か弱き者の見た夢は

佐海美佳

か弱き者の見た夢は

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 最初に気づくのは羽音。1~2羽の小鳥が私に向かって飛んでくる気配。

 コンビニの駐車場では、セキレイが飛ぶことを忘れて走っていった。

 駅前のロータリーで、バスを待つ人々の足元をうろつく鳩たち。

 いつもより、多い気がしたけれど、私は夢の中を歩いた。

 夢を見ている、という意識のある夢はかなりやっかいだ。

 意識があるということは、記憶として残るということだから。

 私はそこで少し焦った。

 その焦りがいけなかった。

 足元に落ちていた影が少しずつ大きくなる。

 ハっとして空を見上げた。

「カァァァァ」

 烏の野太い声は、獲物を見つけた合図なのだろうか。

 気づけば私の頭上に、数え切れないほどの烏が渦を巻いて飛んでいた。

 上ばかり見ていたので、体勢を崩した。足がもつれた。

 逃げよう。

 肩に引っかけていたカバンの持ち手をぎゅっと掴んで、走った。

 たかが、鳥だ。

 逃げればいいのだ。

 建物の中に入れば追ってこないだろう。

 間口の広い駅の入り口はすぐそこだ。

 大丈夫、それぐらいならば走れる。

 あと数歩で駅というところで、背後から鋭い羽音が聞こえた。

 ビュゥと風を切って、右肩のすぐ上を烏が通り過ぎていった。

 力強い羽の先端が、髪をかすった。

「わぁ……」

 突然のことに驚いた私は、腰を抜かして座り込んでしまった。

 それがいけなかった。

 獲物が弱っている、と気づいた彼らが一斉に襲ってきたのだ。

 私は急いでカバンを盾に、降り注いでくる矢のような鳥たちを避ける。

 獲物を知らせる鳴き声、渦巻く羽音。

 硬いくちばしが髪の毛を引っ張る。

 鉤状の爪が皮膚に刺さる。

 このまま私は鳥の餌食になるのは嫌だ。

 早く、こんな夢よ、覚めろ!


『トリの降臨、トリの降臨』

 目覚ましに指定したアラーム音が聞こえる。

 パッと目を開く。

 夢から生還したのだ。

 冷えたパジャマが肌に張り付いている。

 起き上がってアラームを止めた。

「このアラーム音が悪夢を招いているんじゃないだろうか……」

 鳥が好きだという同僚に勧められたこのアラームは、絶対に起きられるアラーム音としてSNSで話題になっていたものだった。

 指定した時間に起られないと悩んでいる人の救世主として、そこそこ人気らしい。

 勧められるまま使ってみたが、寝起きの気分が最悪だ。

 早起きはできるけれど、使い続けるのはちょっと考えたほうがよさそうだ。

 私はスマホを切って起き上がった。

 寝ようと思いながらついつい動画配信サービスを見始めて、眠れなくなってしまうという、その状況を改善した方がいい。

 ふわぁ、と大きなあくびをしながら、昨夜の残骸を片付けることにする。

 飲みかけのビールやポテトチップスの袋。

 動画を見ながら食べたり飲んだりしたものたちだ。

 ゴミ箱を片手にそれらを放り込む。

「ん?」

 ローテーブルの上に、小さな黒い影を見つけた。

 一瞬、夢で見た鳥の影に見えてドキっとしたが、顔を近づけてよく見ると、鳥ではなく蟻だった。

「なんだ、蟻か……」

 ティッシュペーパーを引き抜き、プチっと潰した。

 私は安心した。

 鳥じゃないなら安全だ。

 素足がチクっと痛む。

 鳥じゃないなら安全?

 本当にそうだろうか。

 小さくか弱い生き物たちが、足元に蠢く様子に全身が粟立った。

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か弱き者の見た夢は 佐海美佳 @mikasa_sea

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