2. 授業



「諸君、今日からこのクラスには7歳の子供が入る。だが勿論、実力も学力も君達と同程度だ。だから侮るなよ?」


 翌朝。施設案内を終えて、実力が1番上のクラスが1、そして下が12まである中のクラス5に振り分けられた俺と熱海は、今から初めての授業を受ける。


「では、入ってきてくれ」


 教室の扉を開けて中へと入る。


「自己紹介を」


「ノア・カルヴェインです。シエルの双子の弟です。よろしくお願いします」


「シエル・カルヴェインです。ノアの双子の姉です。よろしくお願いします」


「……では、一先ずそこの席に座って授業を聞いていてくれ。分からないことがあれば、挙手して私に聞くか、授業が終わった後聞きに来てくれ」


「分かりました」


「よし。では授業を始める」


 よし……全くクラスメイトと仲良くなる気のない自己紹介は出来たぞ!


 しかし……7歳で入学していきなりクラス5入りしたとなるといくら仲良くする気が無さそうでもみんな俺らに話しかけてくるだろうなあ……さてどうするか。前世でも前前世でも、俺らは一応人とそれなりに仲良くはしてきたが……今世で熱海はどうするつもりなんだろうか?


『言い忘れてたけど今世でも人とはちょっとだけ仲良くしといてね〜』


『OK〜』


 こういう時念話って便利だよな……。


  §


 そしてそのまま特に難しい所も無く授業が終わり、休み時間が来る。


「あの……ノアくん、これからよろしくね。私、リリエっていうんだけど……」


 話しかけてきたのは、恐らく16歳くらいだろうか、前の席の女子生徒だ。


「なぁノア、お前何の魔法が得意?」


 横から会話に割り込んで来たのは通路を挟んで右隣の席の男子生徒。13歳くらいか?


「得意なのは……光断、ですかね。リリエさんもこれからよろしくお願いします」


「光断!?ちょっと見してよ、俺が切るもん用意するから……これ!切ってみ!」


 男子生徒が土魔法の岩生で人の顔ほどの大きさの岩の欠片のようなものを生成し、風魔法で浮かせた。俺はそれを雑に光断する。

 テストの時は演出の為に手を的に向けたりわざわざ準備したりしたが、別にそんなことしなくても光断はできるからな。


「……お前クラス3入れるくらいの実力あんじゃねえの?」


「まあ、あのテスト方式じゃクラス3入りできるかどうかまでは判断出来ませんよね……」


 戦場だと魔法準備に必要な時間は命取りになる。そして同時に、準備時間を短くするというのはこの世界の魔術師にとってとても困難な課題だ。その時間がどれだけ短いかをあのテストじゃ測れないからな。


 まあ、アレは入試じゃないし、学園に入学するのに魔法の腕は関係ないから、大抵の人が魔法を撃てないことを考えればあの形式になるのは仕方がないが。


 そうだ、学園の入試方式を話してなかったが……基本的には卒業生からの推薦があった人しか入れない、推薦さえあれば入れる。そういう形式なんだ。そして卒業生1人につき推薦は1人のみと決まってる。幸いうちの親は学園の卒業生だったから、その友人も何人か学園卒業生で、って感じ。


 しかしさっきから、熱海が人に絡まれまくっている……熱海は人に話しかけられると仲良くする気が無くても反射的に完璧な愛想笑い作っちゃうからなあ。


『大丈夫?』


『……今は大丈夫だけどこれを今後ずっと続けるのは厳しいかなあ。助けてくれる?』


『了解』


「ごめん、ちょっとシエル借りていい?」


 熱海を取り囲むクラスメイト達に、申し訳なさそうな顔を作りながらそう伝えると、クラスメイト達は快く熱海を解放してくれた。


 そのまま熱海を教室の外に連れ出そうとして、先生に呼び止められる。


「私は念話魔法が使われていることは分かっても内容までは読み取れないが、教師の中には念話の内容を読み取れる人間も居る。気を付けた方がいいぞ」


「そうなんですか!?教えてくれてありがとうございます!」


 人前に出る時の明るめモードで熱海がそう答える。こりゃ、熱海には俺以外の人前でも素を出せるように練習させないとダメだな……つっても、熱海のこれは家族相手にも発動するからそれを解除するのはかなり難しいだろうが。


 そして、俺達が教室の外に出ると、冷たい風が通っていった。少し寒いな。あまり長居はしない方がいいだろう。


「……はぁ。連れ出してくれてありがとね、足立」


「熱海が助けを求めてる時の為に俺が生まれたんだから、助けるのは当たり前だよ。だろ?」


「…………それでも、ありがと。ねえ、そういえばさ、他の人見て思ったんだけど。身体を成長させる魔法とか欲しくない?この環境なら学年ごちゃ混ぜだからそんな違和感ないだろうし……私早く足立と、その……」


「ああ、うん。そうだな……じゃあ、放課後蔵書室にでも行くか」


「……うん」


……そろそろ次のコマの授業が始まる時間か。はあ……さっきの授業、まんま速成魔法入門だったんだよな。それもう読んだし。


 確か速成魔法入門はその名の通り、実戦では準備時間の短さが物を言うから短くしようね、それにはこんな方法があるよ、って内容の本だ。


 光断と闇断の魔法準備時間が1秒未満な俺達ではやっても意味の無い練習方法が沢山載っている。かつてはよくお世話になったがな。


 そうなると俺達が次にするべきなのは、申請が通ればいつでも受けられる実力テストを受けることだろう。その実力テストの結果でクラスが変わるから。


 そうだな、今日の放課後くらいに先生にそう伝えよう。一応何コマか受けておかないと申請通るかも分かんねえし、一先ずは速成魔法入門の復習の時間かな。


「では、本日2コマ目のクラス5の授業を始める」


  §


 本日5コマ目の授業が終わり、残すはどの授業を受けるか受けないか選択制の2コマのみとなった。大抵の7歳はこの2コマは受けないらしいが、俺達は前日からどの授業を受けるか決めていたのだ。


 今日受ける授業は……2人×5組で2コマ続けて行う実戦演習。勝てると思っている訳ではなく、単に他の人の実力が見たかったのだ。それだけなら見学でもいいんだが、ついでにZPも欲しかったからな。

 

 勿論、レベルの合わない戦いに出るってことじゃない。実戦演習は、クラス分けとはまた違う、実戦演習専用のレートによって出られる枠が変わるんだ。

 

 だから初戦は、俺達と同じく昨日入学してきた7歳の子供や、それを養分にしてレートを上げようとする初期レートに近い実力の学生、或いは自信がついてようやく実戦演習に参加し始めたレートだけ低い猛者と戦うことになる。


「楽しみだなぁ、どんな魔法が見られるか」


「しかし、実戦のことを考えると切断系魔法への対策持っとかなきゃいけないよな……」


「やっぱ常に魔法防御結界張っとくしかないんかな?」


「そうかもな。てかそんなことより、この演習で使われてる、この……範囲内で人が受けた影響を一定時間毎に無かったことにするなんて魔法どうやって作ったんだろうな。時間系魔法ではあるよな?」


「それね。ガチ不思議」


「……そろそろ時間だな」


 俺達は指定された位置につく。端末に表示されている時計の秒針が、少しずつ12に近付いていく。


 準備は出来てる。熱海も大丈夫そうだ。


 よし……3、2、1……


 0。


 その瞬間、俺は魔法防御結界を、赤子の頃から鍛えてきた魔力量全てを注ぎ込んで展開する。


 攻撃は全て熱海に任せることにしたんだ。そして熱海の攻撃が上手くいっていれば今頃――


 実戦演習が終了しました。レート上昇 [1000→1476]


 よし。上手く行ったみたいだな。ということは今の所、このレート帯には熱海の最大魔力量の16分の1を使った闇断に対抗出来る魔力量の魔法防御結界をすぐに張ったヤツは居なかったってことか。


 それなら暫くは魔力量のゴリ押しで勝てそうだな……。


「GG〜あざした〜」


 熱海の闇断によって頭と身体が泣き別れになっている敵チーム4組8人には見向きもせず、熱海がそう独り言つ。


 相変わらずというか、前前世も前世でもそうだったが、熱海ってのは尽く俺にしか興味が無いらしい。


「これで2ZP……あ、見てた先生に優秀貰ってる。これで合計3ZPって、タイパよすぎじゃね?最高じゃん、余った時間で他の試合見れるし。足立、早く見に行こ!」


「そうだな」


 それから、レート帯が1番上の試合を見に行ったが、そちらも既に試合は終わっていた。


「まあ、予想通りではあったけど。そうなるとこのレート帯の試合見るためには休むかここまで上がるかしないといけないってことよな……めんどくさ」


「なぁ、とりあえず外動ける時間のうちに蔵書室行かね?」


「あ、確かに。もー足立はいつも完璧だなあ〜!そういうとこ、好き!」


「はは、ありがとな」


 外面は冷静でも好きって言われて超舞い上がってる内心をイマジナリーフレンドだった頃の名残の能力のせいで熱海に読まれながら、俺達は蔵書室へと向かう。


「うわ、広……」


 蔵書室なので静かに、熱海が呟いた。こういうところ、ちゃんと常識人で偉いな……好きだ……。


「身体成長魔法ってどの棚にあるんだろうな。生物の体内に干渉出来る魔法といえば光魔法の治癒魔法、場合によってはバフ系魔法とか、あとはあるとすれば合成魔法系かな?」


「じゃあ私光魔法の棚探すから、足立は合成魔法の棚探して?見付けたらお互いの所まで声掛けに行く、で……そうだな、14時半までに見つからなかったら……そこの机集合ってのはどう?」


「いいね。じゃ、探してくる」


 合成魔法の棚へと歩き出す。この蔵書室広過ぎて、魔法使って目当ての本見付けたとしても取りに行くのに時間がかかりそうなんだよな……お、早速見つけた……けどほら、クソ遠いじゃん。はあ……


「足立、そんな時こそ私の空間魔法でしょ?」


 一冊の本を片手に持った熱海が、俺に後ろから抱き着きながらそう俺の耳元で囁く。かわいい……


「えーっと……あれか。ほら、あんな遠い場所にある本が〜……ぽん、と瞬間移動してきました〜」


 熱海は、まるで手品みたいな身振りで空間魔法を使う。かわいい。


「…………さっきからかわいいかわいいって心の中で言い過ぎ。そりゃ私がかわいいのは認めるけどさぁ……」


 熱海がわざとらしく頬を膨らませながら寄ってくる。本人は冗談のつもりでやっているんだろうが、俺からするとそれは刺激が強すぎるんだって……!


「直接言ってくれたら、少しは恥ずかしがってあげてもいいのにな?」


「かわいい」


 思わず口をついて出た言葉に、熱海は目を見開く。


「っ……冗談だってば……そこは、その、ほら……ニヤッと笑ってからかわいいって言うとこでしょ、そんな、思わず言っちゃったみたいな……」


「だって、熱海が可愛かったから」


「…………私逆張りオタクだから絶対ツンデレとかやらないからね?だから、その、何が言いたいかっていうと、あんまり言い過ぎると私黙っちゃうよ?」


「それは困るなあ」


「んふふ、そうでしょ?だからほら、早くこの本読も!」


 今のちょっと危なかったな……あと1回かわいいって言ってたら熱海は態度に出さずに心の中で嫌がったりしそうだった。まあ、こういう判断を間違えないのは元熱海のイマジナリーフレンドである俺の取り柄の1つだから、正確には危なくはなかったんだがな。


「えっと……光染と闇染の合成魔法で反転魔法……おー、ほんとだ。それで?反転魔法と衰退魔法の合成魔法で……成長魔法。おー。すごい。ねえ、これ、自分に撃っちゃっていい?」


「え?他の動物とかでテストしないのは危なくない?」


「でも早くやってみたいじゃん、」


「…………まあ熱海なら2次合成魔法程度で失敗することないか。学園の蔵書室にあるものが間違ってるってことも無さそうだし……いいよ、熱海」


「やった〜」


 熱海が慎重に、準備状態の成長魔法を自分に向かって発動させる。


 すると、まるで人間の成長のタイムラプス映像を見ているかのように、熱海が成長し、あっという間に18歳頃の姿になった。着てた服が自動サイズ調整機能のある制服でよかったな……


「おお……すご。マジじゃん。早く足立もやろ?」


「そうだね。じゃあ……」


 自分で成長魔法を用意しようとして、先に用意していた熱海に魔法を行使される。そんなに早く俺を成長させたかったのか?まあいいけど。


 あー、なんていうか……すげー変な感覚だ。なんとも言い難い……。まあ、いいか。どうせ一度きりだし。


「…………これでやっと……」


「……寮帰る?」


「…………うん、そう……だね、あー、緊張する……」


「……かわいい」


「っ、もう、あ、ありがと、だけどさあ……!ああもうっ、転移で寮帰るよ!」


 熱海に転移させられた先は俺達に与えられた部屋のベッドの上だった。


「わ、わ、えっと、そういうことじゃなくて、えっと……あの、しゃ、シャワー!浴びてくる、」


「生活魔法使えばいいじゃん。」


「っ、た、たしかに、じゃあ逃げ場ないってこと…………?」


「……今日やめとく?」


「…………それは、やだ。だって、29年も頑張って、お互い触れないまんま耐えてきたんだよ?やっと触れるようになったのに、我慢とか、無理だし……」


「…………じゃあ、落ち着くまで普通に話してようか」


「……うん。ねえ、その、足立……」


「大丈夫。言わなくてもわかってるよ。だって、俺は熱海のイマジナリーフレンドだったんだよ?熱海が思ってることなら、なんでも分かるんだから。ね?」


「…………うん。ふふ、優しいね、足立。そういうとこも、好き」


「……ありがとね、熱海」

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