突然起こった地震のことをもう誰も不思議には思わない。


あの日、その生徒は消えた。





「なぁ......」

僕はシアルドという町へ行く馬車に乗っている。


スマも、ドロウも、顔を空虚にしていた。


「....... ...」


「なあ!...」


俯向いて一呼吸した。


皆、さっきからこうだ。


誰も、何も、言ってくれない。


息を吐いて、気持ちを静めると、ちょっとは冷静になれた。


腕につけた時計を読むと、今は18:00。


不思議な気持ちだ。


気づかないうちに月が昇っていた。


静かな馬車には、馬の駆ける音が響き、耳を澄ましていると小さな虫の声が

聴こえた。


それなのに、心は冷めなかった。



考えてみると、あのときなぜウェアウルフがいたのだろう。



人が襲われる生き物として、たしかによく挙げられる生き物ではある。

それでも、奴らは森深くに住んでいる。


学校に来るなど、まず有り得ないことだ。

それに奴らは、光が嫌いだ。


光を少しでも見せると、奴らは小さくうずくまる。


そんな生き物のはずだ。


だからこそ、あのウェアウルフ狼人間は異常だった。


凶暴で、弱いものをつけ狙い、光がどこかしこにもあった教室で立っていた。


正直、怖かった。


怯まずにはいられなかった。


僕は間違いなく、死んでいたはずだった。


だけど、違った。

真逆の姿に、ウェアウルフ狼人間は化していた。



僕が、殺した。


僕の手で、殺した。


引き裂かれたそれが今も頭に残り続ける。

僕の眼に映るが僕を汚していくようだ。



あの姿が眼に見える。



動物だ。

人間じゃない。



そう分かっていても、忘れられない。



「はっ、...」


汗が首筋を流れていた。


心臓の音が体に広がっている。

相変わらず、静かに馬は駆けていた。


頭を下に向けて、目を閉じると、自分の息をする音が聞こえた。

僕の重いまぶたの外に映る月の光が目に沁みる。


スマも、ドロウも、御者も音を立てる気配はなかった。



ただ静かな馬の駆ける足音が、耳に響いていた。



ただ、それだけだった。









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