聲の勇者の成り上がり

いずも

勇者アポイタカラの高座伝説

「あの夢を見たのは、これで9回目だった。そして、これが最後の夢だった」


 高座で剣を振るい、盾をかざし、八又の頭を持つ怪物の首をバッサバッサと切り落とす青年の一挙手一投足に観客は熱を上げる。

 夢の中で異世界を冒険する勇者の噺。最初はなすすべなく怪物に殺されてしまい、その度に夢から目覚める。再び夢の中に入り、怪物と死闘を繰り返しては一つの首を落とすごとに相打ちとなって夢から追い出されること八度。成長してとうとう怪物を倒す瞬間など会場からどよめきが響くほどの熱演だった。


「――またオイラなんぞやらかしちまいましたかねぇ?」

 お決まりのオチが決まったところで本日の寄席も大盛況のうちに幕を閉じる。


「いやあ金ちゃん、今日も決まってたねぇ。本当に異世界からやってきた勇者みたいだったよ」

「へっへっへっ、そりゃどうも」

 金井はいつものように飄々とした態度で楽屋へ戻る。



*********



 へいどうも、わたくしアポイタカラと申します。異世界からこの国に召喚された、まあ言ってみれば勇者でございます。まるで異世界を見てきたような演技に定評がございますがそれもそのはず。んですから。

 一応あちらの世界でも勇者として頑張ってたわけですが、何故かパーティーから追放されてしまい魔王を倒した手柄も横取りされてモブに降格。もうやってらんねぇとヤケを起こしたところ気がつけばこちらの世界に居たわけです。


 右も左もわからず途方に暮れていたところにやってきたのがウチの師匠。藁にもすがる思いで助けを求めたところ「お前には素質があるな」と拾われました。

 お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんがわたくしのこの喋り方、なんです。あっちの世界じゃ「てめぇの喋り方は勇者じゃねぇ」ってんで女神様にまで見放されちまいましたが、どうも噺家のスキルがあるようで弟子としてやっていけることになった次第です。


 通名は金井緋色かないひいろってんですがね、見る人見る人から「まるで異世界の景色が浮かぶような名人芸に感動した」ってね。異世界の景色が浮かぶのは当然でございますよ。だって、ほんとに異世界から来たんですからね。わたくしにゃ異世界の物語が山ほどあるわけでして、こりゃ語ればウケるに違いないと踏んだわけです。

 最初は前座見習いから始まり前座、二ツ目とトントン拍子で昇格します。とうとう真打ちにまで上り詰めることができましてね、つまりはトリを飾るわけです。異世界転生になぞらえて口上でも「異世界よりトリの降臨です!」なんて紹介されてね、まぁ自分としても満更じゃねぇなって、ハハハ。


 ついには自分が三代目折治 昆おりはる こんを襲名するとなりゃ、そりゃあ世間も大騒ぎですわ。こんなどこの馬の骨ともしれないやつが伝説の噺家の名前を継ぐってんだから。そりゃあもう寄せも連日満員御礼。


 そしたらですねぇ、とうとう名声が国の頂点に届いちまいましてね。この国の王様? らしき方からお声がかかりまして「是非とも演芸を見たい」とのことで。お偉い様方の前でも披露させていただきましたよ。

 そうしたらお姫様から熱い視線を向けられまして。おっとこいつは恋に落ちた乙女の顔に違いない、なんせ演目が終わってからも「もっとお話を聞かせてくださいな」とお付きの制止を振り切って近づいてこられたもんですから。

 わたくし、これみよがしに言ってやるわけです。


「またオイラなんぞやらかしちまいましたかねぇ?」


 お後がよろしいようで。

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