5. 始まり



「……ここ、どこだ…………」


 目が覚めて最初に見えたのは、天国のような淡く端が紫がかった青空……いや、ふざけてる場合じゃないな。シエルはどこ……あー、隣で寝てるってことはまあ、大体俺と同じ流れを辿ったんだろうな。


……俺達を殺したヤツの痕跡は見当たらない、か。それならとりあえず、この状況で生存することを考えないとだ。


 まあここがダンジョンなのは間違いないだろう、こんな景色はこの世界だとダンジョンの中でしか見られないはずだ。


 そうなると、食料は魔物を食えばいいし水は魔法で出せる、敵の攻撃は多分防御式があるから効かない……防御式?もう無効化は切られたかな……流石に切られたか。ずっとつけてると魔力の消耗激しいからな。


 しかし、あんなミスで殺されるとはなあ……俺もまだまだだな……。


「…………ん、ぅ……」


 お、シエルも蘇生したか。ま、蘇生直後だししばらくは寝かせてやるか。


 よし、そしたら次はここがどのダンジョンか、敵の強さはどれくらいかの調査だが……丁度いいところに敵がいるな……あれは……魔物だが、かなり弱い……動物に近いな。食ってるのは……人の死体か?


 ああ、なるほど。ちょうどここら辺は落ちてる人の死体を食う知能と生態の魔物がいるから死体捨て場にされてるって訳だ。


 だとするとここに長居するのは良くないな、また人が死体捨てに来たりして鉢合わせたら困る。

 シエル起こして移動するか?ああいや、俺が抱えりゃいいのか。


 シエル……いや、最早シエルなんて名前で呼ぶ必要もないか。熱海を抱えて、ダンジョンの中を移動する。


 ここ、人の死体が捨てられてなければめちゃくちゃ景色良いのになぁ……。


「ん…………あれ、ここ……」


 お、熱海も起きたか。いや、俺が起こしたのか?


「おはよ、熱海」


「ん、おはよ……」


「ここはダンジョンの中で、恐らく人の死体を食う魔物が居るから死体捨て場にされてるんだと思う。そんで俺らも捨てられた。魔物は弱いし式も使えるようになってるから警戒は最低限で良さそうかな。で、今は人がまた死体捨てに来たらまずいから移動してるとこ」


「…………あー、そういうこと。もう自分で歩けるから下ろしていーよ」


「分かった。なあ、式発動から蘇生までのディレイ20年くらいかけてるしもう多分外じゃ死んだ事になってるし、呼び方元に戻さないか?」


「あ、確かに。ふふ、本当はずっと足立って呼びたかったんだ。これからはいっぱい呼べるね……あだち」


「そうだな、熱海」


「ふふっ。あー、死んでよかったなあ、私達!」


  §


 それから話し合った俺達は、次に死体捨てに来る人を待つことにした。

 そいつが殺される時魔視で見たのと同じ服装だったら、支配魔法かけて情報を聞き出す。そういう計画だ。


 そして、待つ間俺らは魔法の訓練や開発を行う。蘇生魔法を完成させて、魔法の作り方は分かったしな。


 そうして数日が経って、そいつらは現れた。早かったな。そんなに高い頻度で死体捨てに来てるのか?まあいいや。とりあえず視認される前に支配魔法をかけた。


「ハロー、元気?……あれ、もしかして君、俺を殺したヤツ?」


「そうです」


「そりゃすげーな、なんて偶然。じゃあ単刀直入に聞くけど、シエルと俺を殺せって命令してきたのは誰?上司とかじゃなくて、大元を知ってたら答えて。知らないなら上司でいいけど」


「国です」


「やっぱそっかぁ。じゃあ、あんまり長く拘束すると怪しまれるだろうし、お前らはもう仕事に戻っていいよ。俺に支配されてることは隠して、いつも通り働いといて〜」


「分かりました」


「では失礼します」


……なんか、随分あっさり敵が判明しちゃったな。国か。国ねえ……どう復讐したもんかね。熱海を殺すって決めたヤツは最大限苦しめて殺すとしても、他の人達をどうするか。


「やっぱさ、こう……裏から世界を牛耳るみたいなことしてみたいし、とりあえず国乗っ取ってみない?できなかったらみんな殺しちゃえばいいし!」


「そうなると仲間が欲しくなるな……悪魔召喚とかしてみるか?」


「お、いいね!じゃあそれは足立に任せて、私はアンデッド召喚しまくってアンデッドの王になろうかな……いやその前にやる事があるわ、不老!不老にならないと!」


「あー……確かに。こんないい世界に転生できる機会、二度と無さそうだしな。不老か……じゃあ俺がそっち研究しとくよ、熱海は悪魔召喚やっといて?」


「OK〜てかそうだ、まず家とか作らない?」


「ああ、確かに。やる事が沢山あるな……じゃあまずはここを脱出して、いい土地見つけたら家建てて、って感じか?」


「そうだね。このダンジョンの中もいいけど、人に見つかる可能性高いし。あってかそうだ、まずこの世界のスマホ手に入れたくない?あと普通に旅とかしてみたいし、異世界転生っぽい事したい!あーでも、不老になってから、かな……」


「そうだな。つっても、今思ったけど不老って原因物質消したり変化させたりすれば時間魔法使わなくてもいけそうだしちょっとそれだけ今ここでやってみるか……」


「お、じゃあ頼んだ!あ、そういえば蘇生式のディレイ20年から0秒にしとかなきゃ……余計な光も削除して……」


「……あー、もしかして食事不要とか睡眠不要とか、そういう要素も必要?とりあえず不老式だけならできたから教えるよ」


「あ、ありがと。そうだなー……必須じゃないけどあったら嬉しいよね。食事とかダルいだけだし。そんなことしてる暇あったら足立と話してたいもん。でも旅するなら食べ歩きはしたいし……生きる為に必要って訳じゃないけど物は食べれる、みたいなのが理想?」


「なるほど。そうなると先に家をどうにかした方が良さそうかな……」


 となると旅しながら金稼いで住みたい場所探して食事とか睡眠とかが不要になるような式も作る、って感じか。忙しくなるな!


「じゃあ、こんなとこさっさと出て旅しよ!私冒険者とかやってみたいなあ……」


「いいね、とりあえずこれから何するか、歩きながら話そうぜ」


「ふふ、うん。……あー、まだ上の階層見た事ないから転移出来ないの面倒臭いなあ。いや、待てよ。風魔法で浮いて動けば歩く必要もなくていいのでは?」


 説明しておくと、風魔法ってのは、空気を操る魔法のことなんだ。だから、例えば自分の足の周りにある空気を固めて、その空気を動かしたりすれば、簡単に浮いて動くことができる。


「うおー、楽すぎるこれ……」


 固めた空気に座り、足を前後に揺らしながら、熱海が空を見上げる。本当にここは、景色が綺麗だな……。


「……あ、熱海。あっちに出口が見えてる」


「え、マジ?やっとだ〜……」


 俺も風魔法で浮き、熱海についていく。


「……ここ、敵クソ弱いのになんで死体捨てに来る以外で人来ないんだろうって思ってたけど……こんな山の中じゃそもそも人に見つからないってことか」


「そうだな……じゃあ、どっちの方角に行く?」


「んー…………こっち!」


「OK。じゃ、行こうか」


 俺と熱海は、上空へと上がって移動を開始した。


  §


 移動の途中、ふと思いつく。


 今不老式で消してる老化の原因物質を、栄養に変化させれば食事不要が達成できるのでは、と。魔力なんていう不思議物質は、そんな事も出来てしまうのだ。

 

 まあ食べ歩きしたい時は事前に、処理を変化から消滅に変えておけばいいだけだし。もっといい方法が思い付いたらそっちに切り替えるとして、今はそうするのが良さそうかな。


 言葉で説明するのが面倒だったから、熱海には念話でイメージをそのまんま共有して伝えておいた。


「……あ、また街見えてきた。足立、降りよ」


「ん、OK」


 さっき行った街は冒険者ギルドとかそれと同じような施設が無かったから早々に出て来たんだが、この街は大きいから冒険者ギルドくらい流石にありそうだな。


 多分俺達が街を見つけた時点で門番の人には飛んでいる姿を見られてるだろうから、特に手前で降りて歩くなんてことはせず、門の前に直接降りていった。


 そのまま特に怪しまれることもなく街に入った俺達は、道端に並ぶ屋台を見て食べ歩きをすることにした。


「すごい、異世界っぽい……高層ビルとかあるのに屋台が並んでるのは変わらないんだ……あ、そういうことか。この20年の間に空飛ぶ車が普及したから、車道だったとこを歩行者が歩けるようになって、ってね?ああー、なるほど。おもしろ……!」


 そして、そのまま冒険者ギルドを探して道を歩いていると、ある店が熱海の目に留まった。


「魔道具屋……」


「……ラノベとかでよくある魔石ってこの世界に無いよな?じゃあ使う人の魔力を使って動く、式みたいなもんなのかな。それともあるか知らないけど空気中の魔力を使って、とか?そういや洗濯機みたいな魔道具が家にあったっけか……」


「早く何があるのか見てみたいし、金の為にも早く冒険者ギルド行こ!多分あの看板のとこでしょ?」


 熱海が遠くに見える看板を指す。剣と薬草のロゴ……まあ、どう考えても冒険者ギルドだろうな。


「そうだな。もう見えてるし転移でもするか?」


「あ、確かにそっか。じゃあ……」


 熱海と手を繋ぎ、俺達は冒険者ギルドの前に転移した。

 実は一緒に転移するのに手を繋ぐ必要は無いんだが……前世と前前世でのイメージ的にどうしてもやっちゃうんだよな。


 あと絡まれたら面倒だからちゃんと人の邪魔にならない場所に転移したんだが、通行人がめちゃくちゃ驚いててちょっとこっちまでびっくりした。学園の中じゃ転移って当たり前だったんだけどな。外じゃ違うのか……。


 ま、いいか。とりあえずさっさと中入っちゃおう。


「おおー。冒険者ギルドなんて名前に似つかわしくないすげー現代的な見た目っすね……高評価です。いやー、いい加減この世界の現代的な部分にも慣れんとなあ」


「そうだな。ま、とりあえず受付行こうぜ、熱海」


「おk」


 受付は時間帯のせいか1番のカウンターしか開いておらず、誰も並んでいない。俺たちは当然そのカウンターへと向かう。


「あの、俺達冒険者ギルド来るの初めてなんですけど、登録とかってここで出来ますか?」


「大丈夫ですよ〜お2人とも冒険者登録がしたいということで宜しいですね?」


「はい、そうです」


「ではまずあちらでこの書類に記入をお願いします、書けたら持ってきてくださいね〜」


 指し示されたソファに座り、渡されたバインダーを見る。名前と性別、年齢、住所、電話番号、メールアドレス、人とパーティ組んだ時にやれる役割、その他同意事項……って感じか。住所も電話番号もメールアドレスも無いが、大丈夫だろうか?


 まあ、とりあえず書けるとこだけ書いて持っていこう。ああそうだ、名前は……普通に足立酔、でいいか。


 役割か……俺熱海以外の人とパーティ組むつもり無いしなあ。任意なら書かなくていいだろ……


 年齢?あー……どうしよう。熱海と揃えなきゃいけないから……


『ねえねえ足立、年齢どうする?』


 ナイスタイミング。


『んー……ま、この身体の年齢の、18でいいんじゃね?』


『おっけ〜』


 同意事項は大体全部、冒険中に冒険者ギルド外で起こったことは自己責任だよって感じの内容だった。そりゃそうなので同意して、


「書き終わった〜」


「俺も。じゃあ受付持ってくか」


 俺達は、受付の人にバインダーとペンを返す。


「はい。ええと……熱海鏡さんと、足立酔さんですね……住所もメールアドレスも電話番号も無い方には、依頼から逃げる事の無いように、また逃げても追跡できるようにという事でGPS信号を身体に埋め込むか、或いは依頼実行中は配信をし続けることのどちらかが義務付けられているんですが、どちらがよろしいでしょうか?」


「え、そんなん配信でしょ。ダンジョン配信者、やりたくね?」


「熱海がそう言うなら、そっちで行こう。配信の方でお願いします」


「では、ギルドで依頼を受ける時は……このような、自動追従型カメラが渡されますので、その都度ギルド職員の前で電源をオンにして、依頼完了からギルドに帰還するまではたとえ日を跨ぐとしてもオフにしないようお願い致します。配信で利益が出た場合にはギルドが10%手数料を頂いて、冒険者様に90%の還元となりますのでご了承を」


「ありがとうございます。」


「では、冒険者ランクを決める為に実力をこちらで測らせて頂くか、一番下の7ランクから始めるか選べますが……」


「今実力測ってもらう方が色々楽そうだし、そうしない?」


「うん。じゃあ、そっちで」


「承知致しました、では少しこちらでお待ちください」


 それから少しその場で待ち、同じ人が戻ってくる。


「確認ですが、過去にこのような試験を受けた事は……」


「あー。ま、話しちゃっていっか」


 どうせ何かあって殺されても生き返るしな。


「学園でテストを受けたことがあります、けど……記録は残ってないか、」


 20年前だし、あんな事になったのに記録が残ってる訳ないしな。


「ゼルフェリア魔法学園ですか?それならテストの記録は残ってる筈ですけど……」


 あー、どう伝えたもんかね。隠し事はどうせバレて面倒なことになるからしたくないんだが……


 そう考えたところで、丁度上の階から他の冒険者と談笑しながら降りて来た、ギルド職員の制服を着たおじさんと目が合う。それからその人は話していた冒険者を置いてこちらにやって来て……


「あなたがたは……もしや、ノア様とシエル様では?」


「え、まあ、はい……」


「生きてたんだ……!でも、20年前と見た目変わってないの、なんで?」


「……あの、申し訳ありませんがどなたでしょうか?」


「え、あ、ごめん。レインだよ、そうか、知らないのか。僕ここのギルド長になったんだ。君たちがクラス替えの試験受けるって言ってからいなくなっちゃって、葬式があって、顔の食いちぎられた死体を魔物にやられたって言って出されて燃やされて、だから、死んだと思ってた……!」


「ああ、レイン!レインか……そうか、ギルド長か……」


「……もしかして、ここじゃ話しにくい?僕の部屋に行こっか、そしたら……」


「あの、ギルド長。申し訳ありませんが、こちらの方々はギルドの登録手続き中ですし、ギルド長もあちらの冒険者様とお話されていたのでは?」


「え、あっ、ちょっと、2人とも待ってて!すみませんね全く、あちらにここ20年見なかった親友が居たものでして……」


…………レインも処世術を身に付けて、明るくなったなあ。


 それから暫くして、レインが戻ってくる。


「いやー、ごめんごめん、お待たせ。じゃあ、2人の登録手続きは僕が引き継ぐから、君は受付業務に戻っていいよ。で、2人とも。僕の部屋はこっち!」


……レイン、本当に変わったな……。


 レインに連れられて、ギルド長室に入る。


「……何があったのか、ここなら話せる?他の誰にも聞かれてないって約束するよ」


「…………まあ、端的に言えば、テストの時に罠にかけられて殺されて、その20年後に発動するように設定してた蘇生魔法が無事発動してついこの間生き返って、この街に来たって感じ」


 そういえば、ここって学園があった街なのか。ずっと学園の空間魔法の中に居たから上から見ると分かんなかったな……。


「…………本当に?あっいやごめん、シエル達を疑ってるわけじゃなくて……ほら、ギルド長なんてやってるとさ、こうなっちゃうんだよ」


「……そっか。大変だな。お疲れ様、レイン」


「……ううん。ありがと、それで……詳しく話すと?」


「詳しくね……まあ、とりあえず判明してるのは、俺達を殺そうとしたのは国だってこと。俺達を殺したヤツに話聞いたら、犯人は国だって言ってたから」


「…………そうか。国か……」


「あと他に何か話すべきことってあったっけな……」


「……よし、わかった。とりあえず冒険者登録だけ済ませてしまおう……実力を測る為に、その時のテストの内容を教えて貰えるか?」


 口調がギルド長モードになったな……。


「えーと……」


  §


 それから、テストの内容と蘇生した後身に付けた魔法について詳細に話した。どうやら熱海も同じテスト内容と手口で殺されたらしく、テストでとった対処法も全て完全に一致していた。地味に嬉しい。


「なるほど……であればランクは0でいいだろう」


「1より上ってこと?」


「ああ、そうだ。0ってのは、一人で街を滅ぼせるとか軍に匹敵するとか巷じゃ色々言われてるが、要は規格外に強い冒険者ってことを表す、冒険者ランクの最高ランクだ」


「……私達そんなに強いかな?」


「はは……君達からするとまだまだ上があると感じるんだろうが、私からすれば君達が1ランク以下なんて有り得ないよ」


「そうなんだ……」


「まあ、これで質問は終わりだ。手続きを終わらせてくるから、少しだけここで待っていてくれるか?」


「うん」


「では」


…………蘇生式のディレイ、20年はちょっと長すぎたかな?

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