12. 統合
アキトの魔力はまるで無尽蔵だった。
私が幾ら光線を命中させても彼の防御式は1度も揺らがなかった。
だから、私は転移で彼の攻撃を避けていた。
当たったら、転移で使うより多くの魔力が削られるから。
「俺の魔力の枯渇は望めないッスよー!」
煩い。今戦略を考えてるのに、邪魔するな。
――無音。
本来戦いで音が聞こえなくなる魔法なんて使わない方がいいに決まっている。が、魔力探知が出来る場合は別だ。
この世の森羅万象はひとつの例外を除く全てに魔力が宿る。ではその一つとは何か。答えは大気だ。
つまり、魔力が近付いてくるなら転移、とか魔力を含む音が相手の口から出ていれば詠唱中断魔法、などの選択ができるなら音など寧ろノイズでしかない。
ああ、格段に回避がやりやすくなった。
四方八方から飛んでくる火球やら光線やら風刃やらなんやら、その全てに当たれば丁度負けるしかない量の魔力が籠っている。
相手もそれをわかっているから、攻撃一つ一つの魔力量を増やしたり減らしたりしてこないのだ。
今のところ攻撃は単調、これは罠だろうが……最大魔力量で負けている以上、いつでも相手はこの戦いを終わらせられるのだ。
だから、油断させて殺す。
『あははっ、無理ッスよ〜俺油断はちゃんと負けない範囲でする事にしてるッスから!』
念話で頭の中に直接そう伝えられる。
思考を読まれてる?それかなり魔力使うよね。そんなに余裕があるってこと?
何故そんなヒントを出す?余裕があると思って欲しかったのか?
それとも、そうやって実際は余裕が無いと思わせて、みたいな?
あー、罠とか考え出したらキリないな、攻撃来たら避ける、攻撃魔法撃ちまくる、それしかないか。
それでも多分勝てるはず……
「あー!こうやって戦うの超久しぶりッス!楽しー!!」
確かに、私もこんな戦いがしたかったからそう誘ったところもあるが。だって、これはすごく……楽しい。
『熱海、準備出来た。5秒後にやるよ。』
やっとか。凄く嫌だけど、本当は泣き出したい程嫌だけど、勝つ方法はこれしか思い浮かばなかった。絶対、後で何とかするから。
『またね、足立。』
そして、私と足立は――一人の人間になった。
「…………は?」
「これで魔力量でもお前を上回ったと思うけど。」
反断。
「…………そんなの、ただの初見殺しじゃないスか……」
落ちていくアキトの身体を空間魔法で受け止め、拘束魔法をかけて治癒した。
「……何するつもりスか。話が聞きたいんスか?それとも、俺を甚振りたい?」
「ね。アキトのせいで、熱海と足立が一緒になっちゃったんだよ。だから、また2人に分かれるの手伝って欲しい。その為に、契約しようよ。君は俺に従い、僕を傷付けない。もちろん、熱海と足立も。そして私は、君を出来るだけホワイトに扱う。いい?」
「…………いいって言うしかないじゃないスか。どうせ拒否したらここで永遠に放置されるんでしょ?」
「そうだね。ちゃんと死ねないように色んな式をかけてから、放置するよ。」
「……分かりました。これから俺は、あなたの部下になります。」
「そんな警戒せんでよ、ホワイトだって言ってんでしょ?つまり、喋り方そんなんじゃなくていいから!ああいや、そうしたいならそれでもいいけど。」
「……了解ッス。」
「私結構アキト好きだよ?いや、そらもちろん足立とは比較にならんけど。いいキャラじゃん。」
「そうッスか?」
「……私達が2人に再び分かれるにあたって、私が前と同じように足立を作り直すことはできるけど、それだとさっきの俺達とは違ったものになると思うんだよね……」
「なるほど。じゃあ時間魔法ッスか?」
「あー……人体に作用させられればそれが最善かな。じゃあとりあえず時間状態記憶魔法だけやって……」
「……てことは、今から時間魔法を人体に作用させる為の研究スか?」
「いや、待てよ。機構員だった時に似たようなことやったかも……」
生体の中身にまで魔法を干渉させる方法。
術者のイメージによって大きさは異なるが、生体を構成する要素を一つ一つ切り分けて考え、それ毎に少しずつ魔法を行使していく。
そうすれば、生体判定を潜り抜ける事ができる。
「……そうなると、ちょっとずつ自分に時間魔法かけて、足立が現れる先には身体が完全に戻りきるまで時間停止かけとくとか……?」
「……俺やりましょうか?」
「あー、じゃあ手分けしてやろう。」
足元から少しずつ、手分けして自分の身体に時間逆流魔法をかけていく。
隣に足元から足立の身体が現れていって、そこに時間停止をかけた。
それから約30分後、私は完全に熱海になり、その瞬間に足立に縋り付きながら泣き崩れた。
この統合が一時的である保証がなかったからだ。
本当は怖くて、仕方がなかった。のを、1人の私なら簡単に抑えられた。でも熱海はその強さを足立に分け与えてしまったから、それを堪えられなかったみたいだった。
あー、なんか……視点がまだ曖昧だ。熱海の、自分は元の自分ではない、みたいな思い込みが今は上手く発動してないらしい。
だから、2人に分かれたはずの……分かりやすいように、一人称を僕としておこうか。僕の意識がまだ残っていて、熱海を俯瞰している。
熱海はたまにこういう事があるんだ……ずっと、敢えて自らイマジナリーフレンドを作り、交代とか言って代わって生き延びてきて。そのせいで、解離傾向が出てきてしまった。
本人は後悔してないみたいだから、僕も別にそんなに気にしないけど。
……また2人のイチャイチャが始まったよ。僕は実況なんてしないからな。
……ああ、なんか口調が変わってきた……熱海が無意識に、僕を一人のキャラクターとして定着させようとしているってことだ。分かりやすいようにって一人称を決めちゃったからかな。でももう熱海に新しいお友達は要らないだろ……なら僕は無理矢理にでも消えてやる。
その役目は、足立で十分だろ?
§
「あのさ……それを見せ付けられてる僕の気持ちにもなってみなよ。」
「ごめん、でも……」
「……人変わりすぎでしょ。つまり……そこに居る熱海ちゃんもさっきの人が作ったキャラクターだったって訳?」
「…………そうだよ、でも私ははっきりした設定みたいなのがないからキャラクター性もコロコロ変わって……」
熱海とアキトが話している間、俺は次について考えていた。この10年、やる予定だった魔法子の研究は出来てなかったし……一先ずはそれだろうか。それが終わったら、今度こそ2人きりでスローライフが出来るかもな。
「ねえねえ足立、アキトを次のこの国のトップに推薦しようかなって思うんだけど、どう?」
「ん?なんで?」
「いや、話聞く限りだと、そういうのやるの凄い上手そうだし、この国をいい感じに守ってくれそうだなって。だって、ラズベルトさんを操ってリスティアさんを嵌めたんだよ?超すごいじゃん!」
「それは確かに凄いな。で、アキトはどう思ってるんだ?」
「元々この国滅ぼして自分の国建てようかなーって思ってたんで、そうさせて貰えるならありがたいッスね。」
「なら、それで決まりでいいだろ。まあ、決めるのは国民だけどな。」
「あ、勿論だけど。もしアキトが選ばれたら、私達も国民も守る選択をすること、それから国を良くしようと心掛けて政治をすること。わかった?」
「そりゃもちろん。そうした方がこの世界においては楽ッスもんね!」
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