10. 回想と実行
まず、俺達は帝国のことをより深く知る必要があった。
ここまでで既に知識としてあったのが、ここアストラ帝国は侵略国家であり、王国に隣接するまで侵略を重ねて領地を広げてきたこと。
王国が絶対に先制攻撃はしてこないのをいいことに、王国に侵略する為の戦力を今集めて育てていること。
転生者は強い能力を持つものが多い為に、転生者と国に知られると軍に強制的に入れさせられること。
実力がある者程地位が高いと言われるが、実際には強い者は皆国の駒として使われているだけで自由はないこと。
帝国の街は転生者の影響が少なく、概ね異世界ファンタジー然としたそれであること。
そして、ここで生活して分かったことがいくつか。
冒険者ギルドは軍の管轄下にあるということ。
高ランク冒険者の殆どは軍に入れとほぼ強制のような形でスカウトされること。
王国からの亡命者は比較的多く、歓迎はされるが暫くの間密かに監視がつけられているということ。
治安はそこまで悪くないこと。
そこで俺達は、第1の目標を入隊に設定した。軍に入り強くなれば、復讐が早まるかもしれないし、仮にそうでなくとも自分の力を復讐に使ったと思いやすいだろうからだ。
一般人が入隊したいと思ったとして、この国で1番手っ取り早い方法は高ランク冒険者になることだ。具体的には、Bランク以上になること。
ではBランクになるにはどうしたらいいのか。簡単に言うと、高魔濃度級のモンスターを倒せることが条件、つまり高魔濃度級……と言ってもそうそう居ないから一体倒せればいいんだが、倒した証拠があればなれるってことだ。
具体的にBランクになる基準の歴史について語ると、こうだ。
高魔濃度級のヤツは身体の部位の一部だけでも測定すれば大抵それ相応の魔濃度を叩き出すから、実際には高級モンスターの一部を切り取ってこいよって感じになってしまう。
それだと本来の基準からズレるから、五体満足の高級と倒した後の高級の姿を撮っておく必要があるって事になった。その余裕がある奴しか認められなくなったから、結果的にBの人間への評価も上がった。
そんな感じ。
ちなみに。最初は全員Fランクで、1人で魔物一体を相手に出来ればEランク、登録からの経過年数3年でDランク、中級モンスターを倒せれば登録から3年経ってなくてもC、高級でB、超級でA、規格外でS。
ここら辺は珍しく転生者の影響がモロに出てるが、色んな噂が出回っててどれが本当か、はたまたどれも嘘なのかは分からなかった。調べたりなんてしたら転生者を疑われるからな。
まあ、転生者の影響だってのを前提にした噂が出回ってる時点でそれ意味無いだろ、とは思ったけど。
さて。話が逸れたが、俺達がBランクに辿り着く為に何をしたか。地道な努力。それは勿論だが、それだけでBランクには到底辿り着けないだろう。
たとえ禁断魔法の魔法子を覚えていて時間をかければ習得出来るとしても、それを人前で使うなんて到底無理だし。
そうそう、ギルドに申請したら、高級モンスターなんて滅多に居ないからこれを倒したら高級倒したってことにしていいよ、っていう作り物の高級と戦えるんだよ。
それは人前でやるから、ってこと。
俺達が学園で切断無双出来たのは単に魔力量で人を簡単に上回れたからだし、それが出来ない今切断はあまり強くない。
では魔力で勝てない相手にどう勝つか、というのが課題になる。勿論、俺達の強みである連携は使えない。擬似高級試験は1人ずつだからな。
正解はこうだ。熱海が、アンデッド知識を使って俺と熱海を経験値を拾える器系魔物に作り替えたんだ。
アンデッド化は非常に魔力消費が大きく、生体相手に1回で出来ることといえば……魔力量が多めな一般人で、同意があって魔力消費が少なくなった上での設定変更或いは追加を1回、くらいだ。元々決まっている見た目や能力をガラッと複数変えるほどの力は無い。
ただ単に、内部の値がそう書き換えられてどの世界の理が適用されるかされないかが変わるってだけ。
それが、俺達にはとても有用だった。
熱海は、俺達の設定に「器」という項目を追加した。
結果、俺達は魔物やモンスターを倒す毎に経験値を得て強くなれるようになった。
経験値が溜まると、皮膚が硬くなったり筋肉がついたり、単に出せる力が強くなったり、最大魔力量が上がったりする。ある程度溜まったら突然レベルアップ、とかじゃなくて、気付いたら前より強くなってる、って感じ。
まあとにかく、そうやって2年かけて強くなって、俺達は無事Bランクになり、軍に入った。
軍に入った時に、それ専用の役割の人からまた「器」を付与された。それから経験値効率が2倍になったことに気付いて、それから俺達は毎日1回ずつ、お互いに「器」の設定を付与し続けた。
ああ、2倍になったことに気付いた時に、俺もアンデッド化を再び習得したんだ。それまでは熱海だけ使えるって状態だったんだけどな。
それで、成長チートみたいなものを概ね自らの力で手に入れた俺達は、それでも8年かけて、漸くあの0ランクに勝てる力を得たと判断したって訳だ。
帝国には俺らの実力を隠してるし、まだ動く気配が無いから、二人で行ってこようと思う。それでも駄目だったら、これまでに貯めた金を使って二人でどこか別の場所で暮らす予定だ。
結局俺達は、一緒に居たいだけだしな。復讐は楽しそうだからやる。失敗したら残念。それは、1度失敗した今も変わっていなかった。
「…………ここら辺、いい街並みだね」
熱海が呟く。前と比べると熱海って本当に変わったよな……。
今は王国の首都、アヴァロスに向かう電車の中に居る。
その瞳には乗客の頭越しに流れていく街並みが反射しているのに、目はどこも見ていないようだ。まるで、設定に縛られていた頃の俺を見る時のようなそれが、今は俺以外の全てに向けられるのだと思うと、場違いな興奮を覚えた。
電車の中は騒がしかった。
今日は休日だ、だから家族連れとか旅行に来た人達が多いらしい。
それでも向かい側の車窓の外が見られるのは、電車の中を空間魔法が広げているからだ。
「さっきまでそこら辺の一般人をどうしようかって考えてたんだ。でも、思ったの。みんなが過去の自分を不幸だと思って、そしてその後幸運だと思って生きられるなら、それって幸せな事だなって。だから、この人達は誰一人殺さないように、治らない怪我も負わせないように、でも痛みを与えてあげようと思うんだ」
熱海は人に共感しなくなった。でも、こういう狂った優しさは持ち合わせたままだった。
狂った思想、と言うべきか。
「…………私がおかしいのは分かってるけど。足立が愛してくれるから、直さなくていいやって、なっちゃった。……ね、もう私、戻れないから。だから、私を少しでもまともにしたいなら私から離れないでね?もし足立が居なくなったら私、本当に魔王になっちゃいそうだから。」
そう言って静かに微笑む熱海のことを、俺はどうしても好きなままだった。
「あ、でもやっぱそれやると物語的にまずいかな……ならそれはやめて、建物破壊するだけにしよう。」
喧嘩を1度もしないような、極めて非対称な関係なのに、いつだって俺と対等になろうとする熱海が好きだった。
「……それはあとでね、足立。」
いつの間にか俺達は終点に着いていた。
「あぁ、いよいよか。……前の私なら、楽しくなってきたとか言ってたんだろうな」
「……そうだな」
「足立はあんまり変わらなかったね。そういうとこ、好きだよ」
「…………分かってる」
「ふふ。じゃあ、やろうか」
――アヴァロスの全市民に告ぐ。
――今から私達はこの都市を破壊する。
――但し、この都市から出た奴は殺す。
――魔法にはそれを成し遂げる力があることを知っている者は、この地に留まれ。
――では5秒後、破壊を開始する。
――5,
――4,
――3,
――2,
――1,
――0.
瞬間、アヴァロスの中心の、ゼルフェリア王国を象徴するタワーの1階から3階がランダムに爆発し、轟音を立てて倒れた。
潰された人は居ない。熱海が民衆の意識を操作して、事前に死なないが怪我をする場所に移動させたからだ。救助は間に合う数の怪我人にしてある。
俺は何をしているかというと、現れた0ランクと睨み合っていた。このレベルの戦いになると、無闇に技を撃っても相手は確実に隙を見せないからな。さて、そろそろ他の……来たな。これで敵は0ランク3人、こちらは2人。数的不利は前から予測していたことだ。勝算は勿論ある。
何故なら、0ランクが3人じゃ、たとえ全員が魔力量チート持ちで、みんなで力を合わせて防御結界を張ったとしても、それを割れる程の魔力を2人合わせれば持っているからだ。敵が一人の時に撃破しなかったのは、敵が何か魔法を使えば大体わかる最大魔力量とそのバランスを見て安全に殺す為。
「3対2で勝算があるんだ。じゃあ、これならどう?」
俺達の能力を奪った奴が、俺達を壁で分断し、その瞬間襲いかかってくる。壁くらい熱海は簡単に抜けられるが、その時間を与えないつもりだったんだろう。
だが今のでお前の最大魔力量は読み取れた。だから、殺す。熱海がそう望んだから、苦しめずに殺してやるよ。
俺は、その0ランクが最大魔力量をそのまま防御に出力してもそれを上回る威力の切断を撃った。
予想外は特に無く、そのままそいつの首が飛んだ。
以前なら意趣返しとか格好付けとかで光断を撃っていたところだが、切断の方が魔力効率いいからな。
残った0ランクは驚き、反射的に防御結界を張った。
慣れてる奴程そうなる。転移できるだけの魔力を残して、後は防御に回して逃げる。魔術師同士のレベルが高い戦いじゃ常識らしい。
でも俺から逃げても意味無いんだよ。俺はさっきの奴さえ直接倒せればよかったし。まあ、奪われた能力は返って来なかったが。別に求めてもなかったしな。
さて、観戦でもするか……
逃げてった奴の痕跡を追うと、既に死んでいた。俺が殺したのと同じ死に方で。まあ、端的に言えば、熱海を自分達から見えなくしたのが悪かったってことだ。
それしか勝つ確率のあるルートは無かったし、間違いじゃなく正解ではあったが。
俺達の執念深さ?いや、違うな。むしろ、それで言うなら執念がクソ浅いからこそ10年簡単に待てたんだ。それが、アイツらの敗因だった。
「…………じゃあとりあえず街の全員にゆくゆくは治る怪我させたら、そのまま帰ろうか。国の重要人物はとりあえずもうみんな殺してきたから」
「仕事早いな。じゃあ、大体ここからこっち側を俺がやるから。反対側頼んだ」
「おkー」
それからは、特に言うことは無い作業だ。
適当に建物破壊して、終わり。
「…………これ、私達がやったんだ……すごい。見てると、悪い感情が湧き上がってくるな」
「……早く、帰ろうか。それで、後はゆっくり暮らそうよ」
「そう、だね。ちょっと、帰ったら泣かせて。足立にぎゅってされたいな」
それからのことは、省略させて欲しい。
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