第11話
「そういえば、あれからどうなんだよ倉賀先輩とは」
待っていたよ弘。その質問を。
「えへへ~、聞きたい?」
「うわ、なんだコイツ急ににやけ出したぞ」
悟史が一歩引くのが見えた。
「気持ち悪りぃ」
弘も一歩引いている。まあいい。
「実はなぁ~、テスト終わったらなぁ~」
ニヤニヤとした顔をしているんだろう。
自分でも自分の興奮を抑えられない。
「テスト終わったら?」
「でへへへへ」
「おい、頭の病院つれてくか?」
悟史の聞き捨てならないセリフを聞き捨てて大きく息を吸い込んだ。
「植物園いく約束したんだぁ!」
俺の発表に、二人はポカーンと口を開けていた。
「……植物園?」
「ボタニカルガァデン?」
と、弘。
「なんで英語にしたんだ」
と、悟史。
「そう。ボタニカルガーデン。でへへへへ」
「その笑い方気持ち悪すぎるぞ、お前」
という弘の言葉も耳には入らないもんね。
「うへへぇ」
「なに言っても無駄だな。頭の中がボタニカルガーデンだ」
悟史がなんか上手いこと言ってる気がする。
「てか、なんで植物園?デートにしては地味じゃね?」
弘のその言葉に、ハッとする。
「デート……デートか。そっか、これはデートか!」
呆れた顔をした二人に対して、俺はメイと植物園にいくことになった経緯を説明した。今年は一緒にお花見できなかったこと。定期試験を乗り越えるためのお楽しみが欲しかったこと。まあ、その他諸々だ。
「それで、植物園?」
悟史が頬杖をつきながら興味なさそうに爪をいじり始めた。
「そうそう。ほら、メイって天使だからお花が大好きなんだよ」
「確かに倉賀先輩が花冠被ってる姿イメージできる」
うんうんと弘は目を瞑りながらうなづく。
「植物園って言っても今の時期、なにが旬なんだ?」
と尋ねる悟史。
「うーん、ツツジとか?」
なんか聞いたことある花の名前を言ってみる。
「校庭にも咲いてるぞ、それ」
悟史が呆れたようにため息をついた。
「いいんだよ!メイとお花畑を歩くのが目的なんだから!」
「不純だ」
「不純だな」
「なんとでも言え。テストが終わった俺はもう無敵だ」
「最下位のくせに」
いちいち攻撃してくる弘。うるせぇ!
「さてと!プリント朝倉先生んとこ届けてこよ」
俺は立ち上がり、プリントの量を再確認した。これ、市川さん一人で運んできてたよな……怪力なの?
「……手伝ってくださいますよね?」
目を潤ませて、弘と悟史に助けを乞う。
「おっと、俺は明日の予習が」
「俺もテストの復習をしなければ」
二人はそそくさと自分の席へと戻っていった。
薄情者め。
そういえば、高校の職員室に入るのは初めてかもしれない。
両手がふさがっていたため、ドアを開けられずにウロウロしていたところ、たまたま通りかかった若い女の先生に開けてもらった。
担任の顔を探す。
窓際の、日当たりのいい席で優雅にコーヒーを飲んでいる朝倉先生の姿を発見。
「朝倉先生。プリント持ってきました」
「おう、木之本。サンキュー。そこに置いといてくれー」
俺は指示された机の上にプリントの山をおき、朝倉先生を見つめた。
「先生。なんで俺、最下位なんですか」
「こっちが聞きたいよ」
俺の問いかけに朝倉先生はこめかみをおさえた。
「テスト難しすぎじゃないですか?」
「いや、今回は最初だからなー。1番簡単だぞー」
間延びした声でとんでもないことを言う。
「げっ、あれが簡単とか。もう俺この先やってける自信ない……」
「諦めるなよ、ちゃんと授業真面目に聞いてればわかる問題だぞー」
「授業なんて寝る時間でしょ」
「コラ」
机に置いてあったバインダーで軽く頭を叩かれる。
「てか、先生聞きたいことあるんだけど」
「なんだー?授業の質問かー?」
「そんなわけないじゃん」
「だよなー」
朝倉先生はまたこめかみをおさえた。
「二年の……倉賀先輩って」
「あー、お前が春に告白した」
「先生も知ってんのかよ!」
「お前はかつて職員室でも時の人となったよー。今年はすごいのが入ってきたなーって」
酷い!生徒だけでなく、先生達にも噂されていたなんて……。
「で、倉賀がどうかしたかー?」
「朝倉先生、たしかメイのクラスに化学教えに行ってるでしょ?」
俺がそう尋ねると、朝倉先生はコーヒーを一口啜って頷いた。
「ああ」
「単刀直入に聞くけど、朝倉先生もメイのこと好きなの?」
口に含んでいたコーヒーを勢いよく吹き出す朝倉先生。
この動揺っぷり……。
「図星?図星なの?」
俺は身を乗り出して朝倉先生に詰め寄った。
「バカ野郎」
割と強めの力で頭を叩かれた。
「俺は教師だぞ」
「そんなの関係ないじゃん。愛に壁はないよ。あ、でも、メイの周りには俺という壁があるけどね」
「お前はホントにバカだな」
朝倉先生は吹き出したコーヒーを紺色のハンカチで拭いながらため息をついている。
「噂聞いたし」
「……噂?」
俺の言葉に朝倉先生は眉をひそめた。
「うん。朝倉先生とメイが付き合ってるって。もちろん信じてないけど」
困ったように目頭を押さえる先生。
「誰がそんなこと言ってるんだ」
「二年の間では結構有名らしいよ。メイの風評被害だからやめてよね」
「……」
「メイを好きなのはしょうがないけど手出したら許さないからね」
俺の言葉に隣の席に座っていた中年古典教師の桑田が咳払いをした。
朝倉先生は焦って、手の平を下げる動きで俺に声量を下げるよう促した。
「生徒に手なんか出すわけないだろ。あとあんま大きい声でそういうこと言うな」
「あ、自慢していい?」
朝倉先生の言葉を無視して、俺は同じ声量で続ける。
「ダメ」
「実はねぇ」
「お前に耳はないのか?」
「メイとボタニカルガーデンに行くんだ!」
俺は両手を広げて胸を張って見せた。
どうだ。羨ましいだろう。
「あ?ボタニカルガーデン?植物園か?」
「そうそう。羨ましいでしょ?」
煽るように尋ねるが、朝倉先生は特に興味なさそうに、またコーヒーを啜った。
「高校生は楽しそうだな」
なんだよ、もっと興味持てよ。
「メイがお花見たいって言うからさぁ」
「へー、意外だな」
朝倉先生の言葉に疑問を感じる。
意外?どういうことだろう。
「そういうの興味ないかと思ってた」
と、朝倉先生。
「誰が?」
「誰がって……倉賀だろ?」
メイが花に興味がない?この人は何をいっているんだ。メイのこと何もわかっていないじゃないか。
「どした木之本?」
「メイはお花大好きだよ!」
俺は大きな声で叫んだ。
ヅラ教頭が大きく咳払いした。
「おいおい、なんだいきなり」
「はーん?朝倉先生もまだまだメイマスターには程遠いな」
「なんだメイマスターって」
「メイマスターっていうのはね」
「あー、もういいから教室戻れ。しっしっ」
めんどくさそうに、俺を手で追い払おうとする朝倉先生。
「なんだよ!そっちが聞いたくせに」
「長くなりそうだったからな」
ちょうどいいタイミングで、昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。
「ほら、予鈴なったぞ。教室戻れ」
「ふん!」
俺は、朝倉先生に向かってベっと舌を出すと職員室を後にした。
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