3. 生
1秒。それが、俺達が負けるのにかかった時間だった。
実戦演習が終了しました。レート低下 [7612→7597]
俺の全魔力を注ぎ込んだ魔法防御結界が相手の切断魔法を防ぎ、相手がそれに驚いてから全力の切断を飛ばすまで。
その間の1秒。
「負、けた……」
何が起こったのか考える俺達に、話しかけてくる人間が居た。
「あなた達、他の人より強いね。初撃を防いだ魔法防御結界も、僕の魔法防御結界を揺らした闇断も初めて見た。友達にならない?」
「…………それは、是非。よろしくお願いします」
「……友達なら、もっと砕けた口調でもいいよ」
「……なら、そうさせてもらうよ。俺はノア、こっちがシエル。俺が防御担当で、シエルが攻撃担当だ」
「僕はレイン。タッグ組む人は毎回違うんだ。……ねえ、シエル。僕に本気の闇断撃ってみてよ」
「え、?あ、はい。じゃあ、あの、撃ちますよ……?」
「うん」
熱海の攻撃が、レインの結界に弾かれる。
「……やっぱり、君達、僕ほどじゃないけど……魔力量が異常だ。君達も虐待児なの?」
「……いや、」
「僕はね、生まれた瞬間から最大魔力量の成長が止まるまで、魔力を吸い取る魔法を途切れること無く行使され続けてきたんだ。だから魔力量がこんなことになっちゃったの。魔術師に体力は必要ないからってご飯は生きるのに必要な最低限しかくれなくて。ひどいよね」
「……そうだね。でも、なんで私達にそれを?」
「君達はなんでそうなったのか気になってるから。僕が話せば、君たちも話す。でしょ?」
……どうせもう先生にバレては居るしな。隠しても意味無いだろ……
『話していいよね?』
『うん』
「…………わかった。話すよ。私達は…………転生者なんだ」
「…………あぁ、なるほど、そういうことかぁ。つまり赤ちゃんの時から意識があったってことだよね?じゃあ自分でやったんだ、それ。すごいね。赤ちゃんの時にそれだけの魔力量を使い切るのって大変じゃなかったの?」
「うーん……でも私達、ずっと念話で話してたからな。話に夢中になってて、気付いたらって感じだったし」
「仲がいいんだね」
「そう!私とノアってマジで超仲良いんだよ!」
「でも、そんな感じだとすぐ死ぬよ。だって、僕みたいな人間はこの世に沢山居るから。君達はいい人だから、すぐには死なないで欲しい。だから、強くなって?」
「……そう、そうだよね。うん。強くなるよ。すぐに強くなってみせる。レインを一瞬で負かすくらいに」
§
そんな経緯があって、今俺達は再び蔵書室にやって来ていた。
「切断されても魔法を1つ使うくらいの猶予はあるから、蘇生魔法とかあったら平気だと思うし、攻撃も防御ももっといい手段が沢山あるはず。今日はそれを探しに来たから、手分けして探して……17時にここで落ち合おう。いいよね?」
「うん。思い付いた、戦闘において強そうな魔法を片っ端から探していけばいいんだよね?」
「そう。じゃあ始めようか。また、17時に」
「また」
熱海と別れた後、俺が一番初めに探したのは指定した条件下に入ると自動で魔法を発動してくれる物がないか、ということだった。結果から言うと、それは簡単に見つかった。
かなり奥の方にあったから長らく誰も開いていないようだったが、その本は実に有益なことばかり書いてあった。
その1つが、目的でもあった「式」だ。
式とは、発動条件とその時発動して欲しい魔法を決まった形に則って式にし、それを覚えて常に魔力を供給し続けると、次第にそれに身体が慣れて意識していなくても魔力を供給し続けてくれるようになる、という技術のことだ。
覚えて常に魔力を供給し続ける、という手順の面倒さ、大変さから廃れたらしいが、これと蘇生魔法を合わせれば最強じゃないか?蘇生魔法なんてのがあるか知らないが。
そういえば、蘇生魔法をどっちが探すのか決めてなかったな。
『熱海、蘇生魔法探してる?』
『今探してるよ〜』
『じゃあ俺は他の探しとくわ』
さて。他に探したいのは、魔法防御結界に勝る防御魔法かな。ずっと展開し続けるのは魔力消費重すぎるから、攻撃が来た時だけ防御を展開して欲しいんだが……それは式使えばいけるか。
じゃあ単に、同じ魔力消費量で強い防御性能を誇る魔法とかかな。その場合、構築が難しかったりするんだろうが……熱海に頭の中まで最強に作られた俺ならいけるはずだ。
そんな感じで色々魔法を考えては探し、遂に17時がやってきた。
「……蘇生魔法、手がかりなら見つけたよ。この場所に来い、ってメッセージが色んな本に隠れてた。しかも全部違う人が遺したメッセージっぽい」
「今後のことを考えると行くしかないけど……俺が集めてきた強くなる為の魔法を全部覚えてからにした方がいいかな」
「そうだね。じゃあ、色々教えてくれる?」
「勿論。じゃあまず、式って技術は……」
§
「とりあえず俺が集めてきたのはこれで全部」
「なんか凄い強くなった気がする……!」
「実際強くなってるからね」
「ねえ、早く蘇生魔法探しに行こうよ、足立?」
「…………思ったんだけど。外で名前呼ぶ時はノア、とかシエルって呼び合った方がいいのは明白だし、今からそうしない?」
「あ、そうだね。慣れないけど……ノア、早く行こ?」
「……明日休日なんだから、今日は早めに寝て明日行った方が良くない?」
「あー……それはそう。じゃ寝るか」
熱海…………シエルに、腕を掴まれて寮まで転移させられる。
「風呂も歯磨きも浄化魔法1つで済んじゃうの楽すぎる〜〜〜」
シエルが制服のまま、俺のベッドに潜り込んでくる。まあ、もし制服にシワついちゃっても生活魔法の復元でなんとかなるからいいけど……それにこの制服着心地最高だしな。俺も今度から制服で寝よっかな……
「今世の体なんかすっごい寝付き良くてさぁ、ノアのベッドだと秒で寝ちゃうんだよね……前前世とは大違い……」
「おやすみ、シエル」
「おやすみ、ノア……」
さて。俺も寝るか……。
§
「起きて起きて起きてっ、行こ?」
「……んー、わかったから、ちょっと待って……」
「もう浄化は私がかけとくから、ほら、制服着て、」
「はいはい、もう……そんなに楽しみ?」
「楽しみだよ。だって、絶対罠だもん」
「……まあ、あのメッセージの残し方からしてそれはそうだろうけど……」
「遂に私達も罠にかけられるような立場になったんだーって感じして楽しいじゃん、絶対罠にかかるのって楽しいよ!死ぬかもだけど……まあそれは別に行かなくても同じことだし。ね?」
「そうだな。よし、準備完了。じゃあ出発するか」
「いよいよか……はぁ……落ち着け私……転移するぞ……」
「そんなことするより俺に落ち着けって言われた方が落ち着けるだろ?」
「え、そりゃそうだよ。私がどれだけノアのこと好きだと思ってんの?まあいいや、転移するよ!せーの、ほいっ!」
転移した瞬間聞こえた地鳴りのような音に、俺は咄嗟にシエルを抱えて横に走った。そしてそれに少し遅れて、さっきまで俺達が立っていた場所に岩が転がってくる。
「わお……なんて原始的で有効的な罠なんだ。普通にこれ死ぬじゃん……あーでも、仮にあのままさっきの場所に立ってても防御式が発動してるのか。なんだ。意外と私達ってマジで強いんだな……」
「そうだな。でも油断するなよ、出来る限り俺がシエルを守るけど……いざとなったらいつでも転移できるように準備だけはしとけな」
「勿論、ちゃんと準備はしてるよ。でもノアを置いて逃げる気は無いから、ちゃんとずっと手繋げる距離に居てよ?」
「勿論だ。さて、そろそろ進むか」
「うん……」
遺跡のような建物の内部を進んでいくと、ふと奇妙な音が聞こえた。
「ここの次の曲がり角の先に魔物が居る。恐らくこの音はラビット系かな……視認される前に殺したいから、シエルはちょっと下がってついてきて」
シエルが頷く。
俺は索敵魔法を使いながら歩き、光断の範囲内にその魔物が入った瞬間にそれを行使した。もう音はしない。索敵にも魔物は引っ掛からない。慎重に死体を確認しに行くと、確かに死んでいる。
一先ずは大丈夫そうか……。
安堵した瞬間、索敵に何かが引っかかる。
俺はそれが何なのか認識するより前にシエルを突き飛ばし、俺も後ろに飛び退いた。
直後、地面に槍の形をした炎が突き刺さった。
この魔力量……防御式じゃ貫通されてたかもな。敵は人間じゃどうやっても有り得ない程の魔力量の持ち主。つまり……最低でも高魔濃度級、この魔力量の攻撃を軽く出せるなら超魔濃度級モンスターって事だ。
シエルを抱えて攻撃を避けながら進み、その一方で冷静に思考を続ける。
この攻撃壁を貫通して来てるっぽいからな……貫通魔法を壁に使う時の魔力消費を考えればほぼ確実に超級だろう。魔物だけでなくモンスターが出るだろうと予想はしていたが、まさかいきなり超級とは。
だがまあ、この槍の魔力量から考えて俺とシエル、2人の魔力量を合わせて考えれば魔力量で負けているとは考えにくい。俺がシエルの魔力を借りて防御式に回せば防御は出来るだろうし、逆に俺の魔力をシエルに貸せば攻撃も通る筈だ。
…………攻撃が止まった。どう撃っても避けられると判断して速さ重視とか俺に通りそうな攻撃に移ろうとしている、或いは魔力切れか……なんにせよ警戒は強めなければいけないが、今は真っ直ぐ進むしか無さそうだ。
「……あー、ずっと抱えられてる立場で申し訳ないんだけど、私が体重軽くてよかったね!なんてったって18歳で157cm30kgですからね。ふふ、全く自慢できない体重……!」
「……そうだな。30kgなら身体強化かけてりゃ振り回せるから、確かに回避はしやすいよ」
しかし、シエルによって作られた俺の身体は反射速度も人間の理論値をとってる筈なんだが、それで索敵に引っかかってから避けるのがギリギリとなると……速度に振られるといよいよ防御式に頼るしかなくなるかもな。その為には……。
「シエル、魔力貸してくれるか?」
「勿論。好きに使っていいよ、ノア」
シエルから借りた魔力と俺の魔力を、防御式に注ぎ込む。これだけ注ぎ込めばあの攻撃も防げるだろう……あれ以上威力を強化して来なければ、だが。
……っ、!?
突然、遠くにあった壁が眼前に迫り、俺は反射的に横に跳んだ。
「ごめん、驚かせて。今私の危機察知が反応したからちょっと前に転移したんだ、っ今も、ほらね?多分速度重視の攻撃に切り替えてきたんだよ、だからノアの反応出来ない速度になった結果危機察知が発動して、ってこと。ノアは走り続けて。次から転移する時は前が壁にならないように向きまで調整するから、大丈夫」
「……OK、じゃあ行くよ」
今まで回避に意識を割いてた分を身体強化の構築に回せるから、さっきまでよりも早く走れる。この様子だとあとほんの少しで超級の居る場所に着くだろう。
そうなればこちらの勝ちだ。相手が俺達を視認すれば、シエルと俺で防御結界貫通の攻撃が出来るんだからな。
まあ、相手に目がついてなかったら……その時考えりゃいいさ。
さて、いよいよ御対面。
俺達を待ち構えていたのは……高さ10mは優に超えているであろうゴーレムだった。だが目はついているな。ならいくら大きかろうと問題は無い。
「シエル、いくぞ」
「うん。」
「……よし。ゴーレムさーん?目ぇ閉じといた方がいいよー?死んじゃうかもしれないからねー!」
「ふふっ、じゃあいくよ?せーのっ、」
――禁視。
その瞬間、ゴーレムは跡形もなく消滅した。
「…………やっぱこの技ヤバ過ぎない?」
「そうだね……」
禁視ってのは簡単に説明すると、見ちゃいけない上位存在の分身を自分の身に宿して見たやつを殺す技だ。で、その前に俺らが喋ってたアレは決められた詠唱なんだよ。その上位存在がそう決めたらしい。
んでこれは、双子にしか使えない技なんだ。この国には有名な双子の魔術師って居ないから、知名度がとんでもなく低い。まあ、平たく言えば初見殺しのクソチート魔法ってこと。
なんでそんな魔法が蔵書室にあるんだよって見つけた時は思ったが、今考えると多分あの本はその上位存在が勝手に本棚に追加した本だったんだと思う。見つけられたのは運が良かったのか、上位存在サマの思惑か……別にどっちでもいいけどな。しかし、この世界、そんなんが居るんだよな……いつか勝てるようにならないと。
「……ま、とりあえず生き残れてよかったじゃん。で、結局ここには何があるのか何も無いのか……調査しないと。」
「…………あのー……すみません。ちょっと話してもいいですか?」
「え?……誰ですか?」
索敵に引っかかんなかったから多分敵じゃないんだろうが……気付かなかった。この人いつから居たんだ?
「あっ、えっと、わたくし、ここの遺跡の管理人といいますか、ええと……とにかく、試練クリアおめでとうございます!生き残った方には蘇生魔法を教える約束でして……」
「…………はあ。ありがとうございます。」
「あの……こちらが、蘇生魔法の習得方法でございます。持ち帰りはちょっと許されてないというか、それすると死んじゃうかもなので……ここで覚えていただけると」
まあ、いいか。とりあえずこれを読まないと始まらないからな。
…………あれ、これ。
全くの偽物の蘇生魔法を教えられるのかと思ったが、これって……未完成なだけで本物の蘇生魔法じゃないか?
例えるなら、この魔法の作者が蘇生魔法を完成させそうになって、慌てて寸前で止めたみたいな……あ、いや、違うわ。よく見たら所々正しい状態の一部が入れ替えられてるな……
ま、とりあえず気付かないフリするしかないか。
「覚えました。ありがとうございます」
「あ、では、もう帰って頂いても大丈夫ですし、休んでからでも大丈夫です。わたくしはもう退散致しますので……」
そう言うと、その人は小走りで去っていった。
「…………とりあえず帰る?」
「そうだな。あ、この紙あの人に返し忘れた……まあここに置いとけばいいか。」
「よし、じゃあ転移するよ?せーの、」
§
「……ノア、守ってくれてありがとね!」
「急に何、どうした?」
「いや、私って割と普段からこういう感謝とか結構伝えるタイプだよ?」
「ああ、それならいいけど。いや、何か急に死ぬのかと思ったよ、蘇生魔法手に入れたばっかだし」
「あー、そういうこと。それについてなんだけど……動物とかで蘇生試した後さ、ダンジョン行って誰にも見られてないとこで死ぬのに慣れときたいなって……」
「…………まあ、それはいいけど。まず蘇生魔法を完成させなきゃ、だろ?」
「あ、確かに。私実験用の動物召喚してるからノアはちょっと作業進めといてくれる?」
「ん、OK」
さて。まずは入れ替えられてるところから順に直していくかね……。
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