4. 死



 さて。今日はようやく、以前申請したクラス替え試験の日だ。新年度になると申請する人が多いらしく、かなり待ったが……そのおかげで実力もかなり伸びた。今の実力ならクラス2くらいはいけるんじゃないか?


 シエルは……いつも通りだな。緊張も適度だし、特に何か言う必要は無さそうだ。


 そうなればあとは順番を待つだけ、今は試験の為に魔力温存しとかなきゃだから魔法の練習が出来ないとなれば……シエルでも眺めておくか。


「…………なに、もしかして暇になった?」


「こうやって見られるのは嫌だったか?」


「え?そんなわけないじゃん。ノアにされることだったらなんでも嬉しいよ、私は」


「そりゃあよかった」


「ふふっ、ノアって本当に私の事好きだよね……そりゃそう作りはしたけどさ、自分の身体を得てからも私しか見ないで居てくれるの、すごく嬉しいよ。ありがとう、ノア」


「当たり前だろ?シエルって自分じゃそう思ってないかもしれないけどさ、色んな人に好かれてるんだよ。なんで寄ってこないのかって言ったら、俺がいつも隣に居るから。つまり何が言いたいのかって、たとえ俺がシエルを好きだって設定で作られてなかったとしても、俺はシエルを好きになってただろうってこと。それくらい、シエルは魅力的な人間だよ」


「……ありがとね、ノア。……さて。ノア選手、そろそろ順番ですが、意気込みなどありますでしょうか」


「えー、そうですね……結果を待ってくれてるシエルの為に、精一杯頑張りたいと思います。シエル〜見てるか〜」


「……ふっ、どこ見て手振ってんの……ふふ、私そういうの笑っちゃうからやめてよ、んふふっ……」


「始めたのそっちだろ?あ、呼ばれた。じゃ、お先にちゃちゃっと結果出してくるから。シエルも、頑張って」


「うん。行ってらっしゃい。応援してるよ。」


 さて……シエルに応援されたからには、本当に結果を出さないといけないな。一時たりとも気を抜かないように……よし。行くぞ。


「ノア様ですね?ではまず、試験の概要を説明させていただきます。この試験は、魔術師としての総合的な適性、つまり強さ、魔力量、判断力など、様々な観点から受験者をテストし、その方に合うクラスはどこなのか審査することが目的です。その為、今回の試験では自分が生き残る事を第一に考えて行動してください。理解出来ましたか?」


「理解しました。」


「10秒後に試験開始です。では、失礼致します。ノア様にとって良い結果になることを願っていますよ」


 それからその人が転移で消え、俺は1人部屋に取り残される。数秒後、部屋に魔物が数体転移されてきた。

 それと同時に光断式が起動し、魔物は全て半分に切断され、魔物の死体はすぐさまどこかへ転移されていった。


 数秒後、再び魔物が部屋に現れる。さっきより少し強くなっているみたいだ。だが光断を防げる程の者はまだ居らず、その後は全く同じ流れだった。


 それがしばらく続き、残存魔力が最大魔力量の32分の31くらいになった頃、現れるのが魔物からモンスターに変わる。

 

 これも初めは低魔濃度級、中級、高級、ときて、ついに超級まで現れたが、わざと攻撃を誘発して魔力を消費させ、防御結界に使われる魔力を減らしたところで魔力量を上げた光断をお見舞いしてやれば簡単に倒すことができた。


 そう、実は例の蘇生魔法からヒントを得て、少ない魔力消費でコストが高い魔法を撃つ技を身に付けたんだ。

 蘇生魔法は本来魔力をとてつもなく消費するから、コストを抑えるための魔法が中に入ってたんだよ。


 それを取り出して使っているおかげで、超級に魔力量勝負で勝ててしまう。


 とか思っていると、今度は部屋に水が流れ込んでくる。水ね。魔術師ならこれくらい対処出来ないとな。

 方法は沢山あるが、1番手軽なのは……生活魔法の乾燥を使って水を消す方法かな。


 生活魔法って、生活を便利にするために先人が超頑張って色んな魔法を組み合わせて1つの効果にして作った魔法が殆どだから、それを使ったことによって起きる不都合ってのが生活魔法は圧倒的に少ないんだ。


 乾燥ってのは要は、指定した場所の水分量が適度な量より多い場合、適度な量になるまで消滅させるって魔法だからな。この世界じゃ水なんて水魔法で無からどんどん湧き出てくるから、むしろ消滅させた方が色々楽なんだ。


 おっと……いよいよ人の撃つ魔法攻撃のフェーズか。まあ、俺の防御式の魔力量に勝てる攻撃なんてそうそうないだろうが、万が一通ったら即死だからな……一応回避は完璧に、っと。


……終わりか?


 そう思った瞬間に飛んできた一撃を難なく避けると、最初に説明してくれた人がまた転移してきた。


「最後に、魔法準備速度を測定致しますので、式を一時的に無効にさせて頂きます。では、あちらの的に向かって、あれを殺せるだけの威力の魔法を撃ってください。どうぞ」


 その人が的って呼んだのは明らかに、とにかく硬いってことで有名なモンスターだったが……俺はそいつを瞬殺した。硬いだけなら魔力でゴリ押しすれば余裕だからな。


「この度はご受験頂き誠にありがとうございました。あちらの扉からご退出いただけます」


「ありがとうございました」


 後ろを向いて暫く歩いた後その人が飛ばしてきた攻撃を避け、俺は部屋を出た。すると俺を待ち構えていたのは、


 死だった。


 あの部屋の中で見せた全ての防御式と攻撃式を切られたままだと気付かずに、部屋を出た。その結果、俺はいとも容易く殺された。犯人を見ることすら叶わなかった。


 だが、俺は大して悲観していなかった。自分が死んだら発動するように設定した式があるからな。


 それに、魔法ってのはそれを発動するための意識と魔力さえあれば発動できるから、意識がなくなる寸前で発動した魔視魔法で犯人の顔も服装も見られたし。


 犯人は知らない奴だったが、生き返ってからそいつを探せばどこ所属かも分かるだろう。いや……そもそも学園のセキュリティってクソ頑丈だから、敵は学園とか、学園を運営してる国とかなのかもしれないな。あー、そろそろ意識を保てなくなってきた。じゃ、生き返ったらまた……。



  §



 死体が突然光る。

 これが蘇生か。いや、正確には未完成の蘇生魔法だが。

 未完成なのは最後の処理とかなんとかアイツが言っていたから、多分途中までは本当に蘇生しかけてるんだろう。面白いな。


 いやあ、蘇生式組んでるから生き返ると思って死に際に魔視してきたのガチで面白かったなあ!

 残念、その蘇生魔法は未完成です……みたいな。

 あ、光消えた。ま、一応念の為……うん、死んでるな。


 蘇生失敗確認……と。そしたら死体は……うげ、またあそこに捨てに行かなきゃいけねえの?だるー……まあやるしかないんだけど。


「お、よう。そっちも無事に殺せたみたいで何より。お前が死ぬのは見たかねえからな!」


 俺が殺した奴の双子の姉だっていう、サ?シ?……なんだったか、も同僚が上手く殺せたみたいで、死体捨て場として俺たちの間じゃ有名なダンジョンに向かう途中でそいつと鉢合わせた。


「お、死んでなかったか。いやあ、久々に強い奴だっていうから死ぬ覚悟してたんだけどな、拍子抜けだよ」


「こっちも同じだよ。折角久々に戦闘になるかと思って体動かしてきたのに、無駄だったなぁ……こんなことなら普通にゲームしときゃよかったよ」


「てかお前聞いた?この双子恋人同士なんだってよ。やばくね?」


「いやそれ。マジで頭イカれてるよな、双子同士でって……どうしてそんな発想になるんだか。ま、頭イカれてないとこんなに強くなれねえってのは分かるけど」


「あー、そりゃそうだな。しっかし、それにしたってあのテスト全クリは異常だろ」


「え、コイツらアレ全クリしてたの?」


「うわお前知らなかったのかよ、運いいなぁ!俺はやる前に知っちまったせいで手汗がもうびっちょびちょよ、ほら」


「うわお前見せてくんなよ、汚えな。」


「あ?ただの手汗が汚いだと?」


「汗はどこの汗でも汚いだろ、ふざけてんのか?」


「それには同意できねえな。綺麗な汗もある!」


「それは綺麗だけど汚い汗だろ、綺麗と汚いは汗の話なら両立すんだよ!」


「あーあーもうわかったって、ほらもうすぐ着くぞ?」


「お、マジじゃん。やっぱお前と話してると早く感じるなー。」


 実際にはこれだけ早く着けるのはお互いに巻き込みながら前に向かって転移しまくってるからなんだが、まあそれは言わない方がいいことってヤツだよな。


 さて。そしたらあとはこのダンジョンの最下層に死体を捨てれば任務完了か。何だかんだ今日も無事に生き延びたな……。


「よし!とうちゃーく。そしたらいつもの場所に死体を置きまして、……もう1回確認しとくか。死んでるよな?」


「…………よし、死んでる!じゃっ、帰りますかー!」


「今日も生還!いやー、今日は楽な仕事だったなぁ!」


 たったこれだけであんな大金が貰えるんだから、これ以上にいい仕事ってないよなぁ……!


 その後俺達は、いつも通り適当な店で味のしないラーメンを食って拠点へ帰った。


「あ、そうだ。俺まだ報告してねえや」


「まだギリいけるって!急いで報告しちまえ!」


「えーっと……蘇生失敗確認、と。よし!今度こそ今日の仕事おしまい!」


「いえーい!今夜もパーティーだ〜!!」

 


   §



「蘇生失敗完了、か……」


 それを確認して、依頼を完了したという報告のメッセージを依頼者に送る。


「最近の転生者はみんな警戒が足りてないッスよね〜」


「……お前がおかしいんだ、何度言えばわかる?」


「え〜?あ、それかアレなんスかね、最近のあっちの世界の流行りは初めから最強で無双する話だったり?ま、俺はもう向こう戻りたくないし知りようねーけど。それとも転生者連れて来てる神の流行りとか、もしかして乱数が乱数じゃないとか?それか単に運がわりぃのかな……」


「……アキト、それくらいにしておけ。客人だ」


「あら、そのまま続けて貰っても良かったのよ?」


 忌まわしきリスティアが部屋の入口の影から現れる。


「リスティア・オープナー……いつからそこに居た?」


「お、リスティアさん!なんで来たんスか?」


「今日もアキトのスカウトに、と言いたいところだけれど……最近の貴方達は転生者を殺しすぎよ。次やったら私達はあなたの組織を徹底的に滅ぼすわ。用意は既に出来ているの。対策のしようもない。私の言っている意味が、わかる?」


「…………お前は私達を舐めすぎだ。確かにお前達は賢い。だが、こちらの方が経験があるんだよ……」


「あら、そうかしら?私達にも経験はあるわ……地球の人類の5000年の経験が。この世界の人類が記録を残し始めたのはせいぜい100年でしょう?それも、私達の齎した知識と技術によって」


「……そんなに転生者が惜しいか?」


「ええ、惜しいわ」


「それは転生者の持つ能力が、だろう」


「だとしても、あなた達はそれごと殺してる……違う?」


「違うな。……リスティア、ついて来い」


「ええ、わかったわ。……ずっと思っていたのだけれど、どうして私をオープナーではなくリスティアと呼ぶのかしら?」


「オープナーは本名ではないだろう。だからだ」


「生まれた時はオープナーじゃなかったのは確かね。けれど、今はもうオープナーなのよ?だから、オープナーと呼んでくれる?」


「……お前結婚したのか?オープナーなんて名前聞いた事もないが……」


「ふふ、いいえ。でも、私はもう本名がリスティア・オープナーだとしてみんなに知られてる。なら、私の本名はリスティア・オープナー。でしょう?」


「…………オープナー。ここだ」


「あら、まあ、これは……!」



  §



「ねえー、アイリス。また信者の人達が僕を神だ!って言って胴上げしてきたんだ。胴上げなんて書かなきゃよかったよ……」


 主様はため息をついた。きっと教祖の仕事で疲れているんですね。私が癒して差し上げなければ!


「主様は何故日記に胴上げをお書きに?」


 主様……かわいいです。あっ、教祖様にそんなこと思っちゃ駄目だって分かってるのに……!


「いや、なんか、ノートの端に落書きするのってよくアイリスもやるだろ?アレだよ、その時は棒人間の胴上げを書きたい気分だったんだよ……」


「なるほど……」


 主様の世界ではそのような文化があるのですね。広めなければ!


 主様は、窓の外を見て再びため息をつく。


「宗教国家、あんま好きじゃないんだけどなぁ……」


「すみません、聞こえませんでした……今なんと仰られましたか?」


 あ、主様が困った顔をしている。もしかして聞いちゃいけないことだった……?それとも、言葉使いが駄目だった……?やっぱり学のない貧民なんて主様は嫌いなのかな……


「申し訳ありません、何か悪いことをしてしまいましたでしょうか……直しますのでお教えくださいませんか……!」


「えっ?いやいや、そんなことないよ!アイリス、謝らないで!ごめん、ため息ついてばっかりだったよね、気にしないでいいから!」


 ほっ……よかったぁ……!



  §



「戦力増強の進捗はどうだ」


「はい。順調です。このままいけば、当初の予定通り再来年には王国に侵攻できるかと」


「再来年か……やはり他の計画を考えなければ……」


「であれば、こういう計画はどうでしょう」


 部下が紙の束を差し出してくる。それを私は、最近流行りだしたスマホという機械に読み込ませた。そして、AIなるものに要約させる。


「…………ふむ、なるほどな……この計画はお前が考えたのか?」


「はい」


「よくやった。来月にはこの計画を始動できるように、準備を始めろ」


「来月ですか?承知しました。実は他にも計画を立てて来たのですが……」


「お前は本当に優秀だな。見せてみろ」


「こちらは外に知られるとまずいので、機械ではなくご自身で読んでいただければと思います」


 なるほど、アレを使うと外に情報が漏れるということか……先程の計画がなんでもない戦力増強の為の計画でよかったな……。


「ありがとう、アルマ」

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