KAC20254 夢の中の彼女
クースケ
第1話 夢の中の彼女
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
光純 琢也(こうずみ たくや)は、目が覚めてもいささか興奮気味だった。思えばあんな夢を見はじめたのは2か月ぐらい前からだ。
夢の中の女は、どこにでもいる平凡な顔をしていた。それでも俺は、その顔から眼をそむけられなかった。どこか、妖絶さを感じさせられる姿は、どこかで見たことがあるような気がしたから。
(どこで?)
2回目に見た時は 彼女は鏡に向かっていた。そして、慣れたように化粧品を取り出して、手早く仕上げた。5分ほどで、できた顔はスッピンの顔とあまり変わらなかった。
(げっ、意味あんのかよ。まっ、最後につけた色付きのリップだけで、可愛らしくなったかな)と夢の中の俺は呟いていた。
3回目に見た夢は 彼女の部屋だった。テレビで彼女はお笑いを見ていた。何が、そんなに面白いのだろう。涙を流しながら、大笑いをしている。(そんな彼女を微笑ましく思う。好きなタイプでは、ないのだけれど‥)
4回目に見た時は 彼女はお風呂に入っていた。髪は、先に洗ったのだろう。髪の毛はタオルで包まれている。湯船から出ている、その首筋や肩が色っぽい(どうせなら、その下の方がもっと見たいのだが…期待して、凝視していたが夢は覚めてしまった。くっそう)
5回目に見た夢は 彼女は料理を作っていた。冷蔵庫に残った食材だけで作る様子だ。出来上がりは、ソーメンチャンプルー『そうめんにあり合わせの野菜を入れる』(シンプルだが、結構おいしいらしい。思いのほか、彼女の料理の手際はよかった。
この頃には、彼女の夢を見るのが楽しみになっていた。
6回目に見た時は 買い物をしていた。 ナスやキュウリなどを丁寧にひっくり返しては、カゴに入れる。そして、お買い得品も手に取る。果物をみかんとバナナか迷ったあげく、バナナに決めた。カゴ一杯に買い込んで、重そうだが満足そうでもあった。
7回目に見た夢は 男と会っていた。(彼氏がいたのか?これは、ショックなことだった)だが口喧嘩をはじめてから、別れ話に至った。関係性は以前から、良くなかったようだ。(俺は、密かに嬉しさを隠せなかった)
8回目に見た時は 女性に会っていた。いわゆる祈祷師というものだろうか。白装束に身を包んだ祈祷師は、熱心に棒を振りかざしながら彼女の周りを祈祷していた。その熱狂的な様子を見るだけで俺はとても疲れた。
前回と同じく、彼女は祈祷師の部屋にいた。そして前回と同じく祈祷師は、身体を激しく揺さぶりながら祈祷していた。
同じ、場所の夢を見るのは、珍しいことだ。
そして、祈祷師は消耗した身体から声を絞り出すように言った。
『あ、あなたは生霊に取りつかれている!!』
「うっうわっ、なっ、なんだ。この息苦しさは‥」男は身体中が見えないもので羽交い絞めにされているように、身動きができなかった。
KAC20254 夢の中の彼女 クースケ @kusuk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます