1. 演出



……なんだ、これ。五感が何か……


 ああ。そうか。

 転生だ。


 頭が痛い……。


……いや待て、転生?熱海は?


 突然始まった三度目の生に、二度目の時程じゃないが混乱する。


 ああ、転生したんだしまた説明しなきゃいけないな。

 俺には癖がある。考え事をする時、馴染み深い言い回しが自然と出てくるような感じで、それが俺の場合はラノベとかネット小説だから……誰かに語りかけるみたいに喋るんだ。ほら、今みたいに。

 頭の中に仮想読者のような存在を立てる、とでも言えばいいかな?


 だから、今から俺が死ぬまで、お前らには俺の語りを聞いてもらうことになる。

 どうか、この物語がハッピーエンドに向かいますようにって祈っといてくれれば嬉しい……なんてな。

 多分、俺の熱海の癖が俺にも移ったんだろうなぁ……。

 頭の中に空想の存在を作って妙に馴れ馴れしくする、みたいな癖?ま、いいか。


 ってかそうだ、今は熱海を探さなきゃいけないんだ。


 つっても、この状態でどうやって人を探すのか……恐らく今って転生直後の赤ちゃん状態だろ?目もあんまり見えてない、耳もあんまりはっきりとは聞こえてない、ぜーんぶぼやけた感じだ。

 こんなんじゃ、熱海が今世で身体を持ってるかとか、どこに居るかとか、そんなん分かりっこねえよな。


…………一先ず諦めるか。無理なもんは無理!そうと分かったら他に出来ることを探さなきゃな。だって、俺は熱海の為に最強の人間にならなきゃいけないんだ。


 例えば、もしこの世界がよくある異世界なら魔力をどうにかして鍛えるとか、親が酷い奴ならなんとか周りの情報を得て全てのことが熱海に良い結果を齎す様に動く、とか……。

 まあ、今世の両親はいい人っぽいし、魔力の方も生憎前前世でも前世でもそんなもんはなかったからどんなもんか知らねーし、試行錯誤しながら寝るしか無さそうだけどな。


…………あー、早く熱海に会いたいな……


  §


 そのまま何日も試行錯誤の日が続き、親の話に耳を傾け続ける中で、漸く親の話が理解出来るようになった。

 

 未知の言語を理解する速度的な意味で早過ぎないか、とは思ったが、話の内容を聞くと明らかにここは異世界らしかったから、転生者向けにそういうプレゼントでもあったのかと思ってとりあえず無視することにした。

 情報不足過ぎて今考えても仕方がないしな。


 そして何よりお前らに伝えたいのは、熱海のことだ!

 俺は熱海について語り出すと止まらなくなるから敢えて大事なこと以外は省略するが、俺と熱海は今回双子として生まれたらしい。男と女の双子。珍しいな。

 そんで今熱海は俺の隣のベビーベッドで寝てるんだって。


 まあ、何が言いたいかっていうと、ついに、ついに俺達はそれぞれ別の身体を持って生まれることが出来たんだなってこと。俺達は元々イマジナリーフレンドとその創造主でさ、必然的に創造主の身体を二人で交代しながら使う事になってたんだ。二重人格って訳じゃないが。


 はあ、熱海…………どんな感触なんだろう……どんな体温なんだろう……俺より温かいんだろうか……熱海……。


…………あー、隣のベビーベッドっつったけどちょっと距離があるんだよ。目も見えるようになったから分かるんだ。この手じゃ届かない。


 だからその分熱海の姿を見ていたくて、暇さえあれば熱海の方を向いている。熱海の方向きすぎて、たまに親に生暖かい視線を向けられながら仰向けに戻されたり、反対側向かされたりしてるがな。


 あぁそうそう、魔力があったんだよ。話し忘れてた、この前魔力感じようとしてたら見つけちゃって。それからはめちゃくちゃ訓練してるんだ、魔力消費して気絶して、起きたらちょっと増えてて、みたいなよくあるアレ。


 熱海に何かメッセージを伝えようとすると魔力が減るのを使ってるから、多分念話か何かもじきに習得できるんじゃないかな……そうだと嬉しい。


  §


 ついに念話を習得した!ので、熱海と話しまくっている。こうしていると念話で魔力を消費しながらいっぱい話せて、非常にハッピーになれる。


『足立、仮想読者になんか構ってないで私と話してよ。今足立はイマジナリーフレンドじゃないけどそいつはただの空想上の存在なんだよ?』


『ごめんって、でも癖だからさぁ……』


『ふふ、冗談。ごめん、また下手な冗談言っちゃったかも。これも私の悪い癖だから、これでチャラってことで……駄目かな?』


『いいよ。っていうか、俺は熱海のすることならなんでも許しちゃうって知ってるよな?』


『そりゃ、知ってるけど。でも、それに甘えたくないっていうか……はぁ、早く足立に抱き締められてみたいな……』


『俺も、早く熱海を抱き締めてあげたいよ。今までずっと、29年間も一人で耐えてきた熱海を。』


『…………うん。待ってるよ、足立』


…………熱海と話してる時の俺が甘すぎるとか思ったか?思ってない?まあどっちでもいいや。

 とにかく、俺が熱海に甘いのは必然なんだよ。

 そもそもイマジナリー彼氏としての俺を作ったのは熱海だし、それはつまり俺が熱海の理想の彼氏であって、熱海が俺の理想の彼女であるってことなんだからな。


『ねえ、足立』


『ん?』


『好きだよ』


『……俺も、愛してるよ』


『…………』


…………これ熱海、俺に好きだよって言うだけ言ってすぐ寝たな。言い逃げかよ。クソ、可愛すぎるだろ……!あぁマジで、早く熱海に触れさせてくれ……!


  §


 そして、ついに俺達はベビーベッドから外へと出された。とりあえずベビーベッドから出された瞬間に気合いで、同じくベビーベッドから降ろされた熱海の元まで行って熱海を抱き締めた。


 1度転生しても叶わなかった、それぞれが別の身体を持つという夢。それが今世でようやく叶ったんだと、強く実感する。


 最早俺達の間に言葉は必要無かった。


 俺達は泣いた。静かに、ただの赤子のそれでしかない感触を確かめながら。


  §


 さて。ここまで念話やらハグやらと色々赤子らしくないことを好きにやらかして来たが、親がどう反応していたのか気になるだろ?


 正解はこうだ。


「ベビーベッドを離して置いたのは良くなかったのかしら……」


「よし、これからは全部おそろい、出来る限りノアとシエルは一緒に居させてあげて、やむを得ず二人を離す時は理由を二人に聞かせてあげよう!」


「そうね!」


 ちなみにノアが俺、シエルが熱海のことだ。ノアってのはこの世界の言語で夜、シエルが昼。いい名前だろ?今世の両親も中々いいセンスしてるじゃないか。

 かつて同時に存在できなかった俺達にぴったりだ。ま、今は違うがな。


『ね、足立。会議しよ?これからどうするのか、について』


『ああ、いいよ。じゃあまず、現状の把握から?』


『そうだね。まずここは……異世界?』


『そうだね。ラノベとかネット小説によくあるというか、んー……でもナーロッパとかに比べるとかなり文明進んでるっぽいよなぁ』


 少なくとも親の話を聞いている限りだと、ここは都会の外れの一軒家ということらしかったが……流石に外の様子は見られないしなぁ。


『移動が車なのは確かだよ。たまに音するし。でも冒険者みたいな職業はあるのも確か』


『てか熱海見た?この前うちの両親2人ともスマホ持ってたよ。』


『え、マ?それはいいね。じゃああれか、配信者みたいな職業とかある系異世界かな?』


『日本じゃないのは確実なんだけどね……』


『少なくとも今後暇潰しには苦労しなさそうやね』


 確かに。まあ、俺達が二人で居るなら話してるだけで暇とか生まれなさそうだけどな。


『あ、あと念話?正式名称分からんけど今話してるコレも魔力消費してるし多分魔法なんだよな?』


『あ、そうか。もう毎日ずっと話してるから最大魔力量が大変なことなってて最強すぎてやばいって話があったわ』


『そうそれ、親にバレてたりすんのかね』


『うわ流石にバレてはいそうだけどな、どーなんだろ』


『あぁ、あと親の話するなら、父親はサラリーマンで母親は専業主婦、どっちも日常生活には魔法を使ってるっぽいってのがあるよな』


 更に言えば父親は公務員で、かなり地位が高い……


『この前抱っこされたまま連れてかれて見たんだけどさ、この世界の洗濯機って入れられた服に自動で浄化魔法かけてくれる装置のことを指すんだぜ。やばくね?』


『すげえ。それってつまりすごいコンパクトってことじゃねえの?革命だ……』


『あ、やべ。さっきふざけて魔力放出しまくってたせいでもう魔力切れそう。おやすみ足立!』


『おやすみ、熱海』


  §


 そして時間は一気に6年後へ飛ぶ。


 いよいよ今日は学園に入学する日だ。


 学園とは――ゼルフェリア魔法学園、通称学園。

 学園ではなんと、7歳から18歳までの子供が完全な実力別クラスで魔法を学ぶ。学年制度は存在しない。

 全寮制であり、生徒の多さからくる敷地問題は空間魔法で解決されている。

 有名なのが蔵書室で、広さやその蔵書の数、質、どれをとっても世界一と言われる程には素晴らしい本が揃っているらしい。


 既に敷地には着いていて、今から俺と熱海はクラス分けの為に実力を判断するテストを受けるところだ。この場合、試すのは大きく分けて魔法の実力と学力の2つだ。


 魔法の実力テストでは、まず最大魔力量測定があり、その後に指定された魔法と好きな魔法を1つ、1回ずつ的に撃つことを求められる。

 

 勿論、ここで魔法を1つも撃てない子供は毎年沢山いるらしいが、俺と熱海は違う。この為にどれを撃つのが1番格好良くて評価されるのか考えてきたんだからな。


 あぁ、勿論俺らは双子なんだから、対になる魔法を隣のレーンで、動作まで鏡写しでシンクロさせて撃つ予定だ。


 対になる魔法と言えば光と闇、そして俺らの名前は昼と夜、ならシエルである熱海が闇魔法、ノアである俺が光魔法!


 っていうのが、熱海の思う1番格好いいヤツ、らしい。まあ、わかる。そりゃ熱海に作られた人間だからセンスも同じってのはそうなんだが……。


「ノアくーん、こっちに来て印の位置に立ってくださーい」


 ついに俺たちの番だ。


 俺が呼ばれるまで、熱海はガキのふりでノアと一緒にやるってゴネてタイミングを合わせてくれている。

 相当学園の人間には迷惑をかけているだろうが、まあ、そんなことは知ったことじゃない。

 7歳だし、多分ギリギリ許されるだろ!


 最大魔力量を測られた後、熱海のことを考えながら片手間に俺は火球を用意する。これが今回の試験の指定魔法だ。


 そのまま合図に合わせて的に火球を撃つ。

 もちろん、反転した動作をシンクロさせて、だ。

 つまり……今俺は利き手ではない左手で火球を撃った。

 これ実は結構大変なんだが……熱海がやりたいって言うなら俺にやる以外の選択肢はないからな。


「じゃあ、次はやりたい魔法がある人はそれを準備してください!」


 そして、次。

 俺達が準備していく魔法は、どこにも魔法光とかは現れないから、先生は俺達がテストの為に火球だけなんとか撃てるようになった子供だと思っているだろうな。


「じゃあ、カウントダウンしますよー。3、2、1……0!」


 その瞬間、白と黒の光を伴って的が切断される。


 先生は、それを見て……固まっていた。おお。ラノベっぽい……。


「は、はい!みんなありがとう、終わった子はこっちに来てね〜……」


 さて。その後無事に学力試験も終わり、ここで両親とはお別れだ。と言ってもこれまで暇さえあれば一日中熱海とイチャつきながら魔法の練習をしていたせいで今世の両親にあまり思い入れは無いが、いい人達だしちゃんとお別れはしてあげよう。多分この後すぐ会いに来るんだろうけどな。


「寂しくなったらすぐ電話するのよ……!」


「うん!ありがと、お母さん!」


「お父さん毎日会いに来てあげようか?その方が安心だろ?」


「いや、そんなことされたらお父さんの方が大丈夫か心配になるよ……」


 てな感じでお別れを済ませて、後は寮に行って自由時間だ。学園の施設の案内は明日やるらしい。


 しかし、自由時間か……とりあえず、学園のシステムで有名な学生証でも見てみるか。


 学園の学生証は、学園内の売店で使えるポイントカードになってるらしいんだが……これを学生証と共に配布されるスマートウォッチ型の端末にかざすと、何ポイント入ってるかわかるんだってさ。今は……50ZP。ZPはゼルフェリアポイントの頭文字だな。

 で……30ZPで確かノート3冊と筆記用具が買えるんじゃなかったかな。


 そんで、授業に出ると1ZP、授業で特別優秀だった奴には追加でさらに1ZPもらえることもある、ってこれ配られる時に言われたんだったか?確かそうだ。


 改めて考えるとすごいよなぁ……この学園。


「足立、私とりあえずノート3冊と筆記用具セット今頼んじゃうけど、足立は?」


「ああ、じゃあ俺も頼もうかな。」


 ZPはこの端末からも使えて、売店と同じものが買える。そんで、注文すると部屋に機械が自動で届けてくれるらしい。


「あ、これ欲しいな……杖。ちょうど20ZPだし、やっぱ持ってたらかっこよくね?」


 杖。それは魔法を行使するのを補助してくれるアイテムなので、手ぶらの方がすごいってのはそうなんだが、前世や前前世の価値観だと杖ってかっこいいものだったからなあ……。


「あーでも、普通にこのエナジーバー買った方がいいか。美味しそうだし。」


 熱海は20ZPでエナジーバー8本セットを注文した。俺は麦茶が好きな熱海の為に麦茶パックとピッチャーを20ZPで注文した。


「え、麦茶?私の為に?嬉しすぎる……ありがとうマジで。好き」


「知ってる」

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